「ったく、邪魔しやがってこのマセガキ。」
部屋の中に入るなり、とても上流階級者とは思えない口ぶりの男に少年はツンとして応える。
「お前が勝手なことばかりするからだ。」
「何言ってんだ。そういうお前こそ仕事はどうした。勝手に来たんじゃないのかよ。」
「お前と一緒にするな。俺はちゃんと仕事終えてから来たんだ。家の者たちも承知だ。」
「あっそ。」
「だいたい、こんな女性しかいない場所にお前を一人で行かせたら羊の囲いに狼を放つようなものだからな。」
「そらどぉ〜も。」
誰も褒めてなどいない。
「お前のことだ。寝静まったリジュナ・ソイエル嬢の部屋に押し入るつもりなのだろう。」
ベッドの縁に腰掛け腕を組み、半眼になって年上の男を見る。
「そんなのとっくに試みたっつーの。」
しかし、それは一晩階段で過ごすだけに終わった。
「どーなってんだありゃ。」
「なにか言ったか?」
「なんでもねーよ。」
吐き捨てるように言ったラウスとベッドに身を投げだすヒースの耳にどこからともなく歌声が聞こえる。
「ん?誰が歌ってるんだ?」
「お前、自分で決めた結婚相手の声もわからないのか。」
「あぁ?これがリジュナの歌声?」
「何も知らないんだなお前。」
「なんだよその言い様。さも自分は知ってるとでもいう気かよ。」
「知ってるさ……。お前なんかよりずっとな。」
最後の方は手の甲に覆われて何を言ったのかラウスの耳には聞こえていなかった。