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19「メディア帝国第一皇女」

謎の美少女「名乗るのが遅くなってしまったのぅ。

 余はリリン・メディアである」


 謎の美少女は、『リリン・メディア』と名乗った。

 オブ無しだ。


メディア帝国出身のリリンリリン・オブ・メディア


 ではなく、


メディア家のリリンリリン・メディア


 だ。

 オブの有無。

 それが意味することは、つまり――





   ◆   ◇   ◆   ◇





『謎の美少女』


 リリン・メディア。

 メディア帝国第一皇女。

 10歳。


 ウェーブがかった長い金髪に、燃えるような赤い瞳。

 オーラがすごい。圧倒的王者感。

 今は旅装にくすんだマントにフード、といったくたびれた格好をしているが、然るべき格好――ドレスなんかを着たら、きっと後光が差すほどのカリスマを発揮することだろう。


 絶・世!! の美少女。

 こういうのはあんまり比較するものじゃないと思うけど、メイドとかクララとかガブリエラとは次元が違う、圧倒的で絶対的で神秘的なまでに圧巻の美少女。


 リリン皇女殿下。

 10歳にして完璧に完成された完全生物が、

 威風堂々と、

 そこに屹立していた。





   ◆   ◇   ◆   ◇





俺「は、ははーっ(ひざまずく)」


リリン殿下「よいよい。そなたは余の、未来の夫なのじゃから」


俺「お、お戯れを……」


リリン殿下「ふざけてなどおらぬよ」


俺「(ドキドキドキドキ)そ、そういうのは家と家が決めることかと。

 もしくは、好き合った者同士で」


リリン殿下「好きじゃぞ(にっこり)」


俺「ふぁっ!?」


リリン殿下「改めて言う。余は、そなたのことが好きじゃ(妖艶な笑顔)」


俺「ふぁあああっ!?

 いや、だって俺、背ぇ低いし顔は平凡だし足遅いし、スキルだって超平凡な【収納聖】だし……」


リリン殿下「背が低いのと足が遅いのは、まだ幼いからじゃろう。顔は、庇護欲をそそる可愛らしい顔立ちじゃと思うがのぅ」


俺「!? !? !?」


リリン殿下「いや、普通に考えてもみよ。

 余は幼少より、原因不明の病に悩まされ続けておった。

 来る日も来る日も、原因不明の痛みと吐き気と倦怠感……成人を迎えるのは無理ではないか、と半ば諦めておったほどなのじゃ。

 なのに――(にこっ)

 そなたは、余の病をきれいサッパリ治してしまいおった!

 そなたは余の命の恩人であり、人生の恩人じゃ(ぐいぐい)。

 これで、『好きになるな』というほうが無理な相談じゃぞ(ぐいぐいぐいぐい)」


俺(近い近い近いっ。ヤバいヤバいヤバいっ。

 この子、めぇっちゃいい匂いする!

 俺は精神年齢17歳! ロリコンのケはないと思ってたのに!

 7歳児っていう体の年齢に好みが引きずられているのか!?)


リリン殿下「時にそなた、余の病の原因を見たな?」


俺「……え? ……えっと、何のことでしょう?(滝汗)」


リリン殿下「とぼけても無駄じゃぞ。そなた、【目録】が使えるな?」


俺「つ、使えるわけないじゃないですか、そんなの。俺――私はしがない【収納聖】ですよ。

【収納】!」


 ――シュンッ!(俺の【収納】への入口が開く音)

 ――ずぼっ(俺の【収納】へ俺が腕を突っ込む音)


俺「このとおり、【収納】への入口を開けて、手で中をまさぐる【聖】級以下の原始的なやり方でして」


 ――ずぼっ(リリン殿下が俺の【収納】へ腕を突っ込む音!?!?!?)


俺「えええええええええええええええええええええええっ!?」


リリン殿下「このとおり、余も【収納】使いである。

 とはいっても、初代皇帝には遠く及ばぬ【収納伯】じゃが。

【目録】。ほう、オリハルコン・ドラゴンの死体とな? それに、ウロコと爪と――」


俺(他人の【目録】を見る、だって!? そんな使い方が!?

 って、ヤバいヤバいヤバい! 俺がオリハルコン・ドラゴンを狩ったとバレてしまう!)

