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第8話 プロローグ 公示鳥

 幾本かのロウソクが部屋を灯している。

 厳かに光が部屋に乱雑に置かれた

 るつぼやフラスコ、

 乳鉢といった機材を照らし出す。

 机に鎮座した奇妙な鳥に一人の老人が

 何かを話し聞かせている。

 鳥は鈍く光る鉱石の目に、

 ややくたびれた骨ばった体格に

 人工の羽根で覆われていた。

 この鳥は「公示鳥」という、

 魔法石と木の骨組みと外を覆う

 羽毛でできた魔法生物である。

 この公示鳥はこのレッジョにおいて

 法の公示のため空を飛び回り、

 人の言葉で喋り街中に触れて回る。

 そして老人こそは、

 その発明者でもあった。


「ワ……ワシの」


 老人の重々しく掠れた声に続いて、

 公示鳥が続けて同じ声を繰り返す。

 公示鳥は人間の声を録音する

 録音機としても機能する。

 老人は憔悴しきった風に、

 一言一言を噛みしめ公示鳥に

 己が言葉を投げかける。


「ワシの言いたいことはこれですべてだ。

 そう……何もかも、これでおしまいだ」


 老人は深いため息をついた。

 同時に公示鳥の尖ったくちばしを

 人差し指で押した。

 本当にすべてやりきったと

 録音機能のスイッチを切ったのだ。

 その所作まで終えてしまうと、

 それまで辛うじて老人に

 残っていたであろう力が、

 老人の体から抜け出てしまい

 老人は寝台へと腰を下ろすと、

 倒れこむように寝台へ体を横たえた。

 それが何かの合図だったのか、

 公示鳥は機械じみた独特の唸り声をあげ、

 人工の骨格をギチギチいわせながら、

 窓の外から夜のレッジョへと

 飛び立っていった。


「さよなら……」


 部屋の入り口で

 一連の光景を見ていた何者かが、

 公示鳥が街の闇に

 消えてゆくのを確認するや、

 自らに言い聞かせるように呟いた。

 その何者かこれからのことに

 思いを巡らす。

 レッジョで起こる光景が

 脳裏に鮮明に想像できるのだった。

 それを思い危うく声を上げて

 笑い出しそうになるのを、

 どうにか堪えるほどである。

 つまりは最後に笑うのは

 どうにも自分になるのだと。

 三日後に老人は死んだ。

 享年七六歳。

 ダンジョンと冒険者の街

 レッジョにおいて、

 天才錬金術師と言われた

 ヘルマン・ツヴァイクの死は、

 街中の公示鳥によって知らされた。

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