盛大なため息をつくと、リーシャは独り言のようにつぶやく。
「ったく、こんな時に……。」
「こんな時って?」
部屋の隅にいたユイエがパタパタとそばにやってきて小首を傾げる。
「今朝一番に仕事が入ったの。今日の昼過ぎにはここを出て2、3日留守にしようと思ってたんだけど。」
「え、今日?」
「本当に急だね。」
はて、客なんて来ていただろうか。
全員が同じ思いで次の言葉を待っていた。そんな様子にリーシャは苦笑して口を開く。
「ジェルフェが仲介で持ってきた話だから断るわけにいかないのよ。相手も事情があってとても急いでいるみたいだし。」
ジェルフェとはリーシャがよく呼び出す風の精霊である。風種族の上位3位である精霊からの依頼ともなればそうそう断るわけにもいかない。
「事情?」
「うん。あ〜、そのことでみんなにちょっと同意が欲しくて。」
「同意って、どうしたの改まって。」
「男の子をしばらく預からなきゃいけなくて……。今回の仕事はその男の子を『精霊騎士団より早く迎えに行ってここで預かること』なの。」
「精霊騎士団?」
その言葉を聞いて全員の表情が硬くなる。
昔、リーシャがその団体に所属していたことを住人たちは知っている。もちろんそこを辞めた理由も。
「そう。」
しかし、リーシャの目に揺らぎはない。
「でも、リーシャここには住めるスペースなんてないよ?」
静かなミオの問に答える代わりに、にんまりとリーシャは笑う。
「それから、ミオには精霊の塔本部にいってメンバーの登録用申請をしてきてほしいんだけど頼める?」
「かまわないけど、私とリーシャがいなくなってあの二人はどうするの?」
「人間の三大欲求って知ってる?」
「食欲と睡眠欲と性欲?」
「ぴんぽーん!」
嬉しそうにするリーシャがちょいちょいと手招きをし、全員が頭を寄せる。ごにょごにょと語る塔主はひどく楽しそうであった。