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2「ケツ圧とおっぱいと異世界転生」

 数日前。

 何もない、真っ白な空間にて。


 目の前に女神っぽい人がいる。

 ドチャクソ可愛くてドエロい。


女神「加護オサムさん、アナタは死にました」


俺「異世界転生ですか!?」


女神「話が早くて助かりますが……(苦笑)。

 ご自分の死因とか、ご興味ないので?」


俺「それは確かに。

 俺、いつものように通学路を歩いていたはずなのに。

 何も異常なんてなかったはずです。

 強いて言うなら、『なんとなく』、『寄り道』をしていたくらいで」


女神「ケツ圧です」


俺「え?」


女神「アナタの死因のことです」


俺「け、血圧!? 俺、まだ17歳だし、高血圧でも低血圧でもなかったはずですけど」


女神「いえ、おケツの圧力です。


俺「は……? おケツ?」


女神「アナタが歩いていた歩道の、すぐそばのビルから飛び降りがありまして。

 飛び降りた少女は、覚悟が決まりきらないまま飛び降りてしまったらしく、へっぴり腰な体勢で落下することになりまして。

 こう、こんな体勢で(おケツを突き出す女神様。ドエロい)。

 それで、こんなふうに突き出したおケツの向かった先が、ちょうどアナタの脳天だったのです。

 ヒップドロップをかまされる形で、アナタは脊髄を激しく損傷。即死しました」


俺「そ、その人は助かったんですか!?」


女神「…………(きょとん)。

 ぷっ、ふふふっ。今の話を聞いたあとの第一声がソレとは、アナタ、ものすごくお人好しですねぇ。

 大丈夫、助かりましたよ。

 というか、助かるように・・・・・・する・・ために・・・アナタ・・・あの・・場に・・配置・・した・・です・・から・・

 他に、聞きたいことはございませんか?」


俺「その落ちてきた人、『少女』って言いましたよね!?

 か、可愛い子でしたか!?」


女神「ふふっ。とんでもねー美少女でしたよ(にっこり)」


俺「え、えへへ……(頭頂部を撫でる)」


女神「ナルホド。間接キッスならぬ間接ヒップですか。

 レベルが高いというか、非モテを極めし者の業が深いというか……」


俺「非モテで悪かったですね!?」


女神「他に聞きたいことは?」


俺(な、なんなのこの女神様、やたらと質問させてくるじゃん。

 俺に何かを聞かせようとしているような?

 ――あああっ、そうだ!)


俺「あ、アンタ今、俺を美少女おケツの下に『配置した』って言いませんでしたか!?

 言われてみれば通学中、俺は寄り道なんてほとんどしたことがなかった。

 なのに今日に限って、なぜ!?」


女神「お気づきのとおり――」


 女神様が、頭を下げた。


女神「私が、アナタを死なせました。

 アナタ以上の適任者が、あの場にいなかったからです」


俺「俺の『なんとなく』も、女神様の仕業ですか!?」


女神「そのとおりです」


俺「……………………なぜ?」


女神「十数年後、地球を未知のウイルスが襲います」


俺「え? 何の話――」


女神「あの少女は、受験勉強のつらさや将来への漠然とした不安などに苦しめられていました。

 まぁ、思春期の人間あるあるですね」


俺(うおっ、めっちゃドライ。さすが神様視点)


女神「それで自殺に踏み切るわけですが、たまたま真下にいた同年代の少年をヒップでドロップすることで、一命を取りとめます。

 ですが少年は、哀れ命を落としてしまった」


俺「哀れって……ソレやったの女神様ですよね?」


女神「心機一転した少女は、無我夢中で勉強に取り組み、超難関医大に合格します。

 そうして、やがて世界を恐怖のどん底に突き落とす感染症――その特効薬を開発するに至るのです」


俺「な、ナルホド……そういう未来を勝ち取るための、俺は致し方ない犠牲だったと。

 いや、でも別に死ぬ必要はなかったのでは?」


女神「少女が心を入れ替えるためには、誰かが彼女のために死ぬ必要がありました。

 自分の浅はかな行動が、見知らぬ誰かを殺してしまった……ならばその分、自分が見知らぬ誰かを何人、何十人、何百人と助けなければ、釣り合いが取れない――。

 と、それほどの衝撃がなければ、彼女が奮起するには至らなかったのです」


俺「ナルホド……」

俺(筋が通ってる。聞けば聞くほど、納得できてしまう。

 だけど……あれ?

 あの場には、他にもけっこう人がいたし……死ぬ人、俺でなくても良かったのでは?)


女神「あぁ、それは(にっこり)。

 アナタが、あの半径1キロメートル範囲内かつあの時間帯に自然に出歩ける者の中で、『地球に良い効果をもたらす』ランキング最下位だったからです」


俺(何、その無慈悲なランキング!?

 っていうか女神様、俺の考えが読めるの!?)


