メイド「ドラゴンは、カネになります」
俺「ほう」
メイド「血も肉も骨もウロコも、大金で取引されます。
1体あたり、金貨100枚は下らないでしょう」
俺「ほうほうほう!?」
メイド「特に、オリハルコン・ドラゴンはウロコに多量のオリハルコンが含まれているため、そのまま鎧として活用するも良し、鋳潰してオリハルコンを抽出して武器や防具として活用するも良しで、極めて高価です。
ウロコ1枚につき金貨1枚。
逆鱗は、金貨10枚はするでしょう」
俺「すっげぇえええええ!?」
ちなみに、金貨1枚とはいかほどのお値段か。
時代も生活様式も何もかもを全部無視してざっくり言うと、
『帝国金貨1枚あたり10万円』
となる。
俺(今、俺の【収納】の中に眠るオリハルコン・ドラゴンどもの、ウロコ1枚で10万円か。
億万長者じゃん!)
メイド「どうなさいますか?」
俺「そりゃ俺が黙って着服――じゃなかった。クララに渡すよ」
メイド「そうなりますか」
俺「昨日から見てたけど、あの村めっちゃ貧乏じゃん?
村民の服はボロボロ。靴履いてない子供すらいたもの。
あと壁ね。『魔の森』の隣にいるのに木造の壁って!
俺らだけ良い服着て良い靴履いて良いベッドで寝てたら印象が悪いだろ?
俺らが贅沢な暮らしをしてても肩身が狭くない程度には、村には発展してもらわないと」
メイド「ふふふっ。
あえて悪者面するところがレジ坊ちゃまらしいと言いますか。
メイドは好きですよ、そういうところ」
俺「うるさいやい」
メイド「ですがそうなると、3体のうち1体しか出せないのが残念ですね」
俺「あの、首の断面はなぁ……」
メイド「【剣聖】であるわたくしの剣ですら傷一つ付けられなかったオリハルコン・ドラゴンの首を、鏡面みたいにスッパリと。
レジ坊ちゃまの【収納】は、世界中の魔剣・聖剣をすら凌ぐ無敵の剣ですね」
俺「恐ろしい話だ……」
メイド「本当に……」
◆ ◇ ◆ ◇
クララと母親「「オリハルコン・ドラゴンんんんんんんんっ!?」」
俺「ああ。オークの襲撃は、それが原因だろうな。
オークよりも圧倒的に強いオリハルコン・ドラゴンが現れたことで、オークが森のより外側へと押し出されていったんだ」
クララ「だから、我々の村を第2の集落にしようとして、襲撃してきた、と。
迷惑な話ですね……」
俺「まったくだ」
クララ「――あっ!?
ってことは、この村が再びオークに襲撃される可能性があるわけですよね!?
今すぐ防備を固めないと!」
俺「それは大丈夫。メイドが集落ごと全滅させてくれたから。
【収納】――ほら、オーク・リーダーの首」
クララと母親「「【剣聖】様!」」
クララ「あっ、でも次はオリハルコン・ドラゴンが現れる危険性も!?」
俺「それも大丈夫。
オリハルコン・ドラゴンも、メイドが屠ってくれたから」
クララと母親「「オリハルコン・ドラゴンも!?」」
クララ「さすがは【剣聖】様! だから、そんなに血まみれだったのですね。
お疲れのところ本当に申し訳ないのですが、今の話を村の者たちにお話いただいても構いませんか?
