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第4話塔主と当主

【人物紹介】


ユイエ・・・星霊術師。リジュナの学友で相談相手なのに天然。金髪紫目


ミオ・・・聖霊術師。冷静塩対応女子。赤毛茶色目。


リーシャ・・・精霊術師。豪胆な男勝り。白銀赤目。アクアの形ばかりの責任者


シェル・・・清霊術師。おっとり系美人。黒髪青目。


 「改めまして、ヒース・エルロンドです。」




 テーブルの席について落ち着き払った少年に一同の関心は注がれる。




 「ようこそ精霊の塔アクアへ。ここを仕切っております、リーシャ・ディ・クロフォードです。セントラルからわざわざ田舎村までお越しとはご足労様です。」


 「突然の訪問にもかかわらずの歓迎感謝します。それにしても……。随分と若いご塔主さまですね。」


 王国の精霊騎士以外の精霊術師が住まう場所は【精霊の塔】と呼ばれる。それは俗世からは隔離された精霊と対話するための場所であり、そこにいる限り俗世の風紀、規律は通じず、その土地にいる限りは国王の命令すら通じない奇異の場所である。また、【精霊の塔】を統括するものを塔主と呼ぶ。


 「それはどうも。でも、エルロンドのご当主ほどではありませんよ。」


 単純にこの土地は祖母からの遺産相続の配分として手に入れたものであり、その管理をしているにすぎず、クロフォード家としての跡継ぎはシェルとリーシェの間に男の兄弟が一人おり、その男子が正しき跡継ぎになるわけだが、いちいち説明するのも面倒なので、あえて黙った。


 「そうですね。僕は一族でも異例のことでしたから。」


 「ご謙遜を。個人が優秀でなければそうもいかないでしょう。どんな背景があったとしても。」


 「いえ……。」


 お互い、にこやかにしているが目は笑っていない。


 ヒース・エルロンド。若干十二歳で一族のトップに立った少年は、8歳で父を亡くし、11歳で祖父を失った。


 代々エルロンドの当主は若くして代替わりをすることでも有名だが、それでも二十そこそこの話であって、一般的に三十や四十で代替わりをする事を考えれば異常ともいえる。


 「それにしても……。」


 「あのさぁ。」


 リーシャの言葉を遮るようにヒースの横に座ったラウスが声を上げる。


 「お前何しに来たんだよ。」


 「決まっている。お前を連れ戻しに来たんだ。」


 ヒースの言葉にリーシャの横に座るリジュナはほっと息を吐いたが、それも束の間。


 「なんでだよ。俺がどこに行こうと俺の勝手だし、第一婚約者に会いに行くのを止められる筋合いはないだろ。」


 「お前の勝手な行動ひとつが一族の名を貶めることになる。今までの行いを顧みたらどうだ。」


 おそらく様々な浮名のことを言っているのだろう。しかし本人はどこ吹く風である。


 「だいたい、その婚約を誰が認めた。一族は了承した覚えはない。」


 「一族じゃなくて、お前が認めてないだけじゃねぇか。」


 「俺の意見は一族の総意だ。俺がノーと言えば一族はNOだ。」


 力強くはっきりとした少年の物言いにラウスは気圧され、リジュナはうつむいた。


 「あのなぁ、俺は……。」


 (これはまた随分と俺様なご当主だな。それとも単に子供なのか、あるいは……。)


 冷静に観察しているリーシャの横から消え入りそうな声がした。


 「ヒース様は……。」


 「リジュナ?」


 そのかすかな声に室内の視線が集中する。 


 「ヒース様は反対ですか?私のような身分のものがエルロンド家の中に加わる事に不服ですか?」


 膝の上で握られた拳が小さく震える。確かにリジュナの家は辛うじて貴族。ぐらいのもので、上流貴族エルロンドとは家格が違いすぎる。それはわかりきった話だった。それでもラウスが求婚できたのは彼が分家の後継ぎですらないからだ。


 (まるでその言い方だとその婚約者と結婚したいみたいに聞こえる。)


 事実、リジュナの向かい側に座る男は勘違い全開のキラキラな視線を向けている。もちろんうつむく彼女は気づきもしない。


「ああ。反対だ。」


 少年の確固たる言葉にリジュナは目の前が暗くなる。まるで打ちのめされたような感覚。泣きたい思いを堪えるかわりに顔を上げることもできない。


 「だか、身分とかそういう問題では……。」


 リジュナの様子に何か感じたのか、ヒースは慌てて言葉を繫ごうとするが、彼女にそれが届いた気配はない。


 「揃いも揃って失礼な男共だこと。」


 すました顔で紅茶を飲みながら、先程とは打って変わった態度でリーシャは言ってのける。ことの顛末を見守っていた娘たちが離れた場所で心なしかうなずいた。


 「そんな身内の話はまとめてから来るべきでしょうに。大体、手紙一枚で返信も待たずに手ぶらでホイホイやってきてもこんな田舎じゃ宿屋もないし、ここだって客間は一部屋しかないのに。」


 (本音はそっちか……。)


 (お貴族さまが手土産も持たずに来たのが気に入らなかったのか……。)


 「あの、リーシャちゃん客間は2つあるよね?」


 「ひとつは開かずの間なの。」


 頭にドがつくほどきっぱりとリーシャは言い切った。


 初耳である。


 「え?じゃぁ、今夜はどうするの?」


 「そんなの決まってるでしょ。男二人相部屋よ。思春期の小娘じゃあるまいし問題ないでしょ。」


 「お客さまなのに?」


 おずおずと問いかけるリジュナの言葉に、怒鳴りたいのを通り越して半眼になったリーシャは淡々と語る。


 「どこの誰が客なのよ。招かれざる客は客にあらず。仕事の依頼でもなけりゃただの異邦人でしょうに。」


 国でも指折りの貴族をつかまえて異邦人などというのは世界でもこの女だけであろう。


 「ここは精霊術師の住む場所。俗世の身分や法に触れない特別で神聖な地。そんなのは常識。土台、私はリジュナを困らせているやつらを客人扱いなんてしないわよ。それが嫌なら野宿でもすればいいし、それすら嫌ならさっさと帰ればいいでしょ。」


 目の前の男二人を交互に見据えて言い切ったのちににっこりと極上の笑顔で続ける。


 「さて、ヒース・エルロンド卿、部屋への案内は隣のいとこ殿がしてくださるそうですから、どうぞお下がりください。ついでにきっちりお二人で話し合いをされることをオススメします。」


 顔は笑っていても目は笑ってないし、言葉にはサボテンよりも棘がある。


 二人の男が室内から出たのを見送ってリーシャは盛大なため息をついた。



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