「何でテンダー様はいつも平気な顔なんです?!」
「そうですて。お嬢様はもっと堂々と自分が伯爵様のお嬢様だと名乗れば良いですに」
ポーレも庭師も私に向かって怒ってくれる。
「うーん…… 言ったところですぐには信じてもらえないもの」
「だけど!」
「だったら待っていた方がしっかりあのメイド達も私のこと覚えるじゃない」
二人はいつもそう言う私にため息をついていた。
私の中ではその方がものごとの解決が早かったからそうしただけで、それ以上の感情が動かされることはなかった。
「確かにそうですがねえ。テンダー様、東のお嬢様はあまりにこっちに比べて優遇されているんですよ!」
「そうなの?」
「そうですよ!」
ポーレはどうもその辺りで、色々積もっていたものがあるらしかった。
「ほら最近私、テンダー様が難しい勉強の時間中、メイドの仕事の見習いもしつつあるんですけど、東の部屋ってもの凄く、色々なものがあるんですよ」
「色々?」
「ええと――」
ポーレはその「色々」の量が多すぎて何処から切り出したらいいものか悩んでいる様だった。
「服……! そう、まず服ですよ! 先輩が掃除のことを説明してくれた時に、絶対に傷つける様なことがあってはいけない、って言ってました。もう、クロゼットにずらり一杯!」
「私も結構ずらりとしていると思うけど」
「でも全部同じ型じゃないですか! 昔から思ってましたけど、とてもテンダー様の服は、向こうの方と違い過ぎです! あと、カーテンとかベッドの帳とか豪華だったり可愛かったり……」
「そうなの?」
「何か私、悔しくって」
「何で?」
「何でって……」
ポーレは酷く困った顔をしたものだった。
確かに私の服は小さな頃同様地味だった。
形も微妙な差をのぞき、殆ど同じだった。
部屋も同様。
だが図書室が近く、物置も色々面白いものが置いてあったし、下手にメイドがうろつくこともなく廊下に人気も無いので私は退屈しなかった。
「カーテンは日よけなんだし、帳もちゃんとしてるし、いいんじゃない?」
「それでも~」
ポーレは不服そうだった。
「私は別に充分だと思ってるけど。こっちの方が庭園も近いし。あ、そう言えば、図書室はこっちにしかないのに、向こうの子は来たりしないのね」
「……向こうのお嬢様は本なんて読みませんよ」
「そうなの! 何か損しているわね」
「その代わり、奥様があちこち連れ回してますよ。もの凄く着飾らせて」
「まあそれは大変」
私は本気でそう思っていた。
「だってそうでしょポーレ。私絶対あの子の様にひらひらした格好なんて無理よ」
「でもそれが世間では可愛らしい格好なんですよ。先輩方の噂では、ともかく天使の様に可愛いお嬢様だから、と帝都の最新流行の子供服の型録を送らせて、できるだけそれに近い生地と形で針子の腕のたつ先輩に作らせてるんですよ」
「え、じゃあここのメイドがあのごっちゃりした服を作っているの! 凄い!
「だからテンダー様、そこじゃないですって……」