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第32話  女子力に感動?!

 今日から、3泊4日で仕事だ。今日は再び細川さんとバディーを組む。私がL2で彼女がR2というポジション。今日のフライトは羽田→福岡→羽田→岡山で14時半には開放される。


 プリブリーフィング、細川さんが非常用設備の収納場所を尋ねられた事に答えられずしどろもどろしている。チーフパーサーの斉藤さんが溜息を吐いた。

「保安要員としての覚悟が足りませんね。重大なインシデントが起こってからは遅いのですよ」


「はい、マニュアルを叩き込んでおきます」

「私が新人の時はステイの時も勉強していたけれどね。最近の子は違うのかしら」

「すみません、緊張して忘れてしまいました」

「言い訳なんて実際に事故が起きた時にするんですか? CAとしての自覚が足りませんね」

「申し訳ございません」


 気まずい雰囲気のプリブリーフィング。


 今日の予定以外にも、マニュアルを覚えているかの質問コーナーがある。当てられるのは新人。辞書のようなマニュアルを丸暗記していなくても、聞かれる事は大概決まってるのに答えられない。

(細川さんって、努力も足りなければ要領も悪いのね)


 私は足りない新人細川さんと機種資格もないルリさんがバディーを組んだフライトを想像して寒気がした。


 機内に入ると細川さんが縋るような目つきで近づいてくる。


「今日は宜しくね細川さん」

「森本さん。今日は一緒で心強いです。私、R2って苦手で」

 R2は機内販売の会計を纏める作業がある。要領の悪い彼女は苦手そうだ。


「機内販売終了したら、私が纏め作業やるから見てなさい。大した作業じゃないから」

「はい。お願いします」

 細川さんが嬉しそうにしている。

(鈍臭そうだから、お手本見せてやるって言う意味何だけどな)


 嫌味で言ったわけではない効率を考えて出た言葉。

 でも、彼女には自分が至らないCAだということを胸に刻んで努力して欲しい。



 ブリーフィングの時間になり、集合する。

「機長の園田一樹です。本日は宜しくお願いします」

 私は機長が彼である事に妙に緊張した。なんだか、じっと私を見ているが、彼との関係を疑われると女の嫉妬の餌食になる。

(付き合うとしても、絶対にバレちゃダメだ)


 ブリーフィングが終わり、ご搭乗案内を始める。今日はL2ドアからもお客様が入ってきた。


 急に細川さんが私の耳元で囁いてきた。

「噂の園田機長初めて見ましたけど、めちゃくちゃイケメンですね。しかも、本当に指輪してない」

 私は先輩である自分に友達のように無駄話をして来た細川さんに目を見開く。

「ご搭乗開始してるわよ。仕事に集中しなさい」

「はい!」


 私は彼女を叱ったはずなのに、彼女は嬉しそうにしていた。ルリさんは彼女と一体どんな関係を築いたのだろう。かなり、細川さんが私を頼りにし、懐いているのを感じる。

 最近の新人の子は大抵怒られ慣れていないので、叱られると必ず膨れるか酷い時は泣き出す。

 信頼関係を得られれば変わってくるのかもしれないが、全く違う世代の価値観を理解して接するのは難しい。



 飛行機が離陸し、機内アナウンスを始める。チーフパーサーがやる会社もあるが、うちの会社はその日搭乗するCAで一番上手い人がやる事が多い。今日の場合は私。

(声を園田機長に聞かれてると思うと緊張する)


 ルリさんに園田機長との恋を頑張ると約束してから、妙に意識するようになってしまった。


「皆様おはようございます。この飛行機はTKL航空、福岡行き、125便でございます。機長は園田、副操縦士は新居でございます。御用がございましたら遠慮なく客室乗務員にお知らせください。間も無く出発いたします。シートベルトを腰の低い位置でしっかりとお締めください。成田空港までの飛行時間は約1時間30分を予定しております。それでは快適な空の旅をお楽しみください」

 何だか、いつもより上手くできなかった気がして落ち込む。

 すると安全性チェックを終えた細川さんがまた近づいてくる。


「森本さんって、声まで美人ですね。森本さんの女子力には感動します」

 なぜかサムズアップしながら言われ、首を傾けてしまう。

(女子力がある? 初めて言われた⋯⋯)


 ベルト着用サインが消えて、飲み物サービスが始まる。

 ギャレーからカートを取り出し自分の区分を配り終わり、新聞でも回ろうかと思ってカーテンの外に出る。

 すると、細川さんがとあるお客様の所で止まっていた。私の方を見るなりアイコンタクトで困っている事を伝えてくる。

(何か、トラブル?)



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