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第3話 ダンジョン都市の界隈

 安価な盾に剣、そして杖。

 それらを引っさげた冒険者たちが、

 レッジョで最も広い

 メインストリートの一つ

 ピカーニ通りにひしめく。

 その顔は悲喜こもごもで、

 ダンジョンで見つけたレアものを

 見つけはしゃいでいる者もいれば、

 中には負傷して仲間に肩を貸してもらい

 やっとのことで歩いている者もいる。

 時間的にも日は沈みつつあり、

 ダンジョンから冒険者が

 引き揚げてくるころ合いだ。


「安いよ、美味いよ~。

 ついさっきダンジョンで

 取れたスライムの酒蒸しだよ」


「ケガ人、病人は居らんかねぇ。

 冒険に魅入られた心の病以外なら

 対応しますぞぉ」


「そこのあんさん。

 仲間の骸があれば引き取りまっせ、

 棺桶も安くしとくで~」


 人混みには冒険者に群がる

 商人どもがかなり混じっている。

 娼婦に医者、葬儀屋。

 冒険者たちに寄って

 生計を立てる者たちも、

 今が書き入れ時とばかりに騒いでいる。

 明日の糧を得る者、今日で命を失う者。

 アイテムを買う者、売る者。

 生還できた喜びを体で表す者。

 厳かな面持ちのまま

 戦友の亡骸を弔う者。

 陽気な笑い顔から

 悲嘆にくれる暗い顔まで、

 喜怒哀楽のすべてが通りを

 一瞥しただけですべて目に入る。

 ルロイはアナから例の

 鑑定士の名前と店の場所を教わり、

 二人はそこへ向かう途上であった。


「あぶねぇな、前見て歩けや!」


「すっ、すみません……」


 二人が中央広場まで通りを

 北上したところで、

 リザードマンがアナの横を

 ものすごいスピードで駆け抜ける。


「あれは冒険者専用の配達人ですね。

 ダンジョンで取れたアイテムを、

 速達で運んで代わりに売却してくれる。

 この街ならではの飛脚制度です」


 中央広場は東西南北に

 レッジョを貫く二本の大通りが、

 交差するレッジョの中心部にあたり、

 当然様々な種族の冒険者たちで

 ごった返していた。

 先ほどと同じような

 風体の行商人たちを避けながら、

 ルロイがもたつくアナの手を

 引っ張り街中をエスコートする。


「この街に来るのは初めてですか?」


「はっはい、ごめんなさい田舎者で。

 右も左もわかんなくて」


「と言うか、冒険者になったのもつい

 最近ってところですかね」


「やっぱり、すぐに分かっちゃいました?」


「色々と力が入りすぎている

 気がしましたから」


 気さくそうにルロイが笑って見せると、

 アナは少し気まずそうに俯く。


「ローゼンスタインさんね……」


 何か思い出したように、

 少しばかり難しくルロイは

 眉間にしわを寄せている。


「あの、何か?」


薔薇石ローゼスストーンの製作者について

 ちょっと思い出しましてね」


 散歩のついでのようにルロイは

 通行人を避けながら語りだす。


「メルヴィル・ローゼンスタイン

 という名前をご存じですか?」


「いいえ」


 アナはフードの端を引っ張って、

 目深に被り口元をきつく閉じた。


「メルヴィル氏はここでは

 有名な魔法具職人でした。

 が、最近はめっきり話を聞きません。

 やかましい冒険者たちが嫌になったとも、

 持病が悪化して人知れず亡くなった

 ともいわれています。

 アナさんがもし縁者の方なら……」


「別人です。父はもう死にましたから」


 アナはきっぱりと断言する。


「これは……失礼しました」


 中央広場をさらに右折し、

 二人は東西に延びる

 マッティ通りを東に進む。

 なおも冒険者たちを

 かき分けながら歩きつつ、

 アナは何か腑に落ちないものを

 感じ取ってか歩みを止める。


「メルヴィルさんってここじゃ、

 有名な方なんですよね?」


「レッジョでは彼の名前くらい

 誰でも知っていますよ。

 僕は会ったことはありませんが

 頑固者の人間嫌いに見える反面、

 本当は心の優しい人であったと聞きます」


 興味を引かれたのか、

 アナは頭をフードから出して

 その話に聞き入っている。


「ま、本人が聞いたら

 頑として否定しそうですがね。

 そう言えば、

 アナさんが冒険者になった理由

 について聞いてもいいですか?」


 一瞬アナは躊躇うように、

 視線を泳がせていたが

 おもむろにに口を開いた。


「外の世界に憧れていつか

 冒険者になりたかったんです。

 でも、それを随分父に咎められ

 勘当されちゃいました。

 今は、他の冒険者の方と

 パーティを組んでクエストの傍ら、

 ダンジョンで命を落とした冒険者の

 無縁の霊を弔ってます」


「それがあなたの今の生き様ですか」


「い、いちおう……

 これでも死霊使いですから」


 マッティ通りの喧噪の中、

 二人は鑑定士の店近くの

 裏路地へと入っていった。

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