村人たちを安心させてやりたいのです」
俺「もちろん」
メイド「(こくり)」
◆ ◇ ◆ ◇
小一時間後。
おなじみ、教会の中庭にて。
俺とメイドとクララは、木箱で作ったひな壇に上がっている。
――ざわざわ、がやがや
村人「何だ何だ」
村人「なんでも重大発表があるんだとか」
村人「【剣聖】様はなぜ血まみれなんだ?」
村人「きっとオークを退治してくれたんだ」
クララ「注目!」
――ざざっ(村人たちが姿勢を正し、クララに注目する音)
俺(おおっ。すごく、ちゃんとしている。
考えてもみれば、『魔の森』に面したこの地で生活できている彼らは、いわば『さいごのむら』の住人。
オークの集団による襲撃にも耐えていたわけだし、領軍の精鋭部隊くらいの強さは持っているのかもしれない)
クララ「オークの襲撃の理由が判明しました。
オークどもは、森の中に現れたオリハルコン・ドラゴンに追い出される形で、人里に現れるようになったようです」
村人「「「「「オリハルコン・ドラゴンんんんんんんんっ!?」」」」」
村人「なんてこった、ドラゴンだなんて!」
村人「おしまいだ! この村はおしまいだ!」
村人「逃げるしかないよっ」
クララ「静粛に!」
――ざざっ
クララ「ご安心を。オリハルコン・ドラゴンは、我らが英雄【剣聖】ブルンヒルド様が討伐なさってくださいました!」
――うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!
――ばんざーい! 【剣聖】様ばんざーい!
俺(あ、メイドが俺を見てる。
『この称賛はレジ坊ちゃまに向けられるべきものなのに』って顔してるな。
最初の1体を倒したのはまぎれもなくメイド自身なんだから、気にすることはないのに)
クララ「それでは【剣聖】様、一言お願いいたします」
メイド「こほん」
――ざざっ(村人たちがメイドに注目する音)
メイド「わたくしは、このとおりストレジオ様のメイド、道具でございます。
【剣聖】スキルも【治癒】スキルも、ストレジオ様の所有物にございます。
わたくしを使ってオークどもやオリハルコン・ドラゴンを討伐したのはすべて、ストレジオ様のお慈悲でございますので、皆様、存分にストレジオ様を称えますように」
――うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!
――ばんざーい! ストレジオ様ばんざーい!
メイド「それでは、レジ坊ちゃま」
俺「おいおい、ハードルを上げるなよ。ええと」
――ざざっ(村人たちが俺に注目する音)
俺(き、緊張するっ。
前世の俺は、平凡な17歳だった。人から注目されるなんてこと、授業中に当てられて教科書を読み上げる時くらいだった。
なのに今、学年まるまるひとつ分くらいの人たちが――それも大半が大人たちが、俺の発言に注目している)
――ぽんっ(メイドが俺の背中に触れた音)
俺(大丈夫だ。俺にはメイドがついているし)
俺「改めて。この村の領主名代になったストレジオ・ソリッドステートだ。これからよろしく。
この地は『魔の森』に面していて、苦労も多いことだろう。
だが――【収納】」
――どん!(オークの死体が出てきた音)
俺「【収納】、【収納】、【収納】、【収納】――」
――どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどん!(数十体のオークの死体が積み上がる音)
俺「幸い、こうして大量の肉が手に入った。
それに――【収納】」
――どどどどどどどどどどどどどん!(テーブルが現れ、その上に焼きたての白パンと野菜と果物が積み上がっていく音)
俺「肉以外の食べ物も、俺の【収納】の中にたくさん入っている。
さらには――【収納】」
――どどどどどん!(ワイン樽が積み上がる音)
俺「酒も」
――うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!
――ばんざーい! ストレジオ様ばんざーい!
俺(父が出してくれた支度金で、道中買い集めていて正解だったな)
俺「俺はこのとおり成長期だから、肉たっぷりの料理を期待している(ちらり、とクララへ視線を送る)」
クララ「みなさん、今夜も肉パーティーですよ!」
――うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!
俺「それと」
――ざざっ(村人たちが俺に注目する音)
俺「【収納】」
――でん!(オリハルコン・ドラゴンの死体が出てきた音)
俺「オリハルコン・ドラゴンもある。こいつを売ったカネで、村を発展させよう」
クララ「い、いただいてしまっても構わないので!?」
俺(芝居上手だな、クララ)
俺「村の近所で採れたものだからな」
村人「と、採れたって……ドラゴンを山菜みたいに」
村人「ドラゴンって、1体狩れば立派な家が建つって話だぞ」
俺(うんうん。日本円にムリヤリ換算したら、1体で1,000万円相当だからね)
村人「しかもオリハルコン・ドラゴンって、確かウロコ一枚でも金貨になるって聞いたことが」
村人「【剣聖】様がお狩りになったんだろ?
