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第13話白き令嬢はその腕に捕らえられる

レオニード視点


 結局、東屋でお茶をしながら日暮れまで過ごし、シェリーと場所を移して夕食をとった。


 旅の中でも思ったがシェリーは食が細い。メイン料理にたどり着く前に満腹になるらしく、それでは楽しめないだろうから残していいというのに、作った人と食べ物に申し訳ないからということで一緒に食事をとる際は無理に詰め込まず、食べきれない分はレオニードが食べる。と宣言をした。その代わりきちんとデザートまで食べる約束をした。


 ペース配分を考えて食べれないと判断したシェリーは一口分にしたそれをフォークに刺しこちらに寄せてくる。


 「レオ、あーん。」


 タイミングを計るための言葉を口にされ、ためらうことなく口を開ければそれが入ってくる。自分の皿と同じ味付けなのにこうして食べるものは特別美味しく感じるのだから自分の味覚はおかしくなったのかもしれない。そうは思ってもこのふわふわとした気持ちが広がって辞めたいとは思わない。


 (幸せとはこういうときに感じるんだな。)


 そんなことを一人で感じながら食後のお茶までともに飲むと「先に休む」と声をかけて部屋に戻る。


