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第17話 冒険者はダンジョンに入る

 お日様が木々の高さを超えるころダンジョンの入口に到着した。


 そこはすでに踏破されたダンジョンで、入り口の両脇には役人が一人ずつ立っていた。


 「役人さん・・・?」


 意外な人物を認めてフロンティアつぶやいた。


 「ダンジョンは発見すると必ず報告義務がるんだ。ダンジョンの入口には必ず役人が付きその出入りを監督し冒険者は連続滞在日数は一か月と決められている。それ以上かかるような新たなダンジョンは特別許可が必要になる。定められた期間内に戻れなかった冒険者は死亡扱いになるんだ。」


 ゆらゆらと尻尾を揺らしながらポンポンと大きな手をフロンティアの頭で弾ませながらヴァイスが教えてくれる。


 「つまり役人はそのダンジョンでどのくらいの冒険者がどれくらい生存して戻るのかを見てるんですよ。なのでダンジョンに入る際は冒険者証明証の提示が義務付けられているんです。」


 続きを引き受けるようにトマホークが付け足しながら自分の証明証を見せる。そこには名前、拠点地区、使用武器、これまでのダンジョン踏破数などが刻まれている。フロンティアもそれに倣うように首から下げている自分の証明証を出して役人に提示した。


 「初めてですね・・・無理をせず息の乞うことをまずは優先してください。」


 強面の役人が証明証を確認しながら微笑んでフロンティアに告げると、そっと手に証明証を握りこませた。そのあとに、それからと付け足したうえで


 「けしてこれを失くさないでください。他人が悪用はできませんが、運が良ければ万が一の時これを見つけた人が遺品を届けてくれる。」


 静かに告げられてフロンティアは氷水をかけられたような感覚に言葉を失う。狭いダンジョンで格上の魔物に囲まれたらひとたまりもない。それは現実であり無情の事実だ。


 足を動かすこともできなかったフロンティアに背後から衝撃が走る。


 「大丈夫!ティアは僕が守るからね!エスコートするって約束でしょ!」


 明るく元気な声に振り向けば腰にしがみつくテディが満面の笑みを向ける。


 「ティアは守る、死なせたりしない。そばにいろ。」


 頭上からする声に視線を向けると真剣な表情のクロウとぶつかった。その表情は夕べのものと違いすぎてしばし瞠目する。


 (あれは夢・・・?)


 そう思うくらいクロウはこれまでと変化がない。しばし見つめているとふにゃりと柔らかな笑みを向けられてフロンティアは口をはくはくと動かし見る見るうちにその頬が染まる。


 「――――っ!」


 朱に染まったフロンティアからクロウは咄嗟に目を逸らし口に手を当てる。


 「あの顔を見れたのは可愛いと思うんですが・・・。」


 「自分以外の男が引き出したと思うと腹立たしいねぇ~。」


 「ほらほら、ティアいくよぉ~。」


 笑顔を引きつらせたテディがティアを引きながらジト目でクロウに視線を飛ばす。


 「これだからムッツリは。」


 「ほざけ年齢詐称。」


 その静かな火花はフロンティアの耳に届くことなく、地下へと向かう足音にかき消された。


 「ティア、まずは地下一階だよ。ここは迷路になっていて、階の中心に下の会への階段がある。もちろんそこまでの間に魔物もいるし、罠もあるから気を付けてね。」


 地図を広げながらテディが教える。 


 「踏破されたダンジョンにも罠が?」


 一度ボスまで制覇しているなら罠は解除されているのではないかと思うフロンティア。


 「ダンジョンっていうのは建物じゃなくて、建物のような魔物なんだ。さしずめダンジョンの中は魔物のお腹の中ってところだね。」


 魔物がお腹の中に魔物を飼っているということだろうか。とますますティアは頭を捻る。


 「そのダンジョンっていう魔物は定期的に内部構造を変えたりするものもあるんだ。あと、各階にいる魔物に力を与えたり倒された魔物の補充とか管理もしている。中で死んだ者の持ち物は定期的に回収されてボス部屋に集めたりするんだ。」


 「本当に生き物みたいなんだね。」


 「だから罠は解除してもまた設置されるし、もし地形が変わっていたらギルド経由で報告するんだ。」


 「ダンジョンって一言でいっても奥が深いんだね。」


 世の中は知らないことばかりだなとフロンティアは考えながら階段の終わりから暗い通路へと歩を進めた。







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