部屋に案内されるとそれぞれが用意された椅子に座る。
けど……どうしてか、シルヴァ王子が私の隣に来て……
「あの、シルヴァ様?」
「……ん?もしかして嫌だったかな」
「いえ、単純にどうして隣に来るのか気になってしまいまして……」
そんなどうしてそんな事を聞くのかと言いたげな表情をされても、こっちの方が困ってしまう。
私は一番最初の人生と同じような事にならないように、出来れば距離を取りたいのにこれじゃあ離れる事が出来ない。
これに関しては私の独りよがりな行動だから、察して欲しいと思うのはお門違いだ。
けど……やっぱり意識はしてしまうし、あの時に戻ったようなそんな気がして気持ちが落ち着かなくて……。
「マリス?何をもじもじしているの?これから話し合いをするのだからしっかりなさい」
「あ……お、お母様ごめんなさい、ちゃんと集中します」
「……もしかして俺のせいかな」
「いえ、その……そんなんじゃ」
申し訳なさそうな表情を浮かべてシルヴァ王子がこちらを見る。
その姿を見て申し訳ない気持ちになるけれど、何て言葉にすればいいのか分からなくなってしまい、上手く口が回らずに声にならない声しか出ない。
「……マリス?あなた本当に大丈夫?」
「あ、え……は」
「アデレード様、申し訳ございません、あなた様のご息女であられるピュルガトワール辺境伯令嬢のマリス様に大変失礼な事をしてしまったようで……、彼女の行動は全て私の責任です」
シルヴァ王子が真剣な顔をしながら椅子から立ち上がると、お母様に向かって頭を下げる。
そして席を変わって貰うために、近くに座っている騎士のところに行こうとしているのだろう、彼の袖を咄嗟に掴んでしまう。
「……マリス?」
「へぇ……なるほど、マリスあなた」
「え、こ、これはちがく、て」
「ふふ、恥ずかしがらなくていいわ、けどねぇ……シルヴァ王子がねぇ」
面白いものを見るかのようにお母様が眼を細めると、シルヴァ王子に座るように促す。
それに従い再び私の隣の椅子に腰を下ろすと、私を見て不思議そうな表情を浮かべる。
「アデレード様、私とマリスがどうかしたのですか?」
「いえ、身分的にも問題無いとは言え、ピュルガトワール領の跡取りが居なくなるのは困るわねぇって思ってるだけよ?」
「お、お母様!?」
「……?」
「シルヴァ王子は分かっていないみたいだけど、マリスはどうやら満更でもないみたいね……、これはそうね、あなた達を学園に送り届けたら王都の別邸に滞在してマリウスに手紙を書かないといけないわね」
お母様が嬉しそうにそう言葉にするけれど、お父様に私とシルヴァ王子の事をどういう風に伝えるつもりなのか。
内容次第では領地の運営を放置して、王都に空間魔術で飛んで来るかもしれないと思うと、何だか胃が痛くなりそう。
だって、今も席についた護衛騎士達が微笑ましそうに私達を見ているし、それだけでも顔から火が出そうなくらい恥ずかしいのに、お父様まで来たらとなると死んでしまいそうだもの。
「……えっと、マリス?とりあえずその手を放して貰っていいかな」
「え、あ……はい、ごめんなさい」
「謝らなくていいよ、ただ……うん、会ったばかりの俺が言うのもなんだけど、最初は真面目で頭が良さそうな雰囲気があったけど、同じ位に可愛らしいところがあるんだね」
「……っ!お、お母様!話し合いを早くしましょう!」
「ふふ……えぇ、そうしましょうか、ではジョルジュ、お願いするわ」
油断をすると直ぐそんな事を言う……、シルヴァ王子は気に入った相手には思った事を何でも口にする悪い癖があるのだから気を付けて欲しい。
このままだと話し合いの再開が出来そうに無いから、強引に流れを戻すけど大丈夫だろうかと心配になってしまう。
会議中も変な事を言わなければいいのだけれど……。
「ハッ!では話し合いの続きなのですが、この後は予定を変更し数日の間リバスト護衛騎士隊長及び同行した護衛騎士の亡骸の捜索を行いたいのですが……よろしいでしょうか」
「……許すわ、学園に無事に着くのならあなた達の好きになさい、とマリウスがここにいたらそう言うでしょう、マリスもそれでいい?」
「はい、私も構いません、残された家族に身体の一部であれど届けてあげた方がいいと思うので」
「……ありがとうございます」
護衛騎士達が椅子から立ち上がると、従騎士を含めた全員が頭を深く下げる。
「そしてシルヴァ王子においては、セレスティア王女の事が気になると思うのですが、我々が責任を持って王都まで護衛致しますので、どうかしばしの間王都に行くのをお待ちして頂けますか?」
「俺も構わないよ、ただそうだね、セレスティアの……妹の様態を確認してもいいかな」
「それは構いません、ですが……奴隷契約の影響で主人の命令が無ければ目を覚ます事は無いと思われるので、どうか無理に動かすなどはなさらないで頂けると助かります」
「……分かった、けどもどかしいものだね、小屋の中に奴隷契約の書類があるのに何も出来ない何て」
「ご理解の程ありがとうございます、奴隷契約の書類に関してはヘルガより聞いておりますが、マリス様が嫌な予感がするとの事ですし、ピュルガトワール家の血統魔法の効果である可能性がある以上は我慢して頂けるとこちらとしても……、ご存じでは無いと思うのですが──」
ジョルジュがピュルガトワール家の血統魔法について詳しく説明すると、納得が行ったかのようにシルヴァ王子が頷く。
そうしてリバスト護衛騎士隊長達の亡骸を探す期間を決めたり等、色々と細かいやりとりをしている内に、気が付いたら陽が沈みかけていた。