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第12話 冒険者は仮パーティを組む

 なんで・・・?


 昨日までは初めて入るダンジョンが楽しみだったはずなのに。


 (なぜにこんなことになっているのでしょう?)


 みなさん、おはようございます。フロンティア・エレメントです。


 今は私は叔父さんのお部屋・・・・・・もとい、ギルドマスターの部屋におります。


 応接のために置かれたソファで叔父さんの横に座り、その向かい側には四人の冒険者がギュウギュウに座らされています。ちょっとかわいそう・・・・・・。


 私は学校に行ったことは無いですが噂に聞く「廊下で反省しなさい」って怒られる人ってこんな感じなんだろうって思いました。


 皆さん一様に気まずそうな顔でギルドマスターから顔をそむけていたり下を向いたりしています。


 私もこの部屋に呼ばれた原因なので居た堪れなくて、でも怒った叔父・・・ギルドマスターは私ではなく四人の方ばかり見て怒っています。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 事の始まりは朝一番、フロンティアがギルドに到着したときに起こった。


 カーキ色の外套を纏った白熊獣人の少年テディはその白いふわふわの髪を弾ませながらフロンティアを見つけるとニコニコと走ってきた。


 「おはようティア!今日が楽しみで早起きしちゃった!」


 挨拶と共にフロンティアに飛びついて腰に手を回す。端からみれば10歳くらいの男の子が近所のお姉さんにじゃれついているような、微笑ましい光景だ。


 飛びつかれた本人もそう感じているのか、返事をしながら彼の頭をそっと撫でている。


 「私もすごく楽しみだよ。楽しみなんだけど……。」


 「ん?どうかしたの?」


 キョトンとした顔で小首をかしげるその様子はとても愛らしい。近所に売ってるなら買って帰りたいと思わせるような仕草に思わず目を逸らす。


 「あのね、お願いと言うか、謝らなきゃいけないというか。」


 「ティアからのお願いなら僕がんばってなんでもかなえちゃうよ!でも、なんで謝るになるの?」


 「あのね、今日ダンジョンに行くって友達に教えたら、その友達も一緒に行くって言いだしちゃって。」


 「ティアの友達なら大歓迎だよ。でも、その人って・・・・・・。」


 「大歓迎してもらえるなら問題ないな。」


 「ぜひ私たちもご一緒させてもらえるかな?」


 テディが言いかけた言葉にかぶせるように後ろから声をかけられる。


 「クーもトマさんも昨日の本気だったんだ・・・?」


 「おはようティア。もちろん本気だ。丁度キミの友達も歓迎してくれると聞こえたからいいだろう?」


 「そ、れは…ええっと。」


 本来ならきちんとテディに事情を説明して彼の了解を取ったうえでこの二人と合流できればと思っていたのにタイミング悪く早々に合流することになろうとはフロンティアも予定外だった。


 テディが怒っていないかと困ったように視線を向けると、彼は初対面の二人の様子に何か気づいたのかにこりと笑みを作り、フロンティアを見上げた。


 「僕は構わないよ。・・・・・・ティアのお友達・・・なんでしょ?ティアのお友達ってことは今後僕だってお付き合いが増えるかもしれないから仲良くなりたいもん。」


 最初はティアを見ていたものの、すぐにその視線は二人組の男たちに向けられる。子供らしい可愛い笑みを浮かべているというのにその瞳は一切の笑いを含まず、挑戦するように男たちを射抜く。


 「仲良くなりたい」といいつつ、見せつけるようにティアの外套越しにしがみついた腰に頬ずりする。


 「そう言ってもらえて安心した。ありがとうテディ。」


 「ふふ。せっかくのティアのダンジョンデビューだもん。楽しい一日にしなきゃ!だから紹介してくれる?ティアのオトモダチ。」


 「う、うん。こっちが幼馴染で狼族のクロウ。それからクロウの相棒で鳥族のトマホークさん。」


 順番に掌を上に向けて手でわかるように示して紹介する。それから二人に向き合って二人にもテディを紹介する。


 「二人とも、この子が昨日話した白熊のテディ。」


 にこやかに握手を交わす様子を見ていてホッとすると、遠くから名を呼ばれて振り返る。


 「あれ?ヴァイスさん、おはようございます。こんな早くにどうしたんですか?」


 足取り軽くそばに来たヴァイスは男三人の様子を眺めてからニヤリと不敵な笑みを浮かべてフロンティアに向き合う。野生のカンが働いたのか男たちはピタッと動きを止め二人の様子を見入っている。


 「実は今日行く仕事ダンジョンのボスドロップなんだけど、ティアちゃんも今日ダンジョンって言ってただろう?もし同じならボス部屋までの護衛を頼もうと思ったんだ。」


 「護衛ですか?えっと今日行くのは・・・・・・。」


 行先を知らないフロンティアはチラリとテディを見る。昨日「エスコートする」と言った彼に一任していたので行先を知らなかったのだ。


 「僕らが行くのはアテリア地下遺跡だよ。」


 じっとりとした目でヴァイスを見上げつつテディは答える。


 「それは僥倖だ!俺の目指すとこもそこなんだ!そんなに急ぐ仕事じゃないからゆっくりティアちゃんの攻略するペースで構わないいんだ。どうだろうか?もちろん護衛を頼むんだから報酬は払うぜ。」


