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第4話 イケメン社長との歪んだ関係

 お金を貰ってお付き合いをする。

 それは、パパ活みたいなもので普通の恋人関係には思えない。


「まさか! 男からお金を引っ張って来れるのは女の才能ですよ。私もキャバ嬢をしてた時はそれくらい貰ってたんですけどね」


 カラッとネイルサロンの店員さんに返されて、彼女と話すのが余計嫌になった。

 私はキャバ嬢という職業に嫌悪感を持っているのかもしれない。

 職業に貴賎はないと言っても男に媚を売るような仕事だ。

 夜職に従事していた事を恥じる感情さえ持たない彼女を気持ち悪く思ってしまった。


 ルリさんの世界は私の出会うことのなかったような人たちを連れて来た。


 話しているだけで価値観が違いすぎて疲れる。ルックスばかり褒めてきて、見え透いたおべっかばかり使う人間ばかりだ。愛想笑いは仕事だけにしか使いたくないのに、話を合わせ続けさせられ只管に疲れる時間だった。


 やはりルリさんとの人生の交換は可能ならば、やめた方が賢明だろう。

 私はトリートメント予約を入れている美容院にキャンセルの電話を入れた。

 トリートメントだけの為に美容院に行くのが面倒だ。

 スーパーで夕飯の買い物を済ませて、帰途に着く。

 部屋のキッチンには使用感のないブランド物のキッチン用具が並んでいた。

 食器も全てブランドもので統一されているが、殆ど使った形跡がない。

 冷蔵庫には化粧水やサプリメント類以外何も入っていない。

 私は買ってきた食材を使って料理を作った。


「結構、美味しそうな料理ができたかも! 頂きます!」

 炭水化物を食べるなというルリの注意は全く無視した。

 ご飯は旬の筍を使って混ぜご飯にした。

 炊飯器がないのでキャンプのように鍋で炊いてみた。

 その他にも9品ほど料理を作った。


 買って来たビールと共にご飯を食べていると幸せな気持ちになった。


 今日、1日でルリが本当に両親と縁を切っている事がわかった。

 朝昼晩の電話をしないと、狂ったように私に電話を掛けてくる父から全く連絡がない。

 (勘当されたって言ってたよね⋯⋯)

 父は私が自分の思うように動かないと殴って言う事を聞かせる人だ。

 何をやらかせば私に過干渉な親が勘当してくるのか想像もつかない。


 カチャッ! 

 扉の鍵を開ける音がする。

(な、何、泥棒?)


 私は立ち上がり、キッチンに向かい包丁を持った。

 リビングの扉が開くと、顔を出したのは私の世界でも見たことのあるジュエリー真咲の社長の真咲隼人だった。

 実物を見ると背が高くスーツ姿がよく似合う色気のある男だ。年齢は30代前半くらいだろう。


 彼は私の世界ではイケメン過ぎる社長として有名で、ジュエリー真咲のアンバサダーを勤めたモデルのエリカとも交際の噂があった。他にも、女優やアイドルと浮名を流していた気がする。この世界の彼がルリ一筋なのかは不明だ。


 彼は警戒して包丁を持つ私を見ると、クスッと笑った。

 そして、そっと近づき私の手を解き握りしめた包丁を取り上げる。


「ルリ、今日も可愛いね。今日はどんなことして、僕を楽しませてくれるの?」

 後ろから柔らかく抱きしめてきて、私の頬にキスをしてくる男に殺意が湧いた。

 私はルリさんの指示通り、真咲隼人を楽しませる気は全くない。

 今日1日で、私の五感がこの状況が夢ではなく現実だと教えてくれた。


 ルリさんの言う通り並行世界が存在するのだとする。

 そして、私には戻り方が分からないから、1日のお試しという彼女の言葉は信じない。

 私は自分の人生を強制的に交換させられたと判断した。

 それならば、私はルリさんのフリをせず、この世界のモリモトルリとして自分がどう生きていくか考え行動するべきだ。


「真咲社長ですよね。すみませんが、食事中なので離れてもらえませんか? それと、連絡もせずに勝手に来るのは非常識だと思います」


「真咲社長って⋯⋯どうした? 1ヶ月もほったらかしにしていたから拗ねているのか?」


 真咲社長はゆっくりと包丁をキッチン台に置くと、私から離れてダイニングテーブルに近づいた。不思議そうな顔で私の作った料理を見つめている。そして、徐に彼は私の飲みかけのビールを一気に飲み干した。


 1ヶ月もほったらかしていた⋯⋯私は毎晩のように20時から朝方の4時まで彼がここに来るのを部屋で待つルリさんを想像してゾッとした。


「そのビール、私が飲みたくて買って来たのに勝手に飲まないでください!」

「本当にどうしたんだ今日は⋯⋯それに、ルリはお酒は飲めないんじゃなかったか?」


 私はアルコールは弱い方ではないし、ルリさんの体でお酒を飲んでも問題がないから体質は同じ気がする。

(常温の水とかにこだわってたし美容の為に禁酒してる?)


 私が考えあぐねていると、真咲は椅子に座って私の料理を勝手に食べ始めていた。

「めちゃくちゃうまいな味噌汁も、筍ご飯も⋯⋯」

「それ、私が自分で食べる為に作ったんですけど! 勝手に食べないでください! しかも、うがい手洗いもしてないですよね」

 私の言葉に真咲社長が心底驚いたように目を丸くしている。

 少し前に感染症が流行ったはずだが、この世界では違うのだろうか。

 いずれにしろ、外出先から家に入ったら手洗いうがいをするなど常識だ。


「もしかして、来るか来ないかも分からない男の為に私が料理を作ったと思ってますか? バカにするのもいい加減にしてください!」

 私は言いようのない怒りを感じていた。


 状況だけ見てもわかる。

 彼はこのマンションの部屋という鳥籠をルリに用意して、気が向いた時に彼女で遊んでいるだけだ。ルリさんはやはりもう一人の私だ。縛りつけられる生活に慣れている。


「バカになんてしてないよ。今日はルリの様子もおかしいし立ち去った方が良さそうだね」


「今日は⋯⋯ではなく、二度と来ないで貰えますか? 合鍵も置いていってください」


「どうしたんだ? ルリ⋯⋯何かあったのか? もしかして、僕が来月結婚することが本当は気になってた? 結婚しても今の関係は変えなくて良いって言ったじゃないか」


 何かあったも何も、私は彼の恋人のモリモトルリではない。

 そして、こんな恋人と言えるのかも分からない関係を私は続けられない。


「結婚? 真咲社長、貴方まさか私に愛人になれって言ってるんですか? 不倫しろって? 結婚する気もなく7年も付き合ってたなんて不誠実にも程があります」


「ルリと結婚はできないって言ってあったよね。僕の立場を理解してたんじゃないのか? 当然、結婚は会社の利益になる女とする。でも、僕が好きなのは君だけだ」





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