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19 ロマンス小説は復讐の種

「君そう言えば、こちらに来てから結構ロマンス小説とか買い込んでないかい?」

「いえまあ、やはり三巻本とか面白くて」

「お嬢様がそんなものに夢中になるとは……」


 スペンサーは何やらさめざめと泣いてしまいそうです。

 ギルバート様もフレクハイトさんもその辺りは面白がりの様です。


「スペンサーさん、貴方だってミステリーが好きでしょう? 誰だって謎は好きなものだよ」


 ぽんぽん、とギルバート様はスペンサーの肩を叩きます。


「謎?」

「そう。愛は永遠の謎だって言うじゃないか!」


 少しばかりスペンサーの表情がしらっとしました。

 そうそう、そのくらいなものです。


「それに、ロゼマリアは元々そういうものが好きなんですよ」


 成る程、とスペンサーは納得したようでした。

 いえ、まあ私自身もロマンス小説の三巻本、好きですけどね。

 ただロゼマリアは、枕元に置いて、寝る間際に見る方なのです。

 新しい本が来たら、もうわくわくして寝床で延々眠くなるまで読んで朝寝坊するということがよくありました。

 でしたら。



 お母様の服のある部屋の中に、メイド用の服も置いてあります。

 まあこれは元々は深い意味は無かったのです。

 色んな衣類を一気にナタリーと一緒に運んだ時に紛れ込んだというか。

 でもこういう時に役立ちますね。

 私はメイドの格好でささっ、と部屋に入り、何冊か新しい本をロゼマリアの部屋に置きました。

 新しい本が届いたら部屋に置いておいて、とよく彼女はメイド達に言ってましたから。

 それ以外にも、面白そうなものを街で見つけたら持ってきなさい、とも。

 さてそこで私が選んだのは、街の本屋でも厳選したある本です。


 とある貴族の家に後妻としてやってきた美しい女性。←ここがミソです。

 前妻の死によって迎えられた彼女は、可愛い子供もできて、幸せな日々を送っていたはずだった。

 だけどある時から、それまで自分に好意的だった使用人達が何やら自分の居ないところでひそひそと噂話をし始める。

 聞いてもなかなか答えない。

 そしてある日彼女は、館の中で前妻の幽霊を見る。

 だが誰も信じない。

 回数は増えて行くのに、誰も信じてくれない。

 夫もメイドも誰も。

 むしろメイド達は、今までより更にひそひそと話し出す……

 そして夫に問い詰めるのだが……


 といった内容です。

 さてこういう内容のさくさく読める本を置いておいたなら、私のしようとすることはまあ、おわかりになるでしょう。

 そう、幽霊に扮装しようと思うのです。

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