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第26話

 会議が陽が暮れて後も続いて、リバスト護衛騎士隊長達の亡骸を明日から探す事になって会議は終わり、それぞれが持ち場に戻る。

そうしてこの場に残された私達は再び小屋で休む事になったけど……、お母様もここで一緒に一晩を過ごすのかと思っていたら、セレスティアの様子を見たいという事で、護衛の騎士を数人連れてにテントへと向かってしまい、夜間の護衛を再びアーロとヘルガに任せて眠りにつく事になった。


「……マリス様」

「えぇ、分かってるわ」


 そうして以前の会議の後から二日が経過したけれど、朝霧に包まれた野営地は何やら不穏な空気が充満している。

いったい何があったのかと思い、ヘルガと共に小屋を出て周囲を見渡すと、直ぐ近くに護衛騎士達が険しい表情を浮かべて立ち話をしているのが見えた。


「なぁ、聞いたか?リバスト護衛騎士隊長達の亡骸を探しに行った奴等の事」

「聞いた聞いた、一人は行方不明で二人は錯乱状態で……」

「あぁ……、辛うじて無事だった奴が助けを求めに来たおかげで全滅は免れたけど……」


 隣にいるヘルガが、心配そうに私の事を見るけど今は反応出来そうに無い。

リバスト達の死体を探索しに行って、錯乱状態に陥った護衛騎士の事が気になるのもそうだけど……


「ねぇヘルガ、助けを求めに来た護衛騎士は何処にいるのか分かる?」

「……それでしたら、中央に新たに建てられた作戦会議用の大型テントにいます」

「分かったわ、それなら……アーロ、悪いのだけれどシルヴァ様の面倒を見て貰ってもいいかしら」


 小屋の方を振り返り、私の使用人兼護衛として朝食の準備を始めていたアーロに声を掛ける。


「ん?あ、あぁ、それはいいけど、朝飯は食べていかな……いんですか?」

「えぇ、申し訳ないけれど今日はいいわ……、だからそうね、ちょっと量が多いかもしれないけど、シルヴァ様と一緒に食べて待っててちょうだい」

「……分かりました、ヘルガさんっ!マリス様の事をお願いします」

「えぇ、任されたわ」


 とは言うものの……シルヴァ王子と二人きりにして大丈夫だろうか。

彼が護衛騎士の事を知ったら、アーロの制止を振り切って小屋を出て行ってしまいそうで不安になる。

それなら一緒に行った方がいいかもしれないけど、大人数で押しかけても邪魔になるだろうから、そうならない事を祈るしかない。


「ねぇヘルガ、あなたは探しに行った人達の事どう思う?」

「……どう思うとは?」

「ピュルガトワール領の騎士は、対人戦闘よりもモンスターとの戦闘に重きを置いているでしょ?」

「……えぇ、けどそれがどうしたのですか?」

「いえ……んー、あのね?ちょっとだけ思う事があるの」


 野営地の中央に向かいながらどう伝えればいいのか考えてみる。

今回の護衛任務で隊長の役職を得る程に、優秀な実力を持つリバストが行商人の中から出て来た蜘蛛に負けるような事があるのだろうか。

それに他の護衛騎士の人達に関しても、ヘルガやジョルジュ然りお父様の事だから騎士の中でも選りすぐりの実力者を護衛として着けてくれたのだと思う。

だから……いえ、だからこそ違和感を感じる事が多い、そんな対モンスターに特化した騎士達が正気を失うような事があるのだろうか。


「……あのねヘルガ?今から言う事を笑わないで聞いて貰える?」

「え?何をお話になさるのか分かりませんが、そのような事はしませんよ?」

「ありがとう、それじゃあ……あのね?リバスト達の事なんだけど──」


 ヘルガが笑わないで聞いてくれるのなら、上手く伝えられなくてもいいから考えてみた事を全部話してみよう。

そう思って伝えてみると、興味深げな表情を浮かべて足を止めて……


「マリス様、どうして私達はそのようなことに気付けなかったのでしょうか」

「……え?」

「確かに私達はこの国において、対モンスターの専門家と言っても過言ではありません、それなのにたかがモンスター一匹に後れを取る訳が無い」


 ヘルガは直感的に動く事が多いけれど、平民出の騎士とは信じられないくらいに頭の回転がしっかりしている。

だから……この説明をすれば、死に戻りの事を後で小屋に戻って彼女に伝えたり、魔族の【飢餓のリプカ】との遭遇した際の出来事に関して話すという、リスクを冒さなくても答えに辿り着いてくれるかもしれない。


「という事はつまり……この一連の出来事には何者かの介入が?」

「……えぇ、ありえると思うの、街を出る際の私とお母様のやり取りを思い出して?」

「確か……馬車で街を出る前に、嫌な魔力を持っている特徴的な帽子を被ったピンク色の髪をした幼い女の子でしたっけ」

「えぇ……、もしその子が私達に悪意を持って近づいて、リバスト達に危害を加えたのだとしたら?」

「……そんな、お二人が見たのは幼い女の子なのですよね?そんな年頃の子が、そのような事が出来るわけ」


 やっぱり頭の回転は悪くない。

ちょっと思考の方向性を誘導してあげればこうやって、正解に近い答えに辿り着いてくれる。

……もしかしたらだけど、リバストが眼を付けてお父様とドニに話を通して彼女を従騎士にしたのは、ヘルガのそういうところに才能を見出したからなのかも。


「……もし、見た目通りの年齢じゃなかったら?」

「そんな事が?……見た目通りの年齢では無くて、嫌な魔力、それだと……いや、でも、まさかっ!」


 何かに気付いたような表情を浮かべて私の方を見る。

そしていきなり屈んだかと思うと、私の腰と脚に手を添えて勢いよく抱き上げ。


「ヘ、ヘルガ!?」

「マリス様、いきなり申し訳ございません……後でアデレード様からお叱りは受けるので、今は急いで会議用のテントに向かいましょう!」

「え?ちょ、ちょっとヘルガ!?」

「舌を噛んでしまうので閉じていてください!」

「……え?え!?まっ──」


 ヘルガが全身に魔力を流して身体能力を強化すると、私の返事を待たずにテントへと向かい走り出した。

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