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第22話

 お母様達が真剣な顔をして話し合いをしている光景を見て、シルヴァ王子の話をするタイミングではないと感じる。

これは少しばかり間を開けたほうが良さそうで……


「あら?マリス、そんなところでどうかしたのかしら?」

「え、そ、その……お母様にお話があったのですけれど、今お忙しそうなので」

「確かに忙しいけれど、別に構わないわ」


 構わないとは言うけれど、どう見ても凄い大事そうな話をしている訳で、さすがに邪魔をするのは良くない。

でも……お母様が私の方を向いて、話を聞いてくれる姿勢を取ってくれているから、ここで話をしないのは逆に失礼になってしまう。


「お母様ありがとうございます」

「いいのよ、さぁあなた達話し合いは、いったんここで休憩にして1時間後に再開しましょう」

「は、了解致しました!」


 お母様の指示に従い、護衛騎士達が各々の持ち場に戻ろうとする。

けれどただ一人、困ったような表情を浮かべたヘルガだけが、私のそばに来ないで何故かその場に残り……


「あの……アデレード様、話し合いの内容をマリス様にもお伝えした方が良いと思うのですが……」

「……そうね、けどその話は後でも話せるだろうから問題無いわ」

「わかりました、でしたらマリス様のお話が済んだ後に、情報の共有の程よろしくお願いいたします」

「えぇ、ヘルガ……あなた、リバスト護衛騎士隊長から暴れ馬よりもじゃじゃ馬で、いくつになっても手が付けられないとは、屋敷で何どか聞いた事があるけど、思いの外知的なのね」

「……その言葉に対して思う事はありますが、騎士である以上、然るべき時に判断を間違えないようにするべきだと思っておりますので」


 ヘルガのそういうところは本当に凄いとは思うけど、暴れ馬よりもじゃじゃ馬とはどういう意味なのか。

私の隣にいるアーロも言葉の意味が分かっていないようで、難しい顔をしてしまっている。

だって、暴れ馬とじゃじゃ馬って同じ意味のように聞こえるし……でも、この場合は、んー考えれば考える程分からなくなりそう。


「ほんと……、そういうところあなたの父であるドニに似ているわね」

「ふふ、ありがとうございます」

「別に褒めてないのだけど……ほんと、親子そろって扱い辛いわね……まぁいいわ、あなたはマリスの護衛に戻りなさい」

「は、承知致しました」


 そうしてヘルガが私の隣に立つと、一瞬怪訝な顔をする。

いったいどうしたのだろうかと思って、視線の先を追ってみるとそこには反応に困ったような表情をしているシルヴァ王子がいた。

たぶん……私の予想になってしまうけれど、少し目を離した隙に見知らぬ男がいる事が気に入らないのかもしれない。

お母様も同じようで、彼の事を鋭い目つきで睨むように見ると、ゆっくりと口を開く。


「それで?お話というのはそちらにいる、昨晩私が休んでいる時に保護したという子の事かしら」

「はい、彼は──」

「いや、自己紹介が自分でやるよ……、辺境のピュルガトワール領を治める剣、マリウス・ルイ・ピュルガトワールの心の鞘でおられる、アデレード・レネ・ピュルガトワール様にご挨拶を申し上げます」


 シルヴァが頭を下げながらそう言葉にすると、ゆっくりを姿勢を正す。

その姿を見た、お母様が面白い物を見るように目を細めながら扇で顔を隠す仕草をする。


「へぇ……、子供の割には礼儀正しいじゃない、で?あなたは誰なのかしら?」

「私は、この国の第三王子シルヴァ・グラム・ファータイルと申します……」


 そしてシルヴァ王子の名前を聞いた瞬間に、更に面白そうに眼を細めて


「見覚えがある顔立ちだから、まさかとは思っていたけど……やっぱりあの無能な王の子なのね」

「む、むのう!?お母様、この国の王を王族の前で悪く言うのは──」

「普通ならその場で首を落とされてもしょうがないでしょうね、けどあなた達に分かるように説明すると外国から攻められても、『話せば分かり合える』とか『話し合いで解決するべきだ』何て事ばかりで自国を守ろうとしないで、を求めたら無償で差し出す?これを無能と言わずして何て言うのかしら?」

「それに関してはこの国が平和だから、戦う力が必要無いだけで……」

「どうやらシルヴァ王子も、無能の気質を引いているようね、考えても見なさい、あなたに戦う力が無いばかりに、ここまで護ってくれていた護衛はどうなったのかしら?」


 と感情の乗ってない冷たい声で淡々と彼に話しかける。

この状況はさすがに良くないと思って、シルヴァ王子を庇おうと前に出ようとするけど、お母様がこちらを鋭く睨みつけて来て、脚が竦んでしまったのが上手く動けない。


「……それは」

「野盗に襲われてあなた以外全滅したのでしょう?それはあなたが弱くて、更にはこの国の王が役割を完璧に遂行出来てないからそうなっているのよ、国を治める事が出来ないのなら、さっさと世代交代でもしたほうがましね」

「ア、アデレード様、シルヴァは仲間が全員死んだけど、攫われて奴隷にされた妹を助けるために身分を隠してまでここまで来たんだ……です!それなのにそんな言い方しなくてもっ!」

「アーロと言ったわね、正式な騎士にもなっていない平民は黙っていなさい!マリス、あなたこの従者の教育がなっていないわよ!後で厳しくしつけておきなさい……、でないといくらあなたの大事な従者で将来の護衛騎士だったとしても、首を落とすわよ」


 確かにお母様の言うように、今この場を会話で支配しているのはこの国の王子と領地を守る貴族の妻の二人だ。

だから本来ならば、平民のアーロを口を挟んだ瞬間にその場を首を落とし亡骸を何処かに捨てられても文句は言えない。


「お母様、申し訳ございません」

「アデレード様、申し訳ございません!」

「謝罪が出来るのなら今回は許してあげる……、で?シルヴァ王子と言ったかしら?妹のセレスティア第三王女を助ける為に身分を隠して、このピュルガトワール領まで来たという事だけれど、……それで?私とマリスにあなたは何をして欲しいのかしら」

「……それは、王都までの旅路に同行させて貰えたらと思いまして」

「ふーん、それだけなの……?そう、なら私の答えは一つよ、私の娘、マリスが決めたなら、私はそれに従わせて貰うわ、だから勝手になさい」


 お母様はそう言葉にすると、扇を閉じて顔を隠すのを止める。

そして私の方へと近づくと……


「さて、これでシルヴァ王子の件で終わったわよね?……これから、リバスト護衛騎士隊長達の失踪についての件で情報共有をしたいのだけれど、色々と厳しい事を二人に言ってしまったし大丈夫かしら?、無理なら時間を置くわよ?」


 と心配げな表情を浮かべて私とシルヴァ王子の顔を覗き込むのだった。

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