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隣町のうた

ー午前6時

今日はまた……昨日のせいで寝起きが……悪いね……

がんばって……今日も働こう……。



ー午前9時

一通りの作業が終わって……僕は村に出かけた。

「でねでね!その人のうたがまたすごいのよ!」

……いつもの騒がしい声がきこえる……。

「あ!アル!ねぇねぇ!きいてきいて!」

「おはようミカ……また今日は……どうしたの……?」

「それがね!隣町の吟遊詩人の人がすごいの!ねぇアル!あんたきいたことある?!」

「いや……そのうたも……吟遊詩人……?の話も……きいたことないけど……」

「まーったくアルったら遅れてるんだから!ね、みんな知ってるわよね?」

「いや、知らないけど……」

「お前も知らないのか」

「私も知りませんね」

「なんだ……みんな知らないんじゃない……」

ミカはどうもこういうところがある……。

「えーっ!ちょっと信じられない!ねぇみんな!この後時間ある?!」

「なくは……ないけど……」

「俺も……」

「まあ……」

「よーし!じゃあ隣町に乗り込むわよー!」

なんて強引な子なんだろう……。



ー午前10時

隣町のコンデスへやってきた……

「さあ!やってきましたコンデス!」

「お、早速見つけたぜ!あれだろ?ミカ」

「あ、そうそう!あの人!」

街の広場にカッコイイ帽子を被った人がいる……

「おや……?見かけないカオだね……」

「こんにちは!隣の村のタスフからきました!ミカっていいます!」

「元気な子猫ちゃんだ……ボクのうたを聴きに来たんだね……?」

「あ……帰ろっか……」

「ちょっとちょっとアル!何言ってるのよ!」

「そうだぜ!面白いじゃねぇか!」

「いや……多分本人はカッコイイと思ってると思いますよ……」

「私はこういうのアリだと思うぜ?」

「えぇと……キミたち?どっちなのかな?」

「あ、ききたい!ききたいデス!」

「ふふん……いいだろう……さぁ、ボクのうたに酔うといい……」

そういうと吟遊詩人の人は手に持ったハープをポロロンと鳴らしてうたを歌い出した。

「人は~♪独りでは生きられない~♪…♪……♪」

吟遊詩人の人は彩やかに歌い切った。

でもこのうた……。

「わぁ……やっぱりすごい!ね!ね!みんな!すごいでしょ!」

「へぇ……なかなかやるじゃないか」

「確かにこのうたは……なかなか響きますね」

「ふふん……そうだろう?」

「……ちょっと……いいかな……」

「ん?なんだい?」

「その……あんまり言っていいかわかんないんだけど……このうた……僕……知ってるんだ……」

「な……なんだって……?」

「あのね……言いにくいんだけど……その……なんでかわかんないんだけど……昔僕が作ったっていうか……」

「えー!!ちょっとちょっとどういうこと?!」

「は……ははん……?あ、ありえない……キミの思い過ごしなんじゃ……」

「いや……この歌詞……知ってるなんてものじゃないよ……僕が……昔作って……よくうたってたやつだ……」

「どういうこと?よくうたってたって……私こんな良いうた知らないわよ?」

「それは……家族がいない時に……寂しくないように……うたってた……うた……」

「え、それじゃあ……ま、まさか……?」

「たまたま……にしては……できすぎ……かな?」

「師匠と呼ばせてくださいぃぃ!」

唐突に吟遊詩人の人が叫んだ

「え……?な、なに……?」

「わたくしユーグリア・サイナンデスは!貴方様のうたに惚れ込んで吟遊詩人を目指したのでございます!」

「吟遊詩人じゃないよ……僕は……」

「ボクが小さかった時、貴方様のうたをある山で聴いたのです!独りで山に迷っていたボクはそのうたを何度も繰り返しうたい、勇気をもらい山を降りたのです!それからというもの、寂しい時にはあのうたを口ずさみ……そうしてあのうたをみんなにもきかせたいと思いはじめ……」

