私が荷物を纏めているのに気がついた父親が部屋に突撃してくる。
「何をやってるんだ? どこか旅行に行くなら事前に許可を取りなさい。本当にお前にはガッカリさせられる。冴島君とも結婚直前に破談になるなんて、親戚中からいい笑い者だ!」
なぜ結婚がダメになったのか心配もせず、世間体ばかり気にする父にため息が漏れた。ルリさんの話は想像できないような事ばかりだった。しかし、一つだけ安易に想像がついたのは、話を聞かずに切り捨てたという父の鬼のような顔だ。
「私、この家を出て、新しい彼氏と同棲します」
「同棲なんてふしだらな。認めないぞ」
「それなら、勘当して頂いて結構です」
私は同棲を父親に反対されるも、それなら勘当して構わないと私は突っぱねる。当然、父は鬼のような表情に変わり激昂した。
「なんだと?」
「毎日何度も電話をかけてくるのもやめてください。こちらは働いているんです。お父様の社会性のなさに付き合わされるのはもう御免です」
私は平手打ちをしようと手を振り上げる父の腕を捻りあげ突き飛ばす。父は驚きのあまり目を丸くしてこちらを見ていた。
「すぐに暴力を振るうような父親とは金輪際関わりたくありません」
家を出るなり着信が鳴り止まないが、私は電話を切り、父の番号を着信拒否にした。
「先生」と呼ばれてチヤホヤされているから、私の父は自分が一番偉いと思っていた。
実際は性被害にあった娘の心のケアをする訳でもなく家を追い出し大学を退学させた最低の親だ。
六本木にある一樹さんの部屋に到着すると、一樹さんは私の手から小さなスーツケースを受け取りながら部屋に招き入れた。
「荷物少ないね」
「まあ、逃げるように出てきちゃったんで」
私が一樹さんの部屋で荷物を開いていると、一樹さんの目が淡いクリーム色のワンピースに釘付けになっている。
おそらく月1000万円かかる女との甘いひと時に思いを馳せているのだろう。
「私、魔性の瑠璃じゃなくて、冷凍マグロですよ」
「俺が君を解凍してみせる」
相変わらずツッコミどころ満載なツボな事をいう彼を改めて好きだと思った。