俺「駄目だ!」


 ――バチンッ!(リリン殿下の【目録】がかき消える音)


リリン殿下「ほほう? 余の【収納】にレジストしたな?

 これで、そなたが少なくとも【収納王】以上であることが証明された」


俺「ぎくっ」


リリン殿下「【目録】がなくとも、中は探れる。

 どれどれ――うぐっ、この感触は!?(みるみるうちに、顔色が悪くなっていく)」


俺「ま、まさか毒に触ってしまったんじゃ!?」


リリン殿下「毒!? なぜにそのようなものを【収納】しておるのじゃ。

 ぐっ、余としたことが、せっかく健康な体を手に入れたというのに……」


俺「あぁもう、くそっ――【収納】!」


 ――シュンッ(リリン殿下が【収納】される音)


俺「とっさに【収納】しちゃったけど、どうする!?

『毒』を分離させることはできるけど、そんなことをすれば、ますます怪しまれてしまう。

 でも、毒をそのままにするわけにも……人命には代えられないよな。

 ええい、いざとなったら『チーム【収納星】』メンバーを増やすか!

 いやいやいやいや、相手はお姫様だぞ!?

 チームに引き込んだつもりが、皇室のお家騒動に巻き込まれかねない。

 それこそ、皇室に【収納星】とバレて破滅の道だ」


メイド「だから、申し上げたではございませんか」


俺「う、ううっ……(泣)」


メイド「いえ、今のは失言でした。申し訳ございません。

 つい先ほど、『みこころのままに』と申し上げたばかりでしたのに。

 無論、メイドはレジ坊ちゃまを全力でサポートいたします。

 帝国から逃げるとお決めになったのなら、地の果てまでもご一緒いたしますとも」


俺「……は、ははっ。頼もしいねぇ。よし、腹をくくるか。

【収納】!」


 ――シュンッ(『毒』無しリリン殿下が現れる音)


リリン殿下「……おや、苦しくない?

 ほほう。そなた、また余を【収納】したな?

 なるほど、【収納】されている間は、意識がないのか。

 意識を失っている間に、生殺与奪の権を握られ、場合によってはオリハルコン・ドラゴンのように【収納】の中でウロコを剥がれてしまうというわけか。

 なかなかにえげつない!

 だが同時に、体内に染み込んだ『毒』のようなものを分離させることすら可能、と。

 素晴らしい、の一言じゃな!」


俺(マズいマズいマズい!

 もうほとんど、俺の能力について看破されてしまってる!)


リリン殿下「それにしても、そなたのような男に生殺与奪の権を握られるというのも、なかなかに乙なものじゃな(くねくね)」


俺(まさかの【収納】プレイ!?

 ヤバい。皇女殿下がヘンな性癖に目覚めつつある。

 いや、我ながら何だよ【収納】プレイって)


リリン殿下「じゃが、これで確信した。

 そなた――――……【収納天】じゃな?」


俺「ま、まさかそんな」


リリン殿下「魔物の血抜き、

 温泉水の真水化、

 オリハルコン・ドラゴンの【目録】内解体、

【隷属】の奪取」


俺「ひ、ひえっ!?」

俺(ガブリエラたちの【隷属】を腕輪ごと奪い取ってしまった件まで知られてる!?)


