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9「答え合わせ」

俺「知ってたって、本当に!?」


メイド「はい。ですが、レジ坊ちゃまがご自覚なさっておいでだとは存じ上げませんでした。

 どうして秘密になさっていたんですか?」


俺「どうして、って。

 こんな【神】スキルならぬ【星】スキルなんて持ってるってバレたら、絶対に面倒なことになるだろ。

 女神教の連中に捕まって教祖として祭り上げられたり、さらわれてスキル解析のために実験動物にされたり。

 俺はのんびりスローライフを謳歌したいんだよ」


メイド「ナルホド、道理です。

 レジ坊ちゃまが思慮深く、そして怠け者気質な方で本当に良かった」


俺「怠け者って、お前な」


メイド「いえ、本当に良いことなのです。

 無能な働き者ほど有害な存在もいませんので。

 レジ坊ちゃまは『有能な怠け者』。素晴らしい」


俺「お前は、『実力を隠すなんてもったいない』とか言わないんだな。

 俺が辺境伯位を継承したら領地は発展するだろうし、お前は出世できるだろうに」


メイド「そうですね。

 そして……(渋面一色)、皇室から大量の暗殺者が送り込まれてくることになるでしょう」


俺「――――え? えええええええっ!?」


メイド「レジ坊ちゃまは7歳とは思えないほど思慮深いお方ですが、まだまだ知識と思慮が不足しておいでのようです。

 貴族社会の血生臭さに対する知識と思慮が。

 というのも――」


 メイドは俺に、皇室の現状について教えてくれた。

 つまり――





・現皇帝が【王】級であり、侮られがちであること。

 幸いにして国内に【帝】級スキル保持者はいないが、父・ソリッドステート辺境伯をはじめ【王】級スキル保持者は多数おり、過去に【王】級が謀反を起こそうとして失敗したケースが複数あるということ。


・現皇帝は帝都とその周辺の魔物を沈静化させることができる、【従魔王】というとてつもなく有用なスキルを持っており、そのお陰で国の中央はかつてないほど平和であること。

 そして、帝都に住む宮廷貴族たちからは、皇帝はとてもウケが良いこと。

 だが、【従魔王】スキルの範囲外である地方の貴族領は依然として魔物が闊歩しており、地方は苦しめられていること。

 そのことで、地方領主貴族は皇帝と宮廷貴族たちに不満と不信を溜めつつあること。

 地方から集められた税金が魔物対策に充てられることもなく、その税金で贅沢三昧な生活を送っている帝都の連中に対して、地方貴族たちはガマンの限界を迎えつつあること。


・皇帝の子供たちには皇太子含め【帝】級スキル保持者がおらず、それどころか【王】級や【伯】級以下の子もいるとかで、世継ぎの求心力や正当性が疑問視されていること。


・以上を踏まえ、【帝】級が皇室外から生まれた場合、地方の大物貴族たちがその者を神輿にして謀反を図る可能性が非常に高いこと。

 その神輿が、他ならぬ俺になる可能性が極めて大きいこと。


・皇室が俺の存在に気づいた場合、まず間違いなく排除しようとしてくるであろう、ということ。

 暗殺・謀殺・無実の罪での処刑、なんでもござれ。





俺「Oh…………。

 あれ? ってことは、父上は俺が【収納星】であることを知っているのか?」


メイド「はい。ですが、レジ坊ちゃまがあのまま領都でご成長なさっていては、いずれ【星】級の力に気づき、ウワサになる恐れがございました。

 ウワサというのは、風の速度で駆け巡ります。

 分かりますでしょう?

 求心力を失いつつある皇室とその取り巻き。

 不満を貯める地方領主たちと、魔物と税金に苦しめられている領民たち。

 そんな中、救世主とばかりに現れた、前代未聞の【星】級スキル保持者。

 それはもう、駆け巡りますとも、ウワサが、国中を。

 ビュンビュンでございます」


俺「あー、な。

 父上は俺が【収納星】であることを知ってた。知った上で、俺の存在を中央から隠すために、あえて『追放』という形を取って、俺を辺境伯領で最も田舎のこの村に押し込んだ」


メイド「そのとおりでございます」


俺「ソリッドステート領における最大戦力であるメイドを俺に付けてくれたのは、俺に対する愛情があったからってことなのか?」


メイド「もちろんでございます!

 このメイド、いつなんどきも、レジ坊ちゃまのことは目に入れても痛くないほど可愛いと思ってございます。

 今ここで、入れて差し上げましょうか?」


俺「い、いや、いいよ。お前の愛は重いほど、じゃなかった、痛いほどよく理解してるからさ」


メイド「ですが、同時に……(珍しく、本当に珍しく、言い淀む)。

 万が一、レジ坊ちゃまが【星】級スキルの存在に気づき、下剋上や謀反を企てたときには、こ、こ、こ、ころっ、殺すようにと……(ポロポロポロ、と涙を流す)」


俺「わーーーー!

 だ、大丈夫! 俺はそんなことしないっ。

 実力は隠す。隠しとおすさ。

 俺が【収納星】だってことは墓まで持って行くし、辺境伯位や、ましてや帝位を狙うような願望なんて持ってねぇよ。

 怖かったな、ブルンヒルド(頭を撫でる)。ゴメンな、心配かけた」


メイド「れ、れ、れ、レジ坊ちゃまぁぁああ~~~~~~~~ッ!」


俺「おお、よしよし(メイドの背中をぽんぽんしてやる)」

俺(これじゃ、どっちが保護者か分からないな。

 けどまぁ、母乳を与えて7年も育ててきた子供を殺せ、なんて命令、俺が女で同じ命令受けたら発狂するわ)


 俺の頭・背中ぽんぽん攻撃が功を奏したのか、メイドは見事立て直した。

 色々あったが、俺とメイドは『俺が【収納星】である』という世界崩壊級のとんでも秘密を共有しつつ、そのことを帝室を始めとした世界に対して秘匿する『共犯者』となった。

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