「うん……うん……わかったから……」

「へぇ……アルにそんな才能があったとは知らなかったな」

「な……なぁにたまたまでしょたまたま。私だってアルのうたなんて全然きいたことないし……」

「何悔しがってんのさあんたは」

「だってだってぇ!それじゃあ私はアルのうたでこんなに騒いでたってことになるじゃないのー!」

「ま……まあこの人のうたもうまかったから……」

「ありがたきお言葉です!」

「もうすっかり弟子みたいになってますね……」

「ボクのことはグリアとお呼びくださいませ」

「グリア……こんなにこのうたを好きになってくれてありがとう……じゃあ……また今度……僕の作ったうた……教えてあげるね……」

「え!まだあるの?!」

「なんでミカが少し嬉しそうにしてるの……」

「べ、別に………そんなこと……」

「他にもボクなんかに教えていただけるのですか?!」

「うん……僕のうたが気に入ってくれたなら……きっと他のも気に入る……」

「ありがとうございます!必ず多くの人を幸せにするよううたわせていただきます!」

「そんなチカラが僕のうたにあるかはわからないけど……お願いします」

「それで……その……アレな話、売上なのですが……どれほどお渡しすれば……?」

「……?二ーディのこと?」

「はっ!無償でよろしいのですか?!」

「グリアは……とるの?」

「……吟遊詩人を生業にしている以上……強制はしておりませんがおひねりをいただくこともございます……」

「そっか……それがグリアの仕事……だもんね」

「なんか……まずかったでしょうか?」

「ううん……グリアが頑張ったことなら……全部グリアが貰うべき……だと思って……」

「し……師匠……!」

「いいのかよアル……もし売上を貰えるってんなら貰っといた方が得だぞ……」

「損得じゃないんだ……僕は……僕なんかのうたで幸せになれる人がいるのなら……ただみんなに幸せになってほしいんだ……」

「なんて謙虚なんだろうこいつは……」

「まあ、本人がいいって言ってるんだから、あんまりつっこまない方がいいですよ」

「じゃあアルのかわりに私が!」

横からミカが飛び出してきた。

「お前はちょーっと謙虚さを知ろうな」

「えへへ……」

「じゃあ師匠!早速弟子入りということで!住所を教えてもらってもよろしいでしょうか?!」

「へ……?」

「弟子入りといえば住み込み!これからは師匠の家で暮らさせていただきます!なに、身の回りのお世話はお任せください!なんでもやります!」

「えっと……さよなら……」

「師匠ー?!」

僕は振り向かずに走った。

背中からみんなの声が聞こえたけれど、走った。



ー午後1時

タスフの村に帰ってきた……。

「疲れた疲れた……ご飯を食べに行こう……」

ハングリーラビットへ向かうことにした。

「おーっす」

「あ、アルー!遅いよ!」

「先に走ったと思ったのにようやく到着ですか?」

みんながもういた。

「師匠!お疲れ様です!」

……ヘンナノもいた……。

「えっと……グリアも来たんだ……」

「いえいえ!住み込みの件は流石にもういいませんよ!」

「ただ、やはり師匠のことは諦めきれないそうだとよ」

「それじゃあやっぱり……この村に住むつもりなの……?」

「うーん……考えたんですけどね……やめておきますよ」

「えー!そりゃまたどうして!グリアくんが来てくれればいつでもあのうたを聴けるんでしょー?!」

「いやぁ……お恥ずかしいことに……コレがございませんので……住むところを自分で用意することは……できないんですよ……」

グリアは指で例のサインをした……まぁ、引越しするには二ーディが要るからね……。

「ですから師匠には、住み込みとは言わずともまたお伺いした際に伝授をお願いしたいと……」

「全然いいよ……流石に……一緒に暮らすのはあれだけど……」

「ではよろしくお願いします!」

「まあ予定とかは……あんまり決まってないから……いつでもおいで……」

「はい!」

「なんやかんや面倒見いいのよねアルって……」

「シャルの話はヤメロ……」

