鼻孔をくすぐる香りに体がざわつく。
思ったよりも近い距離に心臓が躍動し耳元でどくどくと脈を打つ。
巨石を避けるために飛び込んだ窪み。ちょっと密着で来たらラッキーぐらいにしか思っていなかった。正直それ以上のことになったところでどうしていいかも困る。
下手に手を出して怖がられたら次から話すらしてもらえない気がする。
それなのに……。
(くっそぉ~密着して嬉しいのにごうもんじゃねぇかぁぁぁ!)
激しく動揺していた。
それだというのに、彼女の口が紡いだ自分の名前。嬉しいはずなのに嬉しくない。他の雄どもは呼び捨てで呼んでいるのに(トマホークという例外はあるが)自分には敬称つき。仕方ないと思いながらも他の雄たちに負けているようで苛立つ。
(俺だってティアに呼び捨てで呼んでほしい。)
おまけにクロウとトマホークがこの冒険の間に距離感が近くなってる。
起きてみればトマホークがフロンティアを抱いて(少なくともヴァイスにはそうとしか見えない)一晩過ごしていたなんて同じ番を争う雄として享受できるものではなかった。
(俺だけで遅れてる。せめて意識してくれれば少しでも……。)
そんな縋るような思いを知らないフロンティアは先ほどからはぐれてしまったやつらのことばかりだ。こんなにも近くにいるのに。
大人気ない。子供のような癇癪だ。そう思っても止まらない。理性でどうにかなるなら番なんて初めから諦められる。しかしそうはいかないから厄介なのだ。
体から立ち上る甘美な香り、しゃぶりつきたくなる肢体と華奢なようでしっかりした丸みが誘う。
ちょっと意識してほしいだけだったのに理性は効かず、唇が求めるままに蹂躙せんと欲のままに動く。
(このまま俺のものになればいいのに。他の奴なんて忘れさせてやるのに。)
舐るように耳を食めば応えるような可愛い鳴き声。
(もっと聞かせて愛しい人。―――ああ、まずい、止まらない。)
自己制御できないなんてまだまだ俺も青い。
だからと言って止めに入った他の雄に感謝なんてしないからな!