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第6話 冒険者は約束を交わす

「ティア、さっきの話真面目に考えてみない?」


 革袋の水筒に口をつけゴクゴクと喉を鳴らしながら飲んだあとに白髪の少年は眉尻を下げながら言う。


 「試しに組もうってやつ?」


 差し出された水筒を受け取りながら返事をする。


 「そう。ティアは魔法使いでしょう?僕の武器は手甲と脚甲なんだ。だから超接近戦が得意なんだけど、前衛と後衛で戦線を張るには相性がいいし、ティアが魔法をどれくらい使えるかわからないけど光魔法が使えるなら回復も少しはできるんじゃないかと思うんだ。それに……。」


 「それに?」


 水筒から一口水を飲んで喋りを止めたテディを見る。一瞬真面目になった彼の顔が意外と近くてドキリと心臓が跳ねたが、すぐに優しげな笑みで眉尻を下げ理れてしまう。嬉しいのか困っているのかよくわからない表情だ。


 「そういう所もちょっと心配というか。」


 何を言われているのか分からなくて小首を傾げる。


 「もう。そういうところだよ……。」


 消え入りそうなテディの声は口の中で溶け、フロンティアに届くことはなかった。


 しばし考えてフロンティアは頷く。きっとこれが別の誰かなら断っていたと思う。素直に了承できたのはその幼い容姿のせいか嫌悪も畏怖も抱かなかったからだ。


 「いいよ。初めてのことだから迷惑掛けちゃうかもしれないけど……。いつにしようか?」


 その日暮しのフロンティアにとって先々の予定はあまりない。案にスケジュールはどうだろうかと問いたかっただけなのだが、宝石箱のように(フロンティアはそんなもの見たことないが。)目を輝かせて何度も頷く。


 「じゃぁ、明日にしようよ!フロンティアの気が変わるといけないし!」


 「そんなに慌てなくても一度した約束は破らないよ?」


 「絶対だよ!明日、今日と同じ時間にギルドで待っているから!」


 頬の柔らかいものが頬に触れ、ちゅっとリップ音を立てて離れていく。


 「そうと決まれば準備に取り掛からないとね!!早く戻ろう。」


 いうが早いか立ち上がると、テディはフロンティアの手を引いて歩きだしてしまう。


 「そんなに慌てなくても大丈夫だよ?」


 「ダメダメ!エスコートするなら完璧じゃなきゃ!」


 「ダンジョンなのにエスコートなの?」


 「そうだよ!紳士の嗜みでしょ?」


 大人ぶるような喋りと幼い姿にフロンティアはフフッと笑う。


 「じゃぁ、よろしくお願いします。紳士さま。」


 ギルドにつくとテディは準備かあるから…と早々に立ち去っていった。スキップの後ろ姿を見送ってカウンターに向かった。


 「お願いします。」


 依頼書を渡して次々に鑑定して貰うべく麻袋をかごに収めていく。


 「フロンティアちゃんの採取物は丁寧で助かるわ。依頼主からも指名したいって声多いのよ?」


 「それは知りませんでした。でもそう言ってもらえると嬉しいです。」


 手際よく対応するお姉さんがうふふと笑う。


 「今日はいつもより早いけど、今朝の彼と一緒だったの?」


 「あ……。はい。おかげで早く帰れました。なので手伝いも早くできそうです。……今一人なんですか?入らなくて大丈夫ですか?」


 「この時間はまだ混まないから一人でも平気なの。あと一時間もすれば混みだすけど、それ迄には休憩してる子が戻ってくるの。フロンティアちゃんもその頃来てくれると助かるわ。」


 それまでは休んでて。と言いながら鑑定に見合った分の硬貨を渡される。


 1時間くらいなら食堂で何か飲みながら時間でも潰そうと考えて、紅茶とバタークッキーを頼みトレイを受け取り適当な席につく。


 行儀が悪いと思いつつも小リスのようにパリパリとクッキーを1枚頬張ってもぐもぐと咀嚼する。


 「まるでリスの獣人みたいだね。」


 喉の奥で笑う声がして、ふと顔を上げると黒髪の青年が楽しげに座っている。


 「こんにちわ。昨日はありがとうございました。えっと、ヴァイスさん。」


 「なんのなんの例には及ばないよ。今日は受付嬢しないの?」


 「いえ、もうすぐ混むのでこれを食べ終わったら手伝いに行きます。」


 「へ〜そうなんだ……。ところで、さっき一緒にいたい男の子は親戚?随分かわいい子だったね。」


 にこにこと問われてテディのことだろうと思い至る。


 「そうなんです!白くて小さくてフワフワでとても可愛いですよね!」


 仲良くなった友達を褒められたのが嬉しくてついつい喰い気味に話す。


 「それに可愛いだけじゃなくて、あの小さな体でとても強くて優しいんですよ。仲良くなったばかりたんですけど……親戚じゃないのが残念です。」


 「へー。仲良しなんだ?」 


 「ええ。明日は一緒にダンジョンに行く約束なんです。初めてだからちょっと心配ではあるんですが……。」


 「フロンティアちゃんはダンジョン初めてなんだ?それは楽しみだねぇ〜。」


 「ええ。」


 誰かと約束することすら久しぶりで心が浮き立つ。こんな気持ちになるのは一体いつぶりだろうか。


 「それは妬けるねぇ……。」


 考え事をしていたフロンティアの耳にそのつぶやきは届かなかった。


 「俺用事思い出しちゃった。また明日ね、フロンティア。」


 「え、あ、はい。」


 上の空で返事をしたものの、はたと気づく。


 「あれ?今呼び捨てにされた?」 


 こてんと、首を傾げてスキップするその背中を見送る。デジャヴだろうか……。何とも言えずに見つめているが入り口のあたりがざわつき始めて多くの冒険者が戻ってくるのを感じ慌ててその場を片付けるのだった。




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