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3「女神にハメられた」

 同日。

 領都の教会にて。


神父「これより、洗礼の儀を行います。

 敬虔な気持ちになって、女神様に祈りなさい」


俺(転生当日に即洗礼の儀とは……容赦ないなぁ女神様)

俺「…………(お祈り中)」

俺(時間なかったけど、最低限、スキルについては勉強してきたぞ。

 女神様、確か【収納】って言ってたよな。あと、『色を付ける』とも。

 ってことは【上級収納】とか【収納聖】とか?

 いや、俺、三男とはいえ一応貴族なわけだから、『貴族3級』の【収納伯】とかもらえちゃったりして?)


???「――! ――おーい!」


俺「――――はっ!? め、女神様!?」


半透明の女神「半日ぶりですね。

 あ、今の私はアナタにしか見えてませんので、あしからず」


 神父が、俺を怪訝な目で見ている。

 俺は慌てて祈りのポーズを取り直す。


女神「はいコレ。アナタのためにご用意した、とっておきのスキルです」


 ――シュンッ!(虚空から羊皮紙が現れる音)


俺「こ、これは――」





【収納星】





 紙にはデカデカと、そう書かれていた。

 ついでに、何やら紋章めいたモノも。


俺(……え? ……はぁあああッ!?)


女神「(ニヤニヤ)」


神父「ご、ご子息殿、その紙はいったい!?

 そこに書かれているのは――」


俺「わーーーーーーーーっ! ごっくん!(羊皮紙を丸めて飲み込む)」


神父「ご子息殿、いったい何を!?」


俺「す、すみません。気が動転してしまって」


 女神の姿はもうない。


俺「ぎ、儀式も終わったようですし、これで失礼いたしますね!」





   ◆   ◇   ◆   ◇





 自室にて。


俺「女神ーッ! 女神出てこーい!」


 ――シュン!(目の前にウィンドウが表示される音)


女神「呼びましたか?」


俺「うわぁ、急に出てくるな!」


女神「出てこいと言ったり出てくるなと言ったり……。

 処しますよ?」


俺「ひぃっ、ごめんなさい! ――じゃなくて!

 何ですか【収納星】って!? こんなバケモノ級のスキルなんて、俺は望んでいませんよ!?

 そりゃハーレムは望みましたし、ちょっとしたチートスキルで楽しい異世界ライフを送れればいいな、とは思ってましたけど。

 だからって【星】級はないでしょう!?

 俺はごくごく平凡な高校生だったんです。人の上に立つなんて、ましてや領地の、国の、帝国の、いや、星の上に立つなんて俺には無理です!

 っていうか『星の上に立つ』ってナニ!? 意味分かんないんですけど!?

 交換を要求する! 今すぐ【聖】級か【伯】級あたりのスキルと交換してください!」


女神「スキルはすでに、アナタの魂に定着しています。

 引っ剥がしたらアナタは死ぬか植物人間になりますけど。やりますか?」


 女神がウィンドウから腕を伸ばしてきた。

 俺は全力で後ずさる。


俺「ぜ、前言撤回でお願いします。

 それにしても、ですよ。何ですか【収納星】って?

 コレ、明らかに人間用じゃないですよね?」


女神「ええ、まぁ。神用ですね。

 神が星を運営する際に、山をずももってしたり川をずびゃびゃってしたりするときに使うスキルです」


俺「都市開発シミュレーションゲーム感覚!

 そんな神スキルを――じゃなかった。【神】級のさらに上位の【星】級スキルを、どうして俺に押しつけたんですか?」


女神「いやぁ、そのスキルでこの星の管理するの、面倒くさくなっちゃって。

 アナタに貸し与えていたら、その間はアナタを言い訳に私がサボれるじゃないですか。

 私ってば、こう見えてものすーーーーっごく忙しいんです。

 地球やこの星の他にも、いくつもの次元宇宙と星々を管理しているものですから」


俺「お気持ちは察しますが……。

 忙しいのなら、俺なんかにスキルを移譲して、貴重な時間を割いてコミュニケーションを取っている今この時間のほうが、もったいないんじゃないですか?」


女神「娯楽が」


俺「え?」


女神「欲しくて」


俺「やっぱり楽しんでるだけじゃないですかーっ!

 とにかく俺は、この星を管理するような、そんな面倒くさいことは絶対嫌ですからね!?

 何がなんでも、気ままなスローライフを送ることにします」


女神「無理だと思いますよ。

 この大陸の最大宗教――私を祀っている女神教は、スキルの階級にうるさいですから。

 どれだけ逃げても、教会に地の果てまでも追いかけられて、神として――いえ、星として奉られるでしょうね。

 良かったですね! 念願のモテ期ですよ!」


俺「ただの危機ですよ!

 俺は、そんな怪しげな宗教の教主になんて絶対になりません」


女神「なったほうが安全だと思うんですけどねぇ」


俺「は? 安全? どういうことですか?」


女神「【星】級はまさしく全スキルの境地。全人類にとって垂涎の的。

【神】ならぬ【星】として神殿の中心で守られているならともかく、下町なんかをぶらぶらと歩いていた日には、サクッと拉致られて実験動物としてサクッと解剖されちゃうかも」


俺「ヒエッ!?

 と、とにかく、俺が【収納星】だとバレなければ良いわけでしょう?

 隠しとおしてみせますよ。何としても隠しとおして、俺は俺の平穏な日常を守りとおしてみせます」


女神「そう上手くいきますかねぇ~。

 ま、アナタがそうやって右往左往するのを見守るのも、それはそれで楽しそうですが」


俺「こ、このっ、鬼! 悪魔! 女神!」


女神「というわけで、しばらく――そう、あと7、80年かそこらは、アナタに【収納星】を預けておきますので。

 ではでは~」


 ――シュン!(ウィンドウが消える音)


俺「ぐぬぬ……」


 ――コンコンッ


俺「は、はい! どちら様?」


メイド「メイドでございます。

 旦那様がお呼びでございます。洗礼の儀の結果はどうだったのか、と」


俺(ヤバいヤバいヤバい! どうしよう!?

 正直に言うわけにもいかないし……。

 そうだ。【収納聖】だった、と言い張ろう!

 幸い、【収納聖】も【収納星】も、この国の言葉では『ストレージ・スター』になるし。

 嘘はついていない。父が勝手に勘違いするだけさ。ふふふ……!)

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