リリン殿下「上手く隠しておるつもりのようじゃが、貴族・皇族が本気になれば、この程度のずさんな秘匿は簡単に暴けるぞ。

 人の口に戸は立てられぬ。

 ウワサというものは風の速度で地を駆け回る。

 カネさえ積めば、得られぬ情報などない。

『エンデ村の前村長が猛毒に侵されていた可能性がある』

『その猛毒を、ストレジオ・ソリッドステートまたはその従者が中和した可能性がある』

 というウワサは事実であったと、たった今証明されたわけじゃしな」


俺「ってことは、アンタ、さっきのタイミングで俺の前に現れたのは――」


リリン殿下「(ニヤリ)わざとじゃよ」


俺「図ったな!?」


リリン殿下「その点については、申し訳なく思う。

 すまんかったのぅ。このとおりじゃ、許してたもぅ(頭を下げる)」


俺「…………」


リリン殿下「とはいえ、死にかかっておったのは事実じゃ。

 先ほどまでの吐血も、仕込みでも何でもなく、本当に死にかけで繰り返し血を吐いておった。

 史上初の【天】級の可能性を持つそなたに逢いたい一心で、長旅を続けたのがトドメになってしまったようじゃ。

 余は訳あって、『お忍び』としてここに来ておる。

 皇室の紋章の入った馬車に乗り、近衛兵たちを連れて闊歩カッポ闊歩カッポとやってくるわけにはいかなかったのじゃ」


俺「それは……」

俺(『呪い』なんていう禍々しいモノに侵されていたリリン殿下だ。

 メイドから教えてもらった情報によると、殿下の上に複数人の男子がいた。

『お家騒動』とか『暗殺未遂』とか、そういう目と耳を塞ぎたくなるような凄惨な現実があるんだろうな……)


リリン殿下「まぁその甲斐あってそなたに出逢うことができ、余は健康な体を得ることができた。

 死を覚悟してまで長旅に出るというリスクに対して、素晴らしいまでのリターンを得ることができたのじゃ。

 中でも最大のリターンは(俺の手をぎゅっと握る)、そなたと出逢うことができたことじゃのぅ」


俺「は、ハハハ……ソウデスカ」


リリン殿下「それで、余の『不調』の原因は?」


俺「……僭越ながら、世の中には知らなくても良いものもあるかと」


リリン殿下「幼子のくせに、大人びた言い回しをするのぅ!

 ――『呪い』か?」


俺「!?」


リリン殿下「誰からの呪いかは、分かるか?」


俺「い、いえ。そこまでは」


リリン殿下「ふむ。やはり呪いじゃったか」


俺「――あっ!?」

俺(カマをかけられたのか!)


リリン殿下「あはぁっ! 大人びているように見えて、まだまだ子供じゃな」


俺(う、うぐっ……殿下は10歳。俺より7歳も年下なのに)


リリン殿下「呪いの出どころは、あのいけすかない長男か、はたまた腰巾着の次男か」


俺(長男? 次男? 確か皇帝のお子は、皇太子、第二皇子、第一王女の3人のはず。

 この人、お兄さんたちのことを『長男』『次男』呼ばわりしてるの!?

 怖っ。皇族怖っ。っていうか兄たちに呪い殺されそうになっていたのに平然としてる!?)


リリン殿下「できれば呪いの出所まで突き止めたかったのじゃが、まぁ仕方がない。

 今度、口の固い【鑑定聖】でも連れて来るとしようぞ。

 時にそなた、変わり者じゃのぅ。貴族らしからぬ貴族じゃ」


俺「と言いますと?」


リリン殿下「そなたはソリッドステート辺境伯家の3男で、無能とのそしりを受けて追放された身。

 普通なら、前代未聞の【収納天】であることを公表し、

 ソリッドステート辺境伯の座を襲うか、

 新たな爵位を得ようと動くか、

 帝位の簒奪を試みるものじゃろう。

 もしくは、新たな国を興すか」


俺(ムリムリムリムリカタツムリ!)


リリン殿下「それを成すだけの資格があり、それを成すに足る力がある。

 ならば、それを成すのが貴族の男子というものじゃ」


俺(生粋の貴族、怖すぎる。

 俺には誰かを支配するほどの度胸なんてない)


リリン殿下「じゃというのに、大人しく追放され、こんなド田舎の村で温泉街の経営なんぞをやっておる。

 悔しくはないのか。そなたを追放した実家を、見返してやろうとは思わぬのか?


俺「私は小心者でして。領とか国とか、ガラじゃないんですよ」


リリン殿下「ふぅん?

 じゃが、腑抜けかと思えば、そうでもない。

 そなたの【収納】の中には、オリハルコン・ドラゴンの他にも、フェンリル、ケルベロス、ワイバーン、バジリスクと、伝説級の魔物がゴロゴロと入っておった」


俺(よ、よく見てる……あの一瞬で)


リリン殿下「いくら【天】級のスキルを持っているとはいえ、そなたが不死身というわけでもないのに。

 村を守るために、身を挺して戦っておるということか?」


俺「【剣聖】ブルンヒルド・ソリッドステートや【件伯】に限りなく近い【剣聖】のガブリエラ・バルルワが護衛についてくれていますので、身の危険を感じたことはありませんけどね」