「まあまあビット……彼女の話はしてないじゃないですか」

「おっと、すまん」

「とはいえ確かにアルは面倒見がいいよな」

「おや?チェリッシュにも心当たりが?」

「ん……ん!いや!私の思い過ごしだったかもしれないな!」

「なんか怪しいな……」

「あいつやっぱほっといたらまずいんじゃないのか?」

「だからほっとく以外にどうするっていうんですか……」

「……確かに……もともと力でどうこうしてるタイプじゃないしな……」

「殴ったりなんかしたら明らかにビットが悪者ですよ……」

「なんの話をしてるんだお前ら?」

「あぁ、なんでもないよ」

「そうです」

「しかしまた変なのに好かれたもんだな」

「まあタスフの外交に貢献しているといえばあながち偉大とも言えることですよ」

「それはお前……言い過ぎだろ……」

「とはいえ彼のうた声に魅せられたことは否定できないですよね?」

「それは……確かに」

「集客して二ーディを集めたらどうでしょう……?」

「お前さっきの話きいてたのかよ……」

「アルが受け取らない、というだけの話でしょう?それに客が集まれば当然我々の作物や料理も売れるというわけです……こういうことは有効活用しませんとねぇ……」

「俺はたまにお前が怖いよトーマス……」

「おほん……!えーアルくん、私は応援しますよ

是非新曲を彼に伝授してあげてください」

「トーマスも……応援してくれてるんだ……うん……わかったよ……!僕はがんばる……!」

「よかったねアル!私も応援してるからっ!」

「やっと……素直になったね……」

「悔しいけど……ここまでみんなから言われちゃあね!」

「じゃあちょっと気は早いけど村長にうたをうたう許可をもらいにいきましょうか」

トーマスは早々に席を立とうとした。

「いつになく……積極的……だね……」

「……え?」

「……トーマスは……こういうの……どうでもいいと思ってた……」

「と……当然でしょう……友の才能が認められたんです。私も嬉しいんですよ」

「そこまで言ってくれるなんて……本当に嬉しいよ……」

「なぁトーマス……やっぱ……やめねぇ……?」

「なぜです?」

「お前……アルのあんなキラキラした目を……目を……裏切れんのか……?」

「人聞きの悪いことを言わないでください。別に嘘は言ってないですし、少しばかり利用させていただくだけです」

「まぁ……確かに……そうか……」

「それでは村長のところに行きましょうか」

「あ……その前に……ご飯……食べよ?」

「あ、そうだった!じゃあグリアくんも交えて!みんなで食べよ!」

「ありがとうございます!」

「みんなで食べた方が……おいしいよ……」

みんなでご飯を食べた……。



ー午後2時

村長グリンの家

「ほほう……こやつが噂の隣街の吟遊詩人か……」

村長が髭をこすりながらグリアをジロジロと見つめている……。

「はじめまして、村長グリン殿。ボクはユーグリア・サイナンデス。うたをうたっております」

「それで……?ワシに何を求めにきたのじゃ?」

「もしよろしければ……ボクにこの村でライヴをやらせていただけないでしょうか……?」

「ふむ……くわしくきかせてもらおうかのォ……」

……

……

……

「なるほど……アルがつくったうたを……お主がうたうと……」

「その通り……師匠のうたは最高なのですよ。それで、もしよろしければこちらの村で一番最初に聴いてもらいたいと思いまして……いかがですかな……?」

「ふむ……それでは……」

「そこで……ギャランティのことなのですが……」

「むむ……?」

「まあボクも善意では食べていけないので……その……お願いしてもよろしいでしょうか……?」

「ふぅむ……しかしのぅ……正直ワシも雇いでお主をうたわせられるほどの贅沢はできんし……」

「村長」

「む……?なんじゃトーマス」

「私に考えがあります」

「……言ってみなさい」

「私たちは農家です」

「そうじゃの」

「彼はそんな私たちに安らぎの時間を提供してくれます」

「ふむ」

