さて夜が来ました。
月が綺麗な夜ですね。
私はとんとん、とロゼマリアの窓を叩きました。
内側から。
フランス窓のベランダ。
ちなみにそこに下りるのは、窓際にある天井窓の大きいものです。
そこから縄ばしごを下ろして、私はロゼマリアの部屋へと降り立ちました。
なお、ふわりふわりと夜の夜中の廊下をドレスで歩きながら、彼女の部屋には外から鍵をかけておきました。
「誰っ!」
私は窓を開けておきました。
そして月光を背後に、デルフィニウムを抱えて、その窓の前に立ちます。
「……マルゴット…… マルゴットだと言うの?!」
私は何も答えません。
ただゆっくりと、ロゼマリアに近づいて行きます。
「……やめて、来ないで」
聞きません。
じわじわと、彼女の寝台へと近づいて行きます。
彼女は寝台の反対側から転がる様にして向こう側に飛び出します。
私はじりじりと壁伝いに入り口の方に近づいて行く彼女に、一定の距離を開けて追い詰めます。
やがて彼女の手に、入り口のノブが当たります。
ですが捻っても、かち、かちと鍵が掛かっている音が聞こえるだけ。
髪型のせいもあり、この月明かりでは私の顔は判りません。
また壁伝いに、じりじりと私は彼女をゆっくり、ゆっくりと追い詰めます。
彼女の背後には、開いた窓と、ベランダがあるだけです。
「こ、来ないで……」
いいえ、聞きません。
そして私は、大きく両手を広げて、デルフィニウムの花を彼女に向けてばらまきました。
「ひぃぃぃぃぃぃ!」
避けようとした彼女の背後には、ベランダ。
決して高くない手すり。
バランスを崩して――
いえ、落としません。
バランスを崩して落ちそうになった瞬間、私は彼女にロープを投げました。
片方の手に届きました。
なかなか重いです。
まず手首を掴んだロープを手すりに縛りました。
とりあえず私の手が自由になったところで、ロープの上に古い長いリボンを巻き付けて縛りました。
そして手すりに二度、巻き付けた上でベランダの窓のノブへとまた結びつけました。
ロープは彼女の肌に傷が付かない様に切って回収しました。
さて、吊られているロゼマリアは気絶している様です。
早く助けないと、彼女の手首から先はきっと壊死してしまうでしょう。
肩は確実に抜けているでしょう。
きっと夜回りをしているアダムズが見つけてくれるのではないでしょうか。