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第2話 受付嬢になって再会する

 冒険者ギルドの受付カウンターでピンチヒッターをしていたフロンティアはだいぶ減ってきた列を眺め終わりが見えたことに安堵を覚える。


 (やっと終われそう。)


 何度目かわからないため息を抑え、列の三番目にふと目が留まる。


 さらさらとした深いラピスラズリのような髪色に三角型の大き目な耳、銀色を思わせる灰色の瞳、すらりと伸びた長身の青年。


 (もしかして・・・・・・?)


 その顔には見覚えがある。成長と共に疎遠になってしまったが、昔は一緒に遊んだ幼馴染だ。成長して閑静な顔立ちに好感を覚えるものの、会話をしなくなってだいぶたつ。


 こちらとしては記憶に残っていても相手はどうだろうか。うっかり話しかけて「どなたさま?」などと言われたら埋まってしまいたいくらい恥ずかしい。


 それになんと呼び掛けていいのかもわからない。


 子供のころはお互い愛称で呼びかけていたものだが、はたして今もそう呼んでいいものなのか。結婚してたり恋人でもいるものなら相手に申し訳ないし、その相手が感情の起伏が激しい獣人なら夜道で刺される可能性すら疑う。


 人族であるフロンティアにとって獣人の「ちょっとしたスキンシップ」も一歩間違えば死につながることがあるのを経験上知っている。


 (そういえば昔近所のシャムネコ獣人の女の子が遊ぼうって言いつつ敵意むき出しの爪でひっかかれて5日寝込んだな。)


 今思えばあの女の子は近所の子供の中に好きな子がいたんだとか。番ってやつだろうか。と心中で首を捻る。人族のフロンティアにはわからない感覚だ。


 子供同士で遊んでるだけでそんな目に合うとは、今思うとつくづく恐ろしい話だ。


 そんなことを考えているといつの間にか順番が来てその人が目の前に立っている。


 (クロウ・フェンリル。愛称はクーだった気がする。)


 きづけばさっきまで一人だったのに横に茶髪の青年がいる。年のころは同じくらいだろうか。


 「大変お待たせしました。ご用件をお伺いいたします。」


 「はい。こっちが収集依頼の物とその依頼書。こっちは魔物退治の依頼書とその魔物の魔石。あと、こっち二枚の依頼手続きをお願いします。」


 (多いよ。まとめて出したいのはわかるけど。)


 内心ちょっと毒づきつつも、収集物と魔石を別々の籠にそれそれの依頼書を添えて後ろに回し、新しい依頼書に目を通しているとふいに声をかけられる。


 「ティア・・・・・・。」


 「はい。」


 呼ばれて反射的に返事をした後でハッとする。相手をうかがうように内心おっかなびっくり視線を書類から上げると端正な顔立ちがそこにある。昔と変わらず動かない表情で目の奥が笑っている。


 その表情の変化に気づけたのはその目が子供の時と同じだったからに他ならない。


 「久しぶり。」


 抑揚のない声は端から聞いているとただの儀礼的挨拶のようだが彼にとっては通常運転である。感情が表に出にくいだけなのだ。


 「うん。元気そうでよかった。」


 どう接していいかわからずに無難な返事をすると、彼の目じりが下がった(気がする)。


 「お互いな。」


 「そうだね。」


 気まずい。非常に気まずい。とにかく視線を書類に戻し会話が終わらないかと思ったが会話はまだ続くようでカウンターの向こうからさらに声がする。


 「いつから受付嬢に?」


 「あ、今日は臨時で。係りの人が病欠で足りないみたいだったから。普段はただの冒険者で。」


 敬語でしゃべるべきなのか気安く語り掛けていいのかわからず変なところで話が切れる。


 「そうか。もう長いのか?」


 「まだ一年くらい。」


 渡された依頼書に受理のハンコを押して差し出す。


 「クロウ~いい加減俺のこと妖精に紹介してくれないの?」


 クロウの隣にいた男が口を開く。当のクロウはため息混じりに視線を向けたがすぐに直る。


 「こいつはトマホーク・スカイ。今コイツと組んでるんだ。」


 「初めまして。トマと呼んでください。」


 柔らかな物腰はどこか上品さを醸し出している茶色の長い髪を三つ編みにし、新緑の瞳が細められている。獣人特有の耳も人間の耳もないところを見ると鳥族なのかもしれない。


 「あ、初めまして。フロンティア・エレメントです。」


 短い自己紹介をすると後ろから声をかけられた。鑑定が終わったようで。二つの籠に貨幣と鑑定詳細の用紙がそれぞれ乗っている。


 「こちらが鑑定結果です。それではお疲れさまでした。」


 「ああ、また。」


 「またね。」


 短い別れの挨拶は再開を告げるものだった。


 (また……なんてあるかな?)



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