私は妹が居るということを聞いてはいたけど、見たことが無かった。
見るきっかけを作ったのがポーレだった。
「テンダーさまもおじょうさまだけど、もっとおじょうさまらしい子をわたし、みたよ」
「みにいこう」
ということで、ぐるりと大きく庭を突っ切り、東の対の窓に面した庭へとたどり着いた。
そこに居たのは、小さな可愛らしい女の子と――
「おかあさま」
だけではなかった。
両親ともそこにいて、淡いピンクにリボンとフリルの沢山ついた子供服の少女に夢中だったのだ。
とは言え、私が二人を「親」だと知ったのは、その前年のことだった。
五歳の頃から朝食を共に摂るようになった。
既に自分の両親の顔もほとんど忘れていた私は、見慣れない、態度がでかい大人にびくついた。
それを見て母は顔をしかめた。
父は「かわいげのない子だ」と言った。
私は西の対に戻ってから、フィリアがずいぶんと長く泣いていたのを覚えている。
私自身は、ただ無闇に私に対して威圧感を与える大人と食事をしなくてはならなくなったことを面倒だ、とかちょっと怖い、と思っていた。
当然だろう。
三歳までの記憶というのは、まずそうそう残るものではない。
私にとって彼等はうっすら記憶があるかどうか、という存在にすぎなかった。
だがフィリアは泣いて抱きしめてこう言ってくれた。
「久しぶりのお嬢様だというのにあの言い草……」
彼女は私の後に控えて、慣れない食器の扱い方を手伝ってくれていたのだ。
私はフィリアが何故泣くのか判らなかった。
ポーレは可愛らしい子を可愛がる両親の姿を見てはっとした。
「もどろうテンダーさま」
聡い彼女は気付いていたのだ。
私は彼女に手をぐいぐいと引かれ、西へと戻っていった。
「かあさん! むこうの……!」
そう言ってポーレはフィリアのエプロンにすがりついた。
「テンダーさまのところになんてきたことない!」
こら、くしゃくしゃとフィリアはポーレの頭を撫でた。
「フィリア、あれだれなの?」
私は尋ねた。
「隠すつもりはなかったんですが…… テンダー様、ご両親と遊んでらしたのは、貴女様の妹君のアンジー様です」
「いもうと…… わたしにいもうとがいたの!」
「はい。三つ下の」
「でもあったことがないわ」
「伯爵様と奥様は、ずっと向こうでお過ごしですから……」
「あのひとたち、そうなんだ」
私が淡々と語るのに、二人は何か辛そうな顔をしていた。
一年経っても、朝食と正餐の時にしか会わない大人=両親としか認識していなかった私は、彼等にさして関心がなかったのだ。