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第5話


 そうして、ボクは自分の過去を初めて他人に話した。コイツはただ静かにボクの話を聞いている。そこには嘲笑も蔑みも呆れもない。ボロボロの自分をつなぎ合わせるように全部話すと、うんうんと聞いていたコイツはボクの頭に手を乗せる。


「まずは……さっき興味ないと言ってごめんね」


 そしてそっと髪を撫でるとコブになっている後頭部を優しく下りていって、肩を抱き寄せられた。

 注意してもなんにも響かないヤリチンだから、突き放したほうがいいかなと思って言ってしまったと謝罪される。どういうアプローチをすればボクの本心に触れられるのか確かめていたんだそうだ。ボクと友達になるために、まずは色恋なしだとわかってもらう必要があるだろうって判断したって。


「俺の名前は沢見大輝。君と同じタチ。だからまず友達になろう」

「……ボクは、タチじゃない。それに本当はバイでもない……本当は、ゲイで……抱かれたいほう」


 本当の自分をさらけ出すのは怖い。ずっとずっと隠してきたから。でも、この人はボクの心を引っ掻き回す。


「は……え? どんだけ自分を偽って生きてんだよ。そんなに自らをいじめちゃだめだよ。かわいそうでしょ?」

「……」


 ぽんぽんと肩を優しく叩きながら、沢見は震えるボクを慰めてくれた。その優しい手にまた涙が滲んできて、トイレに篭りたくなってくる。なのに沢見はボクを離してくれない。


「この君が本当の君なら、もうこのままでいなよ。そのままでいいんだ」

「で、も……周りが」

「出入りしていた店に行かないようにして、真面目にしていたら誰も気にしない。大丈夫」

「本当に急に変わってもおかしくない? もうタチをしなくてもいい?」

「君は拒まれるのが怖いって言ったね。でも本当の自分を拒んでいるのは君だってわかってる?」


 その言葉はまたボクをえぐる。沢見の言葉が何重にも嘘を塗り重ねて厚く厚くしていたボクの心の鎧をどんどん切り裂いていって、息が上手く吸えなくて苦しい。


「ほら、落ち着いて。大丈夫、ここには君を拒否する人はいないから。ゆっくり息を吐いて……吐いて……吐いて。全部吐ききったら自然と空気が入ってくるよ」


 沢見の言葉に合わせて息を吐いて吸ってと繰り返す。そうしていたらなんとなくキーンとしていた頭の中もクリアになってきた。

 そう、やっと、今の状態を冷静に感じ取れるようになって……すごく恥ずかしい。


「あの、離して……」

「君が素直に生きると約束してくれたらね」

「す、る、から」

「あと、名前教えて。連絡先も。何かあったら俺に報告。愚痴も聞くよ。伊達にこんな街に長く住んでないからね。役に立つと思うよ? もちろん楽しかったことの共有もオッケー!」


 ボクはすっかり沢見のペースに巻き込まれている。ちょっとやだな……こういう人付き合いはずっとしてこなかったから、どうしたらいいのかが全然わからなくて困る。

 そして、沢見の前でロクでもない相手の連絡先は全部消して、お互いの連絡先を登録する。それにしても友達ってどうしたらいいんだっけ。


「俺は君よりちょっとばかり年上だけど、丁寧語とかいらないからね。友達だからさ」

「アンタって、変」

「だろ? 変でもいいんだよ。俺は自分に正直だから」


 最初はボクから連絡することはなかったんだけど、沢見から毎日毎日おはようやらおやすみやらと連絡が入ってくるせいで、いつの間にかちょっとしたことも話すようになった。

 友達っていうのはよくわからないけど、ボクの長年のもやもやを受け止めてくれて昇華するのを手伝ってくれる人だ。告白事件以降初めての信頼できる人かもしれない。


 そんな沢見を好きになんてなっちゃいけないのに、ボクはまた同じような過ちを繰り返しそうになっている。どうしたらこの思いを止めることができるんだろう。だって、沢見はボクに対してそんな態度は一切取らない……脈なしってわかってる。だったらこのまま友達でいるほうが絶対幸せだって、今のボクならわかるからね。

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