いなくなってしまった。
もう失ってしまった光は戻ってこない。
「イーサ。」
誰よりも美しく賢くて強い人だった。誇り高くて曲がったことが嫌いで何よりも輝いていた。
(なのに……。)
いなくなってしまった。
誰か助けて。
誰か……。
平穏な日常にまだ昇りきらぬ太陽が輝く。
ここはド田舎スヴェ村にある丘の上、精霊師の住む場所、通称アクアである。
住人たちはいつもと変わらぬ日差しに、いつもと変わった風景に茶などすすってみる。
事の始まりは三日前に遡る。
「リーシャちゃん……ちょっと困ったことが。」
先ほどまで下の村に郵便物を取りに行っていたリジュナが何やら紙を手にして室内に駆け込んできた。乱れた長いオレンジの髪と少し潤んだ深緑の瞳。
よほど焦って村から丘を登ってきたのか、問題が深刻なのか、その顔色は赤くなったり青くなったりとせわしない。
「どうしたの?そんなに慌てちゃって。」
「い、今手紙が来て……。」
「手紙?」
そりゃぁ、郵便物を取りに出たのだから手紙くらい持ってるだろう。とは思うがそこはあえて黙っていることにした。確かにリジュナの手には紙が握られている。それもだいぶ上等そうなもので、ほんのりと香りすらする。
しかし若干握りすぎた手紙はつぶれていて、いつもならもったいないから紙は両面使いましょうという倹約家の彼女にしては珍しい行動に内心驚きつつも、あの手紙はもう読めないだろうなと塔の主、リーシャは冷静に思う。
「え、エルロンド卿が来るって。」
「エルロンド卿?」
「あー!私知ってる!!リジュナちゃんをお金で買った人!!」
肩で息する友人をよそに茶髪の長女は紫暗の瞳を大きく開きユイエは思ったことを素直に口にした。
「ユイエ……。その表現はどうかと思うけど……。」
「え?違うの?」
友人の悪意ない問いかけに一瞬ひるんだものの、リジュナはこの事実を否定できなかった。
「違う……くない。」
「ラウス・エルロンドか。会ったことないなぁ~噂くらいなら聞いたことあるけど。」
「うわさ?」
「そう。」
「どんな?」
「んー。」
促されてリーシャは天井を仰ぎ考える。
王家を支える六大名家のひとつ。建国を支えた従者で木と呼ばれるエルロンド一族の一人。
エルロンド現当主であるヒース・エルロンドの従兄であり、若干22歳にして流した浮名は数知れず、美形ぞろいのエルロンド家の中でも有名なプレイボーイ。
分家のために爵位の継げない彼は有名な名前とは裏腹にその地位は反比例している。そんな彼にとって貧乏貴族のリジュナは都合のいい婿入り先なのだ。
リジュナの両親にしてみればこのまま貧乏生活の末に行かず後家を強いるよりも、年頃のうちに結婚させるほうが良いと思ったのであろう。まして相手は富豪でエルロンド一族というのなら安心というものだ。そう思って受けた結納ではあるが、当の本人はえらい迷惑。ラウス・エルロンドは苦手だった。
むしろ嫌いだった。