 「それは、私だけでは・・・・・・。」


 どうしたらいいかわからず、眉尻を下げてこちらを見ている三人の男性を見る。


 テディは訝し気にヴァイスを見ているし、クロウとトマホークは新たな人物がなんなのか見定めようとしている。


 「あ、この人はヴァイスさん、一昨日の夜仕事から帰るときに酔っぱらいにからまれてるところを助けてもらって、家まで送ってもらったことがあって、私としてはそのお返しをしたいけど、みんながだめなら、その・・・・・・。」


 誰かと組んで行動したことのないフロンティアにとってこういう時にどうしたらいいのか正直わからない。なので、素直に事情と心境を語ったのだが、三人は一様に苦虫をかみつぶしたような顔をしている。


 仮にも助けてくれた相手を見捨てるような真似をフロンティアができないのはわかる。かといってこれ以上ライバルを増やしてはメリットがない。しかし、ここで拒否して狭量だと思われるのも癪。と言ったところなのだろう。そんな男たちの心情を正確にくみ取ったヴァイスはにやりと笑う。


 「邪見にしてくれるなとは言わないけど、お兄さん方と俺は『お仲間』のはずなんだよなぁ。俺としてもここで引くほど大人じゃないし。いっそこのダンジョンでケリつけてもいいと思うんだがな。」


 「あとから出てきて偉そうに。」


 吐き捨てる様な物言いのテディに驚くフロンティアをなだめるように少年は天使スマイルを向けた。


 「それを言うなら新参者はお前だろう?俺は8年前からそばにいる。余計な手出しをするな。」


 冷静な言い方ではあるがその目は獰猛な獣だ。


 「8年も見守ってるだけなんて随分のんびりだな。自分の鈍感を人のせいにしないでほしいね。」


 「なんだと?」


 「妖精の隣は僕一人で十分だよ。」


 「ほざけ。」


 「それは聞き捨てならないなぁ~妖精に懸想してるのはおチビさんだけじゃないんだぜ。」


 「あぁ!?」


 一転して険悪なムードにフロンティアは三歩後退する。


 「朝っぱらから何さかってんだ小僧ども。」


 「叔父さん・・・・・・。」


 フロンティアの背後から現れたのは白銀の狼。素早く人の形をとると中年の男が顎をしゃくって上を指す。


 「周りの迷惑だ。話は上で聞いてやる餓鬼ども。さっさとついてこい。」


 歴戦の猛者である獣人を前に明らかな実力差を感じた男4人は戦意を喪失する。そんな若者たちに一瞥くれると、そっとフロンティアの横に並びその細腰と手を取り、ギルドマスターの執務室へと導き、現在に至る。


 「んで?お前らはうちの妖精が番だと言いたいわけか。」


 半ば呆れている中年は膝に肘をついて若者たちを見つめる。


 「まぁ、クー坊は昔からだからわかるとしても・・・・・・。この数日でフロンティアが他人と関わるいい機会だと思ったが、そうなってくると話は別だよなぁ。かといって、雄としてはわからんでもないが。」


 この中年立派な妻帯者である。番に惹かれる抗いがたいそれももちろんわかっている。


 「叔父・・・・・・あ、ギルドマスター?」


 慣れ親しんだ呼び方から公の名に呼び変えて不安な瞳を揺らしながら少女は見つめる。


 「おい、餓鬼ども。ダンジョンは5人で行ってこい。今後今日のようなことが起こらないように落としどころを見つけて来い。ただしうちの妖精を泣かすような結果にしてみろ。この国で冒険者などできると思うなよ。」


 殺気すら含んだその声に若者たちは頷く。それを確認すると今までの会話がなかったような笑顔を今度はフロンティアに向ける。


 「フロンティア、今回はこのメンバーで行ってくればいい。お前もいつまでも怖がってないでそろそろ他人と関わることを覚えないとな。」


 「でも……。」


 「大丈夫だ。少なくともクロウは信用していい。絶対にお前に害は与えない。」


 チラリとクロウを見た後に再び叔父に向き直って無言でうなずくと、タイミングを見計らったように受付のお姉さんが用紙を一枚手にして入ってくる。


 「話はまとまったかしら。これがパーティ仮登録用紙よ~記入して受付に出してから出発してね!あと・・・。フロンティアちゃんにオイタしたらマスターの前に私たちが吊るすから覚悟なさい。」


 (お姉さん、目が笑ってません。本気すぎます・・・・・・。)


 胸中でつぶやきながらフロンティアは指定の用紙に記入をしていくのだった。




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