今現在の「最新」は、そこまでごてごてとさせるものではありません。
ドレスメーカー氏もホテルでこれでもかとばかりに口にしておりました。
「シンプルな中に小気味よくアクセントを入れるのがエレガンスなのですよ!」
と。
実際私が現在着ているものは、身体に合ったすんなりした、薄紅色の光沢のある生地に、霧がかった様なイメージでチュールを左右アシンメトリにかぶせるものです。
私は今までの生活のおかげで、出るところはあまり出てませんが、腰だけは細いのです。
胸と腰にパッドは入っておりますが、その辺りはご愛敬。
するとその人工的につくられたくびれの部分に、重ねられたチュールが花の様に霧のように広がるという次第です。
と言っても、あまり立ち上がらずに黙々とアイスクリームを舐めている様な私ではどうしようもないのですが。
「どう? 少し踊る?」
「足を踏んでも宜しいならば」
ダンスのレッスンは、アリシアと共に受けさせられました。
と言っても彼女の相手でしたので、私が知っているのは専ら男役です。
ですので、男女さほどに関係がなさげなよく動く曲の時に、とお願いいたしました。
速いマズルカなどの時、私の鍛えた足は実に良く動きます。
するとドレスのチュールもひらひらと動きます。
そこに人々の視線が集中する様です。
そう、それはアリシアとて例外ではありません。
不思議そうな顔をして、私の方を見ています。
ですがさすがに私とは気付かないでしょう。
追い出された娘がこんな場所で、自分より最新のモードを身につけている訳は無いのですから。
速いダンスが終わると、私は退出したい、とギルバート様に申し出ました。
「どうしたの?」
「先回りして、アリシアが帰った時の様子を探りたいのです」
「了解だ。ではできるだけ派手に踊って回って、そしてあっさり抜け出そう!」
それから何曲か踊ると、私達はさっと抜け出しました。
ホテルではお祖父様とお祖母様が「どうだった?」と言いたげにわくわくして待っておりました。
「久しぶりに思いっきり踊って楽しかったですわ。でも、今からアダムズのところまで行きたいと思います」
「何と、あの館にですか」
お祖母様は目を丸くします。
はい、と言いながら私は衝立の後でドレスを脱ぎ、最初にスペンサーのところにやってきた時の格好に着替えました。
「ああ、あれは儚い夢だったのか……」
ややオーバーにギルバート様は嘆きます。
「でも仕方ないな。夜だし、近場まで送るよ」
「ありがとうございます」