詳しくは専門家に聞いた方が早い、とばかりにテンダーはセレに電報を打ち、数日以内に「123」に呼び出した。
短い髪に一ヶ所だけ長い三つ編みを残し、常に足割れのスカートで姿勢良く入ってくる彼女が店内に入ると一斉に視線が向く。
「や、久しぶり。生地の方気に入ったようで。あ、初夏のソーダ水ゼリー入りを」
すぐに近付いてきた店員にそう告げるとセレはテンダーとポーレの居る席に座った。
「私は気に入ったのよ。ただポーレが今一つ首を傾げていたから、ここは是非貴女から」
そう言うテンダーの前にはポットに入ったお茶、ポーレにはミルクシェイクがあった。
そして皿に並べられた真四角な焼き菓子。
「一つ失礼…… このつまめる大きさがいいね」
「そうよね。やっぱりお客様の声を書くノートが結構役立っているみたいよ」
この日は少し間隔を広めにとっているテーブル。
その一つ一つにペンとノートが置かれている。
「ペンなんか盗まれやしないか?」
「どうかしら。一応ほら、ノート自体に綺麗なチェーンで繋がってるでしょう? それにこれ自体、売ってもいるし。インクが漏れないのに簡単で比較的買いやすいペンってことで、ここで知ったお客が小売店の方に注文することが増えてるんですって」
「エンジュの仕業か?」
「そりゃあそうよ」
くす、とテンダーは笑う。
らしい、とセレもにやりと口の端を上げる。
「色んなところで繋がっているのよね。で、まあこの生地についてもポーレがつながりがよく分からないみたい」
「162番か。ポーレさんこの色が気に入った?」
「あ? ええ。ただこの類の生地にしては珍しいな、という感じはするんですが…… ちょっとどころでなく厚いし。かと言って靴下のそれとも違うし……」
「靴下?」
「だから編機と言われたらまず靴下のあれを思い出すんですって」
ああそうか、とセレはぽん、と手を叩いた。
「靴下を内職とかで作る小型のアレと基本的な理屈は同じなんだがね、あれをもっとでかくしたものなんだ」
「はあ」
そうこうするうちに、注文したソーダ水ゼリー入りが来る。
マドラーでかき回したり、冷たいゼリーを少し口にしてからセレは続けた。
「手編みの際にも輪にして編むには棒を三~四本使う。それを初めからその形で糸を引っかける形にしたのが小ぶりなあの機械だな。それこそ毛から綿から絹まで、それでちょっとしたやり方さえ覚えれば靴下を作れるのだから凄いことだ。――まあそれをでかくした訳だ」
「でも何故ですか?」
「うん。まあ、下着を作るのに都合がいいんだ。筒型というのは」
「下着…… テンダー様から聞きましたけど、何故それが?」
「うーん…… やっぱり丈夫、ってことかな。筒型は縫い目が最低限になるから、その分補修の回数が少ない。平織りに比べてそもそもが厚手になる。あとはサイズ。伸縮性があってゆとりができることかな」
「……だから何で、わざわざそれを工場で?」
「政府が最近軍用靴下やら下着の生産を回してきたんだ。こっちの業界に」
「軍用」
「ああ。それまでもある程度は官給品として出ていたんだが、地方によっては自分で用意しなくてはならないところも多い。まあ環境の差とかあるしな…… だがそれはそれとして、ある程度のものは均一の品質を持った官給品を支給することで、生産する側の経済も回して…… どうした?」
「あ、す、すみません、軍とかそっちの話になると頭が……」
あはは、とセレは笑った。
「まあ、確かにここに住んでいれば縁遠いからな。繋がってはいるが。それに、そもそもの真意なぞ我々末端にはわからん」
「そうですか」
ポーレはほっと胸をなで下ろす。
「でまあ、せっかくこの機械があることだし、どの程度まで糸の太いものが可能かということで試しに生産してみたんだよ。綿のものと、あとは新繊維で」
「あの軽いものですか?」
「ああ、だがあっちはまだ駄目だ。細い糸で伸び縮みして…… なら絹の代用にできないか、とも思ったがまだまだ強度が足りない。一方で綿の方はある程度のものができた。が、ここで問題がある」
セレの表情がやや厳しくなる。
「この厚さだと何に使っていいのか分からないんだ」