本来はストレジオ様のものにすべきなのに、村に下さるだなんて」
村人「なんてお優しい領主様だ!」
クララ「ありがとうございます、領主様!
行商人に売って、村の運営資金にさせていただきます。
再び、感謝を」
――ばんざーい! ストレジオ様ばんざーい!
◆ ◇ ◆ ◇
その後は朝まで肉祭だった。
俺は小児の体なので、早々に寝たけど。
そして翌日、
俺「買い叩かれたって?」
クララ「すみません……。
クルトさん――あの行商人さんは、この村に来てくれる唯一の商人さんで。
『嫌なら来る回数を減らしてもいいんだぞ?』って言われたら、断れなくて……」
俺「それでいくらに?」
クララ「……金貨100枚です」
俺「普通のドラゴンと同じ値段じゃん!?
オリハルコンドラゴンのウロコは、1枚につき金貨1枚って言われている。
あの大きさなら、ウロコだけで金貨1,000枚は下らないはず!」
クララ「ごめんなさいぃ……」
俺「あ、いや、クララを責めているわけじゃないんだ」
俺(すげええええっ! なろう系の悪徳商人だ! 実在していたのか)
クララ「それにしても、金貨ですよ金貨!
金貨なんて、わたし、生まれて初めて見ました」
俺(本当に貧乏なんだな、この村。
『魔の森』には貴重な素材になる魔物がいっぱいいそうだから、冒険者ギルドの支部をここに立てたら冒険者需要で賑わいそうだけど。
あーでも治安悪化は嫌だなぁ。冒険者って、荒くれ者と紙一重だし)
クララ「さっそく、このお金を使って村の壁をすべて石造りに置き換えますね。
ですが本当に、全額いただいて良いのでしょうか?」
俺「もちろん。
村の壁が頑丈になれば、俺とメイドも安心して眠れるようになるわけだし」
クララ「助けていただいたうえに、大金まで。もらってばかりです」
俺「村を守るのが領主名代の勤めだからな。
んじゃ俺らはオークの残党がいないか、森のほうを見てくるから」
クララ「行ってらっしゃいませ!」
◆ ◇ ◆ ◇
俺「オリハルコン・ドラゴンは4体いた。もっといる可能性は、十分にある」
メイド「ご慧眼のとおりでございます」
俺「クララたちには口が避けても言えないけどな」
メイド「であればこそ、わたくしたちで――というよりレジ坊ちゃまの【収納星】で狩り尽くしてしまわねば。
では始めます。【気配察知】――いました。
1キロメートル先にオリハルコン・ドラゴンと思しき反応1」
俺「マジでいるのかよ。
ってか1キロ先まで分かるのかメイド!?」
俺(おっ、それに、この世界でも単位はメートルなのか。
時分秒も同じだったし、1週間は7日だし1年は12ヶ月で365日だったし。
ファンタジー要素は薄れちゃうけど、分かりやすいのは良いな)
メイド「少し、走ります(ひょいっと俺の体を背負う)。
しっかりつかまっていてくださいね!」
◆ ◇ ◆ ◇
俺「もうすぐオリハルコン・ドラゴンがいた地点だな(ひそひそ)。
降ろしてくれ、メイド(ひそひそ)」
メイド「待って!(ひそひそ)
オリハルコン・ドラゴンの反応が消えました(ひそひそ)」
俺「え? それってどういう――」
――ガリガリ、ボリボリ、グチャグチャ……(何者かが、オリハルコン・ドラゴンの死肉を食い漁る音)
俺(…………は?
捌いたのか、オリハルコン・ドラゴンを?
【剣聖】のメイドですら傷一つ与えられなかった、オリハルコン・ドラゴンを!?)
???「肉……肉ゥ……喰イ足リナイ……」
『そいつ』が、顔を上げた。
目が合う。
???「肉、肉、肉ゥゥウゥゥウウウウウウウウウウウッ!!」
オリハルコン・ドラゴンをバラバラに捌いた『そいつ』が、俺に飛びかかってきた!