「さて、そんな安らぎの時間の中に、おいしいものがあったら、より良いとは思いませんか?」

「……なるほど……出店を出すのじゃな……?」

「その通りでございます」

「うまくいけば、他の街や村からの客で村も潤う……ぬふふ……んんごほん……考えておこう」

「ありがとうございます」

「それではグリアよ。また日程や計画が決まったらワシにいいにきなさい」

「ありがとうございます。最高のうたをお届けいたします」



「うまくいきましたね」

「結局村長も二ーディに目が眩んでいたような……」

「まあ、あればあるほど困るものでは無いですからね」

「あの……儲けるためにやるんじゃないからね……」

「わぁかってるって」

「ボクはとにかく貴方様のうたに魅せられそれを拡げたいのです……!」

「楽しみにしてるからね!」

「私も楽しみにしてるからな!」

みんな僕たちが作るうたに期待してるみたいだ……。

グリアがうたってくれるの、僕も楽しみだ……。



ー午後7時

みんなと解散して仕事をして、またハングリーラビットへきたよ……。

「さぁて、ご飯だ……」

「あ、アルくん!」

「あ……アミィ」

「どうも!遅くまでお疲れ様っ!」

「アミィこそ……今日は僕たち結構遊んじゃったから……」

「そうなんだ!……?僕……たち……?」

「みんなで隣町のコンデスに行ってきたんだよ……」

「な……ボクだけ置いてきぼり……?」

「たまたまみんないただけ……だから……」

「なぁんかちょっとへこむな~……」

「ご……ごめんね」

「なんでアルくんが謝るのさ!でも慰めてくれていいよ?ふふふっ」

アミィがいたずらっぽく笑った。

「じゃあ……いいニュース……」

「なになに?!」

「おともだちが……できました」

「……それは……オンナノコなのかな……?」

「え?」

「ん?」

「えっと……」

「ん?」

アミィはずっとおんなじ笑顔で促している。

「男……だよ……」

「そっか!」

「グリアっていう……吟遊詩人の子だよ……」

「へぇ~それじゃあさぞうたがうまいんだろうね」

「それが……」



「えー!アルくんのうたなの?!」

アミィに事情を話した。

「聴いてみたいなぁ~!いいなぁ~!」

「なんと……今度村でライヴをやります……」

「わ~!絶対にいくよ!」

「ぜひ来てほしい……」

「ね……その時は……サ」

「ん……?」

「えぇと……一緒に……ごにょごにょ……」

「うん……今度はみんなで行こうね」

「あ……うん……うん!そう!ね!」

そうこう話しているとみんなが入ってきた……。

「あ、アミィ!……まぁたおふたりさん……」

「た……たまたまだよぉ~」

「しかし今日はアミィ損だったかもな」

「きいたよ~!いいなぁアルくんのうた!」

「まあアルっていうか……まぁ間違ってないか」

「今日行けなかったから……今度みんなでライヴに行こうねって……話してた……」

「……え?アミィ……それでいいの……?」

「そりゃあねぇ!!みんなと行きたいよねぇ!!」

アミィは大きな声でこたえた。

「あいつまたやったな……」

「ほら、ほっといても大丈夫でしょう……?」

「ところで……グリアは……どうしたの……?」

「あいつは帰ったぜ」

「結局こっちに引っ越すには二ーディがないからね」

「師匠のところがだめなら師匠の妹様に……っていいかけたところでミカにぶん殴られてたよ」

「乙女の家に転がりこもうなんて図々しいことこのうえないからねっ!」

「でも私たちの前だともうあのキザキャラはやってくれないのかな……」

「なになにチェリッシュ、お気に入り?」

「いや、今のなしで!」

「以外とこういうの好きよねあなた」

みんなでご飯を食べて帰った。



ー午後9時

家に帰ってきた。

今日は思いがけない1日になった……。

まだグリアがこっちでうたうのは先になるかもだけど……楽しみにしてよう……。

とりあえずは……明日も早いし……おやすみなさい……。

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