「一般的の精霊術師って仕事の依頼を選んでいられないじゃない?私の場合、駆け出しの頃の仕事って、貴族のパーティとか余興で歌ってほしいっていうのばっかりだったの。」
「よくある話ね。リジュナの場合、声霊術師だから珍しさも手伝って一人でも仕事はできるんだろうけど……。」
「うん。でも歌うって言ってもダンスの効果音代わり程度の話で声霊術師として必要されているわけじゃなくて……。ずっとこのままでいいのかなって迷ってたの。」
国の精霊騎士団であったり、民間の団体に所属しない限り、精霊術師に対する一般の扱いは珍獣パンダである。
見世物的な要素が多くて術師としての本質を問われない仕事程度しか回ってこない。そんな現実に悩むことは少なくない。
「そんな時にヒース様の誕生日パーティーに呼ばれて歌ったの。そこでも同じ扱いだったけど、ピース様だけはちゃんと聞いてくれてたの。ただそっと耳を澄まして、バック音じゃなくてちゃんと歌を聞いててくれたの。……認めてもらえたみたいで嬉しかった。」
少しうつむいて頬を染める姿は年頃の少女そのものである。
「好きっていうのはよくわからないけと、憧れって言うのかな……。」
「憧れねぇ。」
「だって8歳違うのよ?今の私が23でヒース様が15歳……。そもそもそんな感情失礼な話したよ。それこそ身分の違いってやつだし。」
何かを諦めたような寂しそうな瞳。そんなリジュナを見て、リーシャは密かに思う。
(気持ちがあれば歳の差なんて関係ないと思うんだけどなぁ。)
「まぁ、仕方ないか。」
「リーシャちゃん?」
「ううん、なんでもない。とにかくリジュナが一番気をつけてよ?私もそれなりに対策はして行くけど、あのバカの狙いはあくまでリジュナなんだから。」
「あのバカって、あれでもすごい実業家なんだよ?」
「バカで十分よ。」
「リーシャちゃん。」
「ん?」
「気をつけて行ってきてね。」
「うん。留守は任せた。んじゃ、行ってくるね。」
それだけ言うと、リーシャは風の精霊ジェルフェと共にいなくなる。
「リーシャちゃんとミオちゃんがいないとなると大変だなぁ。」
そんなことを独りごちながら菜園に戻ろうとして門前でふと足を止める。
「立て看板?」
一体いつの間に設置していたのか。
「え〜っと?……アクア大感謝キャンペーン!力仕事手伝います。今ならイケメン男子がコンビで頑張ります。詳しくは住人までお問い合わせください。アクア塔主リーシャ・ディ・クロフォード。」
木製の板にでかでかと書かれた文字は、いかにもやっつけ作業的な雰囲気を匂わせている。
「イケメンって……、コンビってまさか……。」
「そりゃぁ、異邦人コンビでしょ。」
背後からの声にリジュナは振り返る。
「ミオちゃん。」
「今なら菜園のほうで面白いもの見れるよ。」
「面白い?」
「うん。それじゃぁ、行ってきます。」
「いってらっしゃい。気をつけてね。……面白いって何だろう?」
住人の中で一番冷静で感情を表に出さないミオはリジュナにとって良くわからないときがある。
ミオの姿が見えなくなるまで見送ってから、とりあえず言われた方に足を向けてみることにした。