彼女が発見されたのは、厨房に異臭が漂ってきたからです。
臭いの元をたどっていったら、どうも隠し扉らしきものがある。
だが鍵はかかっている。
しかたがないのて、男衆が斧で鍵付近を力技で叩き落としました。
すると、むっとする異臭が一気に扉から噴き出しました。
そして、ぼりぼりと何かをかじる音。
「おい何か居るぞ」
「誰か見に行けよ
「この臭いの中を?」
口を布で覆い、馬丁とアダムズが呼ばれました。
「……うぉ、こ、これ…… お嬢様じゃないのか?」
馬丁がそう言って、だらりと座ってひたすらショートブレッドをよだれを垂らしながら貪り食っている彼女を引きずり出しました。
「ちょ、ちょっと待て!」
そのままの臭いじゃたまらん、と彼女は主人の娘でありながらも、まず勝手口から外に出されました。
正気で無いのをいいことに、ともかく汚物まみれの服を脱がせ、水を掛けてざっくりと流しました。
そしてリネンで全身をくるんだ後に、部屋へ運ばれ、慌てて沸かされた湯で、風呂に入れられました。
その助け出される様子を見て、私はほうっ、と息をつきました。
後はもう、私のする領分ではありません。
外で洗い流す作業をしていたアダムズに手を振ると、私は街にとまた足を進めました。
*
それから一週間後、私はお祖父様とお祖母様と一緒にこの家の門を堂々とくぐりました。
あと、他にも幾つかの用件がありますので、弁護士や、フレライ会計事務所の人々、そしてナタリーとお医者様も居ます。
来客の知らせに、父は慌てて飛び出してきました。
包帯がやっと取れた様ですが、発疹の後は生々しく残り、かつては色男と言われた顔も台無しです。
その顔が、さっと青ざめました。
「……義父上…… 一体……!」
「一体も何も無い。マルゴットはどうした? そして、何故このマニュレットを追い出したのだ?」
きちんとした格好をして、お祖父様と共に居る私の姿を見た父は、がくん、と膝から崩れ落ちました。
お祖父様は男爵業からは引退したとは言え、未だ実業家としては現役です。
「言え! マルゴットが死んだことを何故儂に隠していた? そしてこの家に住んでいる女と娘は一体何だ?」
「ま、マルゴットの遺言で…… 義父上を悲しませたくないから、と……」
「たわけが!」
「ひぃぃぃぃ」
そのまま、頭を抱えて床につっ伏せました。
ここしばらくの、立て続けに起こった凶事に、父の神経は相当やられていましたので、お祖父様の喝は相当効いている様です。