「あ、お帰りなさい幽霊さん。ちゃんと髪乾かしてもらいましたか?」
「はい! おかげさまでサラサラになりましたよー!」
すみれとの脱衣所での会話が終わり、ドライヤーも終了したところで太一の元へと戻った幽霊は、リビングにいた太一の元へと駆け寄る。
可愛らしいくまっこ衣装を脱いだ彼女が今着ているのは、無字の黒ジャージ。可愛いとは言い難いあまりにシンプルな格好だが、結局太一の無数のお古の中から着ることができたのは、この二種類だけだったのである。
「姉ちゃんに変なことされませんでしたか? お風呂でその、触られたりとか」
「変だなんてとんでもないです! とても丁寧に洗ってくれて、最高に気持ちよかったんですから!!」
「ほえ、マジですか。まあそれならよかったです……」
丁寧に洗ってくれた、か。もっと具体的にお風呂の中の出来事を聞きたいものだが、あまり聞きすぎるとセクハラまがいな質問になって嫌がられかねない。
やむを得ず、それ以上聞くのはやめた。
「全く、何が『マジですか』だ。太一は私のことをそんなに信用していなかったのか?」
「いやいや、半泣きで嫌がって叫んでた幽霊さんを無理やり連行しておいてよくそんな事言えるな」
「それを止めなかったのはお前だぞ、弟よ」
このまま突っかかっていくと写真の件をバラしかねないので、太一はため息を吐くだけで反論をしない。これはある意味、弱みを握られているにも等しい状態なのだ。まあ、本当にすみれが写真を用意してくれているのかは五分五分だろうと、あまり期待はしていないのだが。
と、無駄な口論はやめて目の前の幽霊の頭をヨシヨシし始めたところで。ズボンのポケットの中に入れていたスマホが振動する。
(ん、誰だ?)
スマホを取り出し、電源をつけてロック画面を表示すると、そこには一件の通知。送信元は……すみれの携帯である。
『姉ちゃんさんから、画像が送信されました』
画面から目線を逸らして頭を上げると、すみれが幽霊の背後で無言で頷く。このタイミングで画像送信ということは、つまりはそういうことだ。
(弟よ、例のブツだ。上物だから特と味わうといい)
(姉ちゃん……っ!!)
姉弟独自のアイコンタクト会話を交わして、幽霊からは見えない角度でスマホのロックを開く。
そして送られてきた画像を、読み込んだ。
(ッッッぁ!?!?)
白いサラシと白いパンツ。純白の防御力皆無な布に身を包んだ、下着姿の幽霊。それも、羞恥に頰を赤く染めて、解けかけているサラシを必死で抑えてギリギリ局部を隠している状態の画像。
思わず、太一は叫びそうになった。局部は写っていないものの、逆に写っていないことで恥じらいの姿をよく認識できる。ある意味、普通の裸よりも……フェチに刺さった。
すみれのことだ。忘れていたとか適当なことを言って逃げるものだとばかり思っていた。だが、実際はどうだ。キチンと物を用意したうえにその出来は極上ときた。姉ということもあってか、好みをよく熟知している。
────流石、としか言いようがない。
「……姉ちゃん、俺初めて姉ちゃんが姉ちゃんで良かったって思えた。ありがとう」
「おいちょっと待て。お前今サラッととんでもないことを言わなかったか?」
「太一さん……? わっ、泣いてる!?」
感動と幽霊の写真のあまりの可愛さに目から一滴の涙をこぼしながら、太一は画像を『家宝』フォルダへと保存した。