映画のあとはモールへ移動し、フードコートに入った。洸太はカツ丼、ミナトはカレー大盛りを頼み、向かい合っていただきますと手を合わせる。そのあとはアミューズメントコーナーに連れて行かれた。UFOキャッチャーを中心に、モールの一角にゲーム機がずらりと揃っているのだ。洸太はにんまりとした。
「ミナト君、ここは任せて」
洸太は久しぶりのゲーム機を前にして少し袖をまくった。ここは腕の見せどころだ。
「僕、UFOキャッチャーは得意」
「マジっすか。ここに寄ることを日程の項目に入れたんすけど、オレ、実はなんもできないんすよね……すごく不器用で。ガチャ回すくらいしかできないっす」
「なに取る? お菓子でもぬいぐるみでも。ミナト君がほしいのを取るよ」
「えーと、まず獲物を探します」
ミナトとぐるぐる辺りを見て回り、その中でミナトがかわいいからほしいと言ったバナナの大型ぬいぐるみに挑戦することにした。ミナト曰く「枕になりそう」らしい。
「先輩って、こういうのを一回で取れるんすか」
「一回では無理かな。アームの強さもやってみないと分かんないし。ちょっとずつずらして取るんだよ。あとは台を横から見て奥行きを確認するのも大事」
洸太はそう言いながらバナナを五百円玉一枚、六回で落とした。ミナトに特技を披露できて嬉しい。「よしっ」とガッツポーズを取るこちらに、台の下からぬいぐるみを拾うミナトが目を丸くする。
「先輩がこういうの得意って、イメージになかった」
「バカみたいだと思うけど、小さい頃はムキになってやってさ、いくつも取って親に見せてたんだよ。ソータよりできることがあるって親の気を引きたくて」
「ん? ちょっと待ってください。そのたくさん取った景品たちは今も片づけられず部屋に溢れてる……?」
「ううん。小学校の頃はソータと同じ部屋だったんだけど、年末の大掃除にソータがいらないだろって全部ゴミ袋に入れて捨てちゃったんだよ。怒って掴みかかったら、そんなに怒る僕を見たことがないソータも親もぽかんとしてさ。家族から見たらくだらないおもちゃだったんだけど、僕としては自分ができることの証明だったわけ。泣き喚く僕に焦った親が、お年玉の他にUFOキャッチャー代をくれた。ソータは不満そうだったけど、睨んだら黙ってた」
ミナトが店員からもらったビニール袋にバナナを入れて笑う。
「先輩のほうがわんぱくだったって、なんとなく分かった気がします。……って、ちょっと待った、そのUFOキャッチャー代で取った景品は今も部屋に……?」
「ある。クローゼットの中の箱に入ってる。それに手を出したら僕の逆鱗に触れるって家族全員が思ってるよ。まあ、今はもういいんだけどさ。もう自分をソータと比べるのはやめたし」
するとミナトが一瞬真顔になって「本当?」と言う。穏やかな口調で「ホント」と返した。ミナトは「ならいいっす」と笑みをこぼす。
「先輩の部屋、遊びに行きたいっす。その大切だった証明、見せてくださいよ」
「本が散乱する部屋でよかったらどうぞ。ソータを入れて三人でトランプしよ」
台の前でそんなことを話していたら、店員がやってきて台のプラスチックの扉を開けた。そしてミナトが手にしたのと同じバナナのぬいぐるみを設置する。店員が扉を閉めて鍵をかけると、お互いちらりと目が合った。
「……僕の分も取っていい?」
「取ってください! お揃いにしましょ」
ミナトが意気込んで財布から五百円玉を取り出した。チャリン。落ちた硬貨の音とお揃いの言葉にテンションがあがり、「よし」と台に手をついてボタンに手を添える。結局千円使ったが、無事にバナナをゲットした。笑顔でハイタッチを鳴らし、ビニール袋に同じぬいぐるみを入れる。一気に楽しさが増して、モールをウィンドウショッピングして回った。
「先輩、どんな服が似合うかな……今日の白いセーター、ちょっと大きくて萌え袖っぽくなっててかわいかったっす」
ミナトがそう言ってハンガーにかかった服を洸太に当てて見比べてくる。
「サイズがぴったりなのを探すのが難しいんだよ。でも、ミナト君はちょっと大きいくらいでも充分着こなせてるよね」
洸太もミナトに似合いそうなパーカーを持ってきて胸に当ててみた。
「オレもサイズ難しいっすよ。背だけでかくて、中ぺらぺらっす。実は肩幅も狭いっす。Sサイズが着られるメーカーもあるんすよ」
「ミナト君は文化祭のクラスTシャツ、何サイズ着てた? 僕、Mだけど」
「え、オレもMっすよ。先輩とサイズ一緒? マジかよ」
「あ、その言い方ちょっとやだ。グータッチする?」
「いい意味で言ってるっす。同じTシャツを買ってもお揃いで着られるじゃないっすか」
衣服を見て回ったあとは、腕時計の並ぶ店を眺めた。ずらりとさまざまなメーカーの時計が並んでいるところは、見ているだけで楽しくなってくる。
「ミナト君、腕時計をしてないけど、買うとしたらどういうのがいい?」
「オレ、時計のフォルムが四角いのがかっこいいなって思うっす」
「分かる! あ、これ、ケースとかベルトとかをカスタムして好きなパーツで作れるって。いろんな色があっていいね。僕、案外ビビットなのって好き」
「高校生には気軽に買える値段じゃないっすけど、色違いをカスタムして持ってたらよくないっすか。さり気ないお揃いっていうか」
「いいね。そういうペアのものっていうのもかっこいいよね」
品物を見ながらしゃべっていると楽しい。部屋に遊びに行くだとかお揃いのものを持つだとか、佐藤さんと叶えるかもしれない話を自分のことのように錯覚できる。
ミナトと笑顔で店を回りながら、ごめんよと心の中で佐藤さんに謝る。今日はミナト君の言葉を勘違いしていたい。