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第27話 

「アデレード様っ!ジョルジュ!」

「……ま、待って、ヘルガ!」


 必死にヘルガの事を追いかけるけど、体格の差もあって彼女の方が足が速くて……どんどん距離が話されて行く。

けど幸いな事に、彼女の声に気付いた護衛騎士がテントからけげんな表情を浮かべて出てくる。


「ヘルガ……そんな大声を出してどうした?」

「あなたに用はないです、至急アデレード様と護衛騎士隊長代理のジョルジュを呼んでください」

「お前なぁ……いきなり来て、アデレード様とジョルジュを呼べとか急すぎだろ……俺達が今何をしてるのか分かってるのか?」

「勿論分かっています、ただ……その事で重大な事に気付いたかもしれないので、直ぐにでも報告をしなければ」


 二人がテントの前でやり取りをしてくれている間に、何とか追い付いたのはいいけど、あんまり良い状況ではなさそう。


「それが本当に重大な事かどうかは、俺が判断して決めるからここで言ってみろ」

「……あなた、もしかして斬られたいの?」

「い、いくらおまえがリバスト護衛騎士隊長のお気に入りだったからって、何時までも平民出の女が偉そうに出来るとはおも……ちょ、おま……まっ!まてっ!」

「平民出身だからってあなたに馬鹿にされる理由は無いですし、あなたのような方が騎士としてピュガトワール家に仕えている事が恥ずかしくてありません」


 ヘルガを睨みつけていた護衛騎士が私の前で宙を舞う。

一瞬何が起きたのか理解が出来なくて唖然としてしまうけれど、そのままテントの前まで吹き飛ばされ気を失ったのを見てハッとする。


「ヘ、ヘルガ、あなた何をしているの!?」

「何ってマリス様、騎士として恥ずべき行動をした者を罰しただけなのでお気になさらないでください」

「くださいって言っても……」

「私はそこまで頭が良くないですから、なので考えて動いて後手に回ってしまう前に、自分の思うように動いて見ました」


 そう言って私の事を見るヘルガは何処か誇らしげで……


「だって、これがリバストが望んだ私の在り方ですから」


 けど何処か寂し気に笑う。

そんな彼女に対して、先程の行動を咎める事が出来るわけがない……だってヘルガは、彼女なりに自分の役割を遂行しようとしているのだから。


「……さぁ、邪魔者はいなくなりましたから行きましょう」

「え、あ……うん」

「……?マリス様?」


 でもここで私が何かを言わなかったら、ヘルガは何度も思うように動いて今のような事をしてしまうかもしれない。

もしそうなってしまったら、無事に今回の問題が片付いて王都に到着した後の事を考えたら不安だ。

アーロもいるから大丈夫だとは思うけど、もしもの事を考えたら咎めるとまではいかないけど、一応何かしらの注意はした方がいい気がする。


「ねぇヘルガ?」

「……はい?どうかしましたか?」

「えぇ……出来れば次に同じような事をする時は、私に指示を求めてくれないかしら」

「……マリス様?」


 ヘルガがどうして?って言いたげな表情をした後に、私の前に立って屈んで目線を合わせてくれる。


「あのね?ヘルガ」

「……はい」

「あなたは学園にも一緒に来てくれるんでしょう?だから……学園でも同じような事が起きたら困るの、だって私の付き人の一人が暴行で咎められて処刑されるような事があったらと思うと……」

「……なるほど、分かりました」


 私の言葉を聞いたヘルガが優しく微笑みながら姿勢を正す。

そして胸に手を当てて真剣な表情を浮かべると


「私はピュルガトワール領の騎士ヘルガ、マリウス様及び次代の領主でありこれから先仕えるべき主人となるマリス様を守る為の剣であり盾でもあります」

「……うん」

「なので……うーん、こういう時どう言う風に話せばいいのかリバストにちゃんと教わっておけば良かったですね、形式上の挨拶しか分からないので、ここから先はアドリブになってしまいますけど……、マリス様が私を心配して申し上げて頂いているのは分かりました、なので……あぁ、えっと?私ヘルガは、あなた様の考えを尊重しこの旅では護衛騎士として、学園に着いてからは一人のあなたの騎士として仕えさせて頂きます」


 そう言葉にしながら私の手を握るとキスをする。


「……多分、色々とやり方は間違ってるとは思いますが、ジョルジュが以前言ってました、親密な関係になりたい相手にはお互いに手を握り合って手にキスをするんだと、だからこれは私からの忠誠の証です」

「え、あっ……そう、えっとありがとう」

「……?マリスどうしたのですか?顔が真っ赤ですよ?」 

「あ、いえ、何でもないの、けどそうね、ここでこんなやり取りをしている暇なんて今思うと無かったわ、早くお母様達にヘルガの考えを伝えまに行きしょう?」

「え?あ、そうですね、すいません一瞬ですが忘れておりました」


 私の記憶違いでなければ、男性が女性と手を握り合って手にキスするのは恋人同士がする愛情表現だった筈。

そう思うとやっぱり……護衛騎士隊長代理になったジョルジュはヘルガの事を異性として見ているって事で、さっきの行動の意味を考えれば考える程、何だか恥ずかしくなってしまって、顔が燃えるように熱くなってしまった。



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