「学校を作るのですか? 先生」
「学校、というか…… まあ、塾というか、洒落た服を自分で作ってみたいという人でもいいのだけど。弟子入りするだけが服作りの道でもないだろうし…… まあ、実際第五で教えていた時も楽しかったしね」
「先生なら名が売れていますし、学校を開いたならば、全土から誰かしら来てもおかしく無いと思いますが」
「さあ、そこまでどうかしら」
口にしてはみたものの、カメリアもまだ思いつきの段階であり、具体的なことまでは考えていない様だった。
そこでテンダーは一つ提案してみた。
「叔母様、だったらとりあえず、北西から来る子達に教えていただけませんでしょうか?」
「北西から?」
「後から来るファン先生とタンダさんが、向こうから学びに来たいという子供達を何人か連れて戻ってくるんです。その中に服飾をやってみたいという子も居まして」
「あらあら、でもそれは貴女宛のお弟子に、ということじゃあなくて?」
「リューミンは誰に、とは指定しませんでした。ただ向こうではあまり必要とされない職に就きたがっている子達ということなので。もし叔母様がこれから教える立場となるというならば、叩き台としてお互いに学び合うというのは如何でしょうか?」
差し出がましい、と思わなくはない。
ただ、叔母は服飾の実務と、「あの第五」での講師としては優秀だったかもしれないが、果たしてそれは「一般の人々」に対しても有効だろうか?
「叩き台ね」
くす、とカメリアは笑った。
「いいんではないですか? 先生」
かつての教え子の一人だったヒドゥンもそう口添えする。
「俺等はそれなりにしたいことが明確だったから、教えてくれる先生に対しても積極的だったけど、そういうひとばかりじゃないですからね」
えっ、と弟子達の顔がやや引きつる。
「まあ確かにねえ。貴方方は何につけて貪欲だったし……」
ふむ、とカメリアも考え込む。
「皆さんとりあえずお茶にしませんか?」
ワゴンに人数分の茶と軽食を作って載せてきたポーレが言う。
皆慌てて周囲に場所を作る。
「何にしてもお腹空いてる時にはいい考え出ませんからね。先生だけでなく、お二人もお疲れだったでしょう? 大きな仕事が立て続けに入ったとか?」
「はっ! そうなんだ! ちょうどテンダーとポーレが出かけてから注文が伯爵家と侯爵家から同時に入ったので、三人で回していくのが大変だったんだ……」
アルカラは茶を少し口に含み、焼き菓子をしみじみと味わうと今更の様に現状を口にした。
「ではともかく私達も早速そちらに回ります。休暇予定をあちこちに出しておいたので、こちらの仕事は今無いので……」
テンダーもとりあえず叔母が病気という程のことではなかったことに安心し、とりあえず次の手を打つことに頭を回しだした。
「ただどちらにしても、そろそろ住み込みのメイドはきっちり一人二人入れないと駄目ですよ」
そしてポーレはこう皆に向かって重々しく釘を刺した。
「私が結婚をいつするか、はまだ分かりませんが、ともかくここのスタッフは皆放っておくと食事も忘れるじゃないですか。今回もその結果でしょう?」
三人はさっと目を反らし肩を竦めた。
「だからちゃんと料理ができる…… ではなく、料理が美味い! 雑役女中を入れた方がいいんですよ。でなかったら、もういっそコックと掃除専門のメイドでもいいです。……というか、今まで私が並行していたのが逆にまずかったですかねえ?」
「いや、だってポーレのごはんは美味しいから……」
「このお菓子も最高だし!」
「……今晩はまだ買い出しに出られていないから、あるものだけで作るんですがいいですね? 先生、本気で考えて下さいお願いします。本当にこれではもし求婚されてもなかなかお返事ができない……」
最後の方は口の中でつぶやく様なポーレだった。
「あ、ヒドゥンさんも食べていって下さいね。今日はあるもので作る大鍋煮込みになりますから」
そいつはいい、と彼は笑った。
*
一週間後、ファン医師とタンダが少年少女を連れて帝都に戻ってきた。
そしてそのうちの二人の少女が工房へと連れられてきた。