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第7話 異邦人1

声は風にのってどこまでも飛んでいくような気がした。耳に入るのは風の音、草の揺らめき。土の香りが心に染みる。こんなに浮足立った心と同時に何かが刺さって抜けない。




 「今日は哀愁漂ってますなぁ。」




 「リーシャちゃん……。」




 「喜びの歌が葬送曲にしか聞こえないわよ。」




 丘に座るリジュナの横に立つリーシャは間延びした声で言う。




 「……もういくの?」




 「うん。本当はあいつら叩き出してから行きたいとこだけど、急ぎって言われてるからねぇ。」




 急いでるとは言いつつも、その態度は全く急いでいるように見えない。




 「ごめんね。」




 「リジュナが謝ることじゃないでしょう。」




 「うん……。」




 「反対されたのがショック?」




 「え?」




 思わぬ言葉にリジュナは友人を仰ぎ見る。どう答えていいかわからず、俯くしかできなかった。




 「リジュナの立場なら喜ぶとこでしょ?当主が反対ならこの婚約は向こうの責任で破棄されるだろうし。セントラルからここに移るって話したとき、四人の中で最後まで悩んでたのはリジュナだったのに、婚約話が出たとたんに決意して、家出みたいな形できたけど。やっぱそれだけ嫌だったんでしょ?」




 「うん……。」




 「それとも……。単純に自分を認めてもらえなかったことがショックだったのかな。好きだったとか?」




 弾けたように顔を上げたものの、どう反応していいのかもわからずうろたえる。ただ言葉になったのは思い出話だった。



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