「さて、二人とも。もうそろそろ寝なくていいのか?」
「え? あー、そうだな。確かにそろそろ寝ないとかも」
数時間後。時刻は午後十一時前。
すみれと打ち解け、テンションの上がった幽霊主導でしばらくゲームをしているとあっという間に時間は過ぎていた。
格闘ゲームにレースゲーム、パーティーゲーム等々。重度のゲーマーである卓が飽きるたびに太一が押し付けられていたゲームを、何個も繰り返した。
運ゲー要素がほとんどのパーティーゲームでは幽霊が謎の無双を見せたり、意外にもすみれが格闘ゲームの中だとボコボコにされていたり。各々が得意不得意を見せながら、それなりに楽しい時間を過ごしたのである。
だが、一晩中そうしているわけにもいかない。太一は夏休み前でもうそろそろテスト勉強を始めなければいけない時期が始まるし、明日も普通に講義がある。すみれだって元々今日ここに泊まったのは明日の仕事の用事がこの近くだったからだ。明日は昼前にはここを出なければならない。幽霊は……
「えぇ、まだまだ私は元気ですよ?」
「幽霊さんは一番寝ないとダメです。夜更かしは不健康の元ですからね!」
「お母さんかお前は」
幽霊は、太一に夜ふかしを許してはもらえない。とは言え、いつもは一番早く潰れるのでこんな会話になることなどないのだが。
「じゃあ、そろそろゲームは仕舞って布団を引きましょうか。……って、姉ちゃんはどうしよう」
普段、幽霊が寝ているのは来客用に用意されていた布団である。太一はベッドがあるからいいとして、この家に布団はその一枚しか無い。
「ん? ああ、私なら幽霊ちゃんと同じ布団で寝るから気にするな」
「えっ!? 二人で一つのお布団ですか!?」
「む。幽霊ちゃんは嫌か?」
「うーん、嫌ってわけではないんですが……」
太一としても、すみれと幽霊を二人きりで密着させるのは本意ではない。が、姉を床で雑魚寝させるというのもどこか罪悪感がある。
せめて幽霊がもっと強く嫌だという意志を示してくれればよかったのだが、案外そういうわけでもないらしいその雰囲気を見て、太一は大人しく諦めた。
「幽霊さん、もし幽霊さんさえ良ければお願いしてもいいですか? 流石に俺が姉ちゃんと一つのベッドでってわけにもいかないですし」
「お? 私は別に太一と寝てもいいぞ。……あ、寝るっていうのはそういう意味じゃないからな。いくら私が美人すぎると言っても実の姉弟で一線を超えるのは────」
「外で寝たいのか? お?」
せっかく珍しく協力してやっているというのにこの姉は。いい意味でも悪い意味でも平常運転すぎて怖いものだ。
「ま、まあまあ。喧嘩しないでください。分かりました、私がすみれさんと一緒のお布団で寝ます!」
結果的に幽霊に選択を急がせてしまった気がして少し申し訳なくなった太一だったが、せっかくそう言ってもらえたので姉を預けることにした。
まあ一枚の布団、と言ってもそれなりに大きいサイズのものなので、すみれと幽霊の二人で入っても充分余裕はあるだろう。
あとはすみれのセクハラだけが気掛かりだが、お風呂で裸の付き合いをしておきながら幽霊に無理やり迫ったりして泣かさなかったことを考慮して、太一は何も言わない。
「よし、幽霊さんはゲームを片付けておいてください。俺は布団を持ってきますので。姉ちゃんは────」
「任せろ。太一のベッドに腰掛けて漫画を読んでおく係だな!」
「ちっげぇよ。机を端の壁に立てかけてどけといてくれ。いい加減それくらいは仕事しやがれこの野郎」
「むぅ……。分かったよ。幽霊ちゃんと一緒に寝るためだからな。少しくらいは私も動くとしよう」
大きくのびをして、敷いていた座布団を太一のベッドの上に上げてからすみれは立ち上がる。本当に動くのかと怪しんでいた太一はそこまでの動きを見てから、リビングを離れて布団のある押し入れへと向かった。