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33 ここは私のお家です。

「……ああ…… ロゼマリア…… アリシア……」


 膝をついたまま、父は連れていかれる彼女達を泣きながら見送ることしかできません。


「あの二人は病院に入れて治療を受けさせます。ですが貴方は別に身体にもう何の異常も無いでしょう、出ていって下さい」

「お、お前、マニュレット、父親に……」

「そもそも貴方が私を追い出したのではないですか。でもここは私の家です。お母様が残した、私の家です。出て行くのはそちらです」


 私は父を見下ろしました。


「そう言えるまで、八年待ちました。そして貴方は墓穴を掘った」


 会計事務所の人々が、最近の決算記録を持ってきます。


「お、お前はスペンサー!」

「お久しぶりでございます。世間は狭いものですね。現在のこの家は、使途不明金が多すぎるし、投機にも失敗している」

「そ、それがどうした…… 私が男爵であることは今も」

「爵位の返上を、先代のお祖父様と、次代の私が国に奏上しました。この家は男爵を辞めます。そしてこの家は、国の救貧院に寄付致します」


 私の宣言に、父は開いた口がもう塞がらなかった様です。


「私はここをナタリーや皆さんと、職業訓練を兼ねた施設として、今あるものよりもっと良いものにしていきたいと思っています」

「馬鹿げたことを……」

「馬鹿げているのは貴方の方です。そもそも私が貴方を見捨てる理由が何だと思いますか?」

「……何だというのだ」

「貴方が入り婿として入った際に、義務として行わねばならない男爵としての仕事を全てお母様に背負わせたことです。お母様は決して身体の強い方ではなかった。だからこそ女男爵ではなく、入り婿にしたはずなのに、その義務を怠った。貴方はこの家には不要どころか害悪でしかありませんでした。それにお祖父様に、お母様の死を隠しました」


 私は鼻で笑いました。


「どうして隠し通せるとなんて、思っていたのですか?」


 そして私はお願いします、と弁護士と彼の連れてきた男手にお願いしました。

 彼等は父の両腕を掴むと、ひきずる様にしてやはり馬車の方へと連れていきました。


「もう一生会うことはないでしょう。永遠にさようなら」


 私はあえて、ひらひらと、馬鹿みたいに手を振りました。

 何やらわめいていますが、正直どうでもいいです。

 馬車ががらがらと行く音が聞こえてきた時、ようやく私はほっとしました。

 そして足の力が抜けるところを、ギルバート様が支えてくれました。


「お疲れ様」

「ありがとうございます。やっと、終わりました」

「よくできたよくできた」


 ギルバート様は、そう言って私の頭を撫でてくれました。


「ギルバート様」

「何だい?」

「好きと言っていいですか?」


 おお、とお祖父様が私達をまとめて抱きしめて揺さぶりました。

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