女神「全知全能ですから」


俺(よ、良かった……女神様相手にエロい妄想とかする前で)


女神「ぶち転がされたいんですか?」


俺「あ、あはは……冗談ですよ。

 でも、最下位ってのは聞き捨てならないんですが」


女神「ご冗談はその冴えない外見と非モテ歴だけにしてください。

 アナタは年齢イコール彼女いない歴であり、文武・芸術その他においても何ら優れたところがありませんでした」


俺「(グサッ)う、うぐっ」


女神「向こう5年においてもそうです。

 アナタは子孫をもうけるどころか彼女すらできず、零細企業のサラリーマンとして日々を浪費していた」


俺「(グサグサッ)ひぐぅっ。

 で、でも、23歳だったら未婚でもおかしくないでしょう!?」


女神「10年後の未来についても教えて差し上げましょうか?

 何なら15年後も?」


俺「やめてください死んでしまいます」


女神「とまぁそんなわけで、女神的統計および女神的独断と偏見のもと、アナタに白羽の矢を立てさせていただいたわけです。

 とはいえアナタからすれば、まぁまぁ迷惑な話だろうと思います。

 たとえアナタの地球における人生が、失意と非モテにまみれたものだったとしても……」


俺「一言多いですよね!?」


女神「失礼(こほん)。

 なので、補填をさせていただきます」


俺「おおっ、異世界転生ですね?

 女神様のせいで俺の貴重な青春時代が奪われたのですから、ハーレムを希望します!」


女神「ちょうど、転生先の星で大陸を征服した皇帝のスキル【収納】の枠が空いてまして。

 このスキルがあれば、引く手数多。モテモテになること請け合いです」


俺「おおっ?」


女神「さらに、お詫び料も兼ねて色を付けておきますね。

 ついでに、転生特典のお約束でもある【異世界語理解能力】と簡単な【鑑定】スキルも」


俺「大盤振る舞いじゃないですか! お優しい」


女神「……うふふ(ニヤリ)」


俺「え、何ですか今の『ニヤリ』って?」


女神「別に。何でもありません。

 最後に1つ確認ですが、赤ちゃんスタートと幼児スタート、どちらが良いですか?」


俺「え、どういうことですか?

 転生っていったら赤ん坊から始めるものなのでは?」


女神「最近は異世界転生モノもタイパ重視になっておりまして、ゼロ歳からスタートしてダラダラ赤ちゃんフェーズやってると、それだけで読者にブラバされちゃうんですよね」


俺「作者の都合!?

 っていうか人の人生のことフェーズ扱いするのやめてもらえません!?

 あと、俺は赤ちゃんスタートを希望します」


女神「えええ……ここまで言っても赤ちゃんスタートを希望されるんですか?

 分かってます? 赤ちゃんとしてスタートするということは、ウンコ垂れ流しながらおっぱいちゅぱちゅぱなんですよ?」


俺(うっ……確かに、17歳の意識を持ったままウンコ垂れ流しはツラい。

 異世界のオムツ事情なんてたかが知れてるだろうし。

 いや、でもおっぱいは捨てがたいなぁ)


女神「そこまでしておっぱい吸いたいんですかオギャりたいんですか~?

 アナタのような未来ある若者すらおギャリたがるなんて、疲れてるんですかねぇ人類」


俺「主語がデカいんですよ。さすがは神視点。

 それと、俺の未来は美少女のケツ圧に潰されました。誰かさんのせいで」


女神「(笑)」


俺「なにわろてんねん。人の心とかないんですか」


女神「神ですから。

 あーもう面倒くさい。女神的横暴によって、アナタを幼児スタートとします」


俺「おっぱいは!?」


女神「それではごきげんよ~。

 よ~……。

   よ~……。

     よ~……」


 ……

 …………

 ………………

 ……………………





   ◆   ◇   ◆   ◇





俺「――――はっ!? ここは?」


 豪華な部屋に、豪華なベッド。

 どうやら本当に、異世界転生したらしい。


俺「よっこらしょっと。

 鏡、鏡……って、あああああっ!?」


 大きな姿見に映っていたのは、120センチばかりの子供の姿だった。


俺「幼児ですらねーじゃん!

 え、何? これが神的感覚ってこと!?

 神様からすれば、人間の3歳も4歳も5歳も6歳も7歳も同じってこと!?

 怖っ、神様怖っ!」


 ――ガチャリ(ドアの開く音)


メイド服の少女? 女性?「おはようございます、レジ坊ちゃま。

 朝から何を騒いでおいでですか?」


俺「あ、おはようございます。

 ええっと、どちら様でしょうか?」


メイド「寝ぼけておいでなのですか?

 メイドはレジ坊ちゃまの家庭教師 兼 護衛 兼 剣の師匠 兼 乳母の天才ウルトラメイドでございます」


 こうして俺の、第2の人生が始まった。

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