俺(とはいえ、俺だって怖いのは事実。もう何度も『魔の森』に入ったけど、毎回、体の震えを隠すので精一杯なんだ。

 それでも、魔物は適度に狩っておかないと、また村が危険に脅かされるかもしれない。

 あの村が今まで存続できていたのは、多分、奇跡レベルの偶然が重なり続けてきたからだ。

 実際、あの奴隷商がガブリエラたちを使ってオリハルコン鉱山からオリハルコン・ドラゴンを追い出したという、たったその程度のことで、オークたちの生態系が乱れた)


リリン殿下「いな。ますます欲しい」


俺「んなっ」


リリン殿下「そなたの考えを当ててやろうか。

 そなたは怯えておるのじゃ。【収納天】だとバレたら、地方領主どもにクーデターの神輿として担ぎ上げられかねない、と。

 そなたは根っこからのお人好しであると同時に生来の怠け者気質で、上昇志向というものがない。

 出世なんぞに興味はないし、己の出世のためにたくさんの血が流れることなんぞ耐えられない。

 強靭じゃが、同時に脆弱な精神をしておる。

 まぁ、見ず知らずの余を助けてくれたことも鑑みるに、総じて優しすぎるのじゃな」


俺「…………。見事なプロファイリングですね」


リリン殿下「生まれながらの貴族じゃからな。

 隠し通せると、本気でそう思っておるのか?」


俺「できますよ」


リリン殿下「じゃがこのとおり、余が知ってしもぅた。

 それに、余のような子供にすら悟られる程度のずさんな隠蔽。海千山千の貴族どもが本気になったら、あっという間に丸裸じゃぞ。

 遅いか早いかだけの話じゃ」


俺「…………」


リリン殿下「じゃが、奥の手がある。そなたが名実ともに【伯】級寸前の【収納聖】になればよい。

 そうすれば、教会に赴こうとも、誰から【鑑定】されようとも、冒険者ギルドのスキル看破水晶に手をかざそうとも大丈夫じゃ」


俺「どういうことですか? そんなことができるのなら、悩んでなどいないのですが」


リリン殿下「可能じゃよ。世界でただ1人、この余にならば(胸を張る)」


俺(張るほどの胸は、ない。けどまだ10歳だ。

 ものすごく育ちそうな気がする。俺の勘がそう言っている)


リリン殿下「ん? 今何か、失礼なことを考えたかの?」


俺「いえいえいえいえ、とんでもございません」


リリン殿下「余を【収納】したのなら、見たであろう? スキル【色欲】を。

 あれは『七つの大罪』に数えられる『大罪スキル』の1つ。

 効果は、『余に心酔させた者に、スキルを献上させる』というもの」


俺「スキルを……献上?」


リリン殿下「余の【色欲】スキルは【王】級なのじゃが――」


俺「【王】!?」

俺(【暴食】付きガブリエラの【伯】級よりさらに上!

 一応、父も【農王】として【王】級スキル持ちなんだけど、【農】スキルは『周辺の農作物の育ちを良くする』という地味に強力だけど地味で非戦闘的な地味スキル。

 それでも【農王】は超広大なソリッドステート領全土に効果が及ぶほどで、事実、辺境伯領最西端のここエンデ村でも作物の育ちが良いんだよね)


リリン殿下「等級を1つ消費することで、余に心酔した者のスキルを1等級分余に献上させることができる。

【王】【伯】【聖】【上級】の4つ消費でそなたを【天】から【皇】【王】【伯】を経て【聖】まで落とし、逆に余の【収納伯】を【収納帝】にまで押し上げることができるのじゃ」


俺「それはすごい!

