さてそれからは、付け足しの様なものです。
私は宣言通り、この家を国に寄付し、救貧院として使うことにしました。
そして私自身、そこの一員として住み込んだまま、働くこととしました。
規模がそれまでより大きくなったので、専門の会計士としてギルバート様には居ていただくことになりました。
私達は、事件の三年後に結婚しました。
ナタリーはこの家を使って、メイド教育を思う存分できる、と言っています。
この家を管理すること自体が、メイドとしての教育となるというのです。
なるほど、と私は思いました。
スペンサーも男性使用人の教育ができる、と言っていました。
銀食器の扱いなどは、それなりに訓練が必要です。
それはコックやその他の職についても同様です。
こういう大きな家を管理するための、モデルとなる場所そのものに、私のこの家は役立ってくれることとなったのです。
ちなみに。
父は、国境近くまで連れて行かれた後放り出されたそうです。
身につけていたものまで没収された訳ではなさげなので、少しの間は宝石だの指輪だの売ってしのいだかもしれません。
ですが、おそらくはその後野垂れ死にのルートをたどることでしょう。
どうしてあれだけちゃんとお膳立てされた場所を食い潰せるのでしょう。
私はお祖父様を敬愛してますが、婿を見る目だけは無かったと思っています。
だからこそ、そういうものを決められる前に、私は私の好きな人をさっぱりと宣言したのです。
ロゼマリアは世界が幾つにも見える様な病気にかかったまま、何年か治療を続けていた様ですが、ある日病院の外にふらっと出たきり居なくなったそうです。
アリシアは止めど無い食欲と戦う意思も無くした今、運ばれる食事だけを楽しみに生きているそうです。
父以外の二人にしたことは、正直自分自身でも胸糞悪いと思います。
お家を半分人々のために、と手放したのも、きっと私の自己満足です。
様子を見ていなかったなら、もう少し、気楽に復讐できていたのかもしれませんが。
「はい、もう少し肩の力を抜いて、抜いて」
ギルバート様は、時々闇に沈みそうな私の気持ちを見抜いては、ひょい、と引き上げて下さいます。
「そうそう、笑って」
あの時救貧院につれていった兄妹も、ここで大きくなりつつあります。
あの時カードを落としていってくれた男性も、援助者の一人になってくれました。
きっとこの胸の中でじくじくうずくものが、消えた頃に私は彼との間に子供を作るかもしれません。
それまでは二人で、そしてナタリーやスペンサーやアダムズやお医者様と共に、このお家でできるだけ幸せらしきものを追いかけようと思います。