「ルリさんもイギリスに交換留学してたんですね」
「そうだよ! 瑠璃もなの? 私たちって須藤聖也と出会うまでは本当に同じような人生なんだね。交換留学生に選ばれた時はお父様に褒められて嬉しかったなあ」
ルリさんはまだ自分を捨てた父に囚われている。気にする事はないと彼女に言いたいのに胸が詰まって何も言えない。ルリさんの現状。狭いところが苦手、電車に乗れない、男性恐怖症。一体、どうやって生きていくのかと聞いただけでも怖くなる。散々、努力して来たのに、たった一つの出来事で奪われた可能性。
「懐かしいですよね。ルリさんタワマン住まいでエレベーターは平気だったんですか?」
素朴な疑問で私は会話を繋いだ。
正直、タワマンのエレベーターは見知らぬ人と閉所でご一緒。
狭いところが苦手ではない私でも息が詰まるような時間がそこに会った。
「平気じゃないよ。いつも息が苦しくなる。前に男の人と二人きりになって、言い寄られた事があったんだ。フラッシュバック? みたいなのが起こって気絶しちゃったの」
ルリさんが笑い話のように伝えてくるが、彼女の苦しい気持ちが流れ込んでくるのは私が彼女と別世界の同一人物だからだ。
「気絶? それはまた難儀な⋯⋯」
「でしょ。目を開けた時は自分の部屋で、目の前に隼人がいて安心した⋯⋯隼人も男なのにね! なんで安心するんだろ。最初は隼人も怖かったんだよ」
ルリさんは堪えきれずに泣き出してしまった。なぜ、真咲隼人だと安心するのか彼女もうっすらと理由が分かってるはず。
「隼人は私を傷つけない王子様だって思ってたんだけどな⋯⋯」
一言呟いて目を瞑り深呼吸して口角を上げて笑顔を作るルリさん。
ルリさんは私に筍ご飯とお味噌汁のレシピを教えて欲しいとお願いしてきた。
「どうしてですか?」
「隼人が美味しかったって言ってたから! 美味しいもの食べると元気になるよね」
私にはルリさんのような可愛げが足りないと思った。真咲隼人とは別れると言いながら、彼の喜ぶ顔が見たいという彼女はまだ彼が好きなのだろう。自分を愛人にまで貶めようとした男にまだ情があるなんて信じられない。
そして二言目には「隼人」と言ってしまう程に、洗脳にも似た束縛をした真咲隼人を恨めしく思った。
「私、隼人とは別れるよ。ただ、彼が落ち込んだ時に元気づけられるように、筍のレシピを聞いただけだからね」
ルリさんの中にはずっと真咲隼人と別れようと言う気持ちがある。ただ、情が深過ぎて切れない。同じ森本瑠璃なのに、ドライな私とは随分違う。
「分かってますよ。私は園田機長との恋、頑張ってみようかな」
私の宣言にルリさんの顔がばあっと明るくなる。
「うん。お互い頑張ろう。私は自立目指すから、瑠璃は新しい恋を頑張るの。絶対幸せになろうね、もう一人の私」
「はい、ルリさん」
私とルリさんは園田機長の差し入れを2人で美味しく食べた。ルリさんは体型維持の為に食事制限をしていて、お菓子を食べるのは7年ぶりだと言っていた。私と彼女は特別な出会いに感謝しながら別れた。