 ……あれ? 【伯】から4つ上なら【王】【帝】【天】ときて【神】なのでは?」


リリン殿下「上昇は2等級分で1等級なのじゃ」


俺「ナルホド」

俺(ゲームあるあるだよな。リターンよりも消費が多いシステム。

 まぁ『他人のスキルを奪えるスキル』とかいうぶっ壊れスキルだから、その辺りでバランスを取っているのかな? 知らんけど)


リリン殿下「じゃから、余に身を委ねてくれるならば、そなたは名実ともに【収納聖】になることができる。

 余は【収納帝】の力を手に入れることができる。

 そなたは平穏を手に入れることができる。

 どうじゃ、悪い話ではなかろう?」


俺「確かに! そうですねっ」


リリン殿下「時にそなた、なぜに敬語なのじゃ?」


俺「え? そりゃリリン殿下は年上ですし、皇女殿下様であらせられますので」


リリン殿下「愛をささやき合い、将来を誓い合った仲なのじゃ。

 もっと砕けた口調で良かろう?」


俺「ささやき合ってませんし、誓い合ってもいませんけど!?」


リリン殿下「じゃが、余の提案を受け入れれば、そなたは晴れて【収納聖】じゃ。怯えることはない。

 それに、【色欲】スキルを解除すれば献上させたスキルは即座にそなたに戻すことができる。

 そなたは、スキルを隠したい時は【収納聖】になっておき、全力を出したい時は【収納天】に戻ることができる。

 余さえそばにおれば、自由自在じゃぞ」


俺「それは便利! すごく便利!」

俺(問題は、リリン殿下にそばにいてもらわなければならない、というところだけど……。

 つまり実質、俺が第一皇女殿下のそばにずっといないといけない、ということなわけで)


リリン殿下「良いことづくめであろう?」


俺「ですが、皇女殿下の夫になったら、まず間違いなく政争に巻き込まれますよね?

 そういうのが嫌だから、こうして半ば隠居しているのですが……」


リリン殿下「ふぅん。

 初代皇帝をも凌駕する【収納天】だとバレてクーデターの神輿として担ぎ上げられ、帝国全土を巻き込む血みどろの内戦の主犯となり、何万、何十万人もの犠牲者を出して歴史の教科書に名を残すのと、

 余の夫として、まぁ多少はぴーちくぱーちく口やかましい宮廷雀どもとやり合うのと。

 …………――どちらが良い?」


俺「…………。~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!! 雀ちゃん一択です。

 あ、ですが1つ。

 もうここまでバレたので、私も覚悟を決めて言いますが」


リリン殿下「ほう! 【収納天】たるそなたに、まだ何か秘密があるのか?

 是非に聞きたい」


俺「あの、心して聞いてくださいね」


リリン殿下「もったいぶるでない。はよぅ」


俺「俺、【収納星】なんです」


リリン殿下「…………………………………………え?」


俺「【聖】ではなく【星】のほう」


リリン殿下「え、え、え、【星】ぃぃぃいいいいいいいっ!?!?!?!? もがっ」


俺「しーーーーーーーーっ」


リリン殿下「お、乙女の唇に触れるなどっ(真っ赤)」


俺(……おや? 【色欲】なんてヤバいスキルを持ってるくせに、意外とピュア?)

俺「なので、殿下の【色欲】スキルの5等級をすべて使ったとしても、私は【伯】級。

 逆に殿下は【天】級に限りなく近い【収納帝】になれますね」


リリン殿下「は、ははは……そうか、【星】か。文字どおり世界を支配できるではないか!

 なぜそうしない?」


俺「言ったじゃないですか。小心者だからですよ。

 この村ひとつでも、手一杯なんです。

 そんな俺が、領だの国だの大陸だの星だの、想像力の範疇外です」


リリン殿下「……っ! ますます、ますますそなたが欲しい!!」


俺「……え? 今の話のどこに、欲しがる要素が?」


リリン殿下「なぜって、そなた皇帝になるつもりはまったくちっともないのじゃろう?

 実力があるくせに、野心はない。余が最も欲する人材じゃあ!」


俺「……ちょっと待って? それってつまり――」


リリン殿下「うむ(胸を張る)。

 余は、帝位を望んでおる。

 宮廷雀どもの囁きに心を乱され、王都近縁ばかりに気を使い、『メディア帝国』という大きな体の動かし方を忘れ果ててしまった父に。

 そんな愚かな父に何ひとつ疑問を抱けぬ愚かな長男に。

 そんな長男の言いなりな次男に。

 そんな、どうしようもない者どもを廃し、再び帝国をまとめねばならんのじゃ」


俺「あのぅ……それってつまり、皇帝陛下や皇太子殿下を差し置いて、皇位を簒奪しようってお話では?」


リリン殿下「そうじゃが、何か?」


俺「この話、謹んでお断りいたします!!」


 俺は全力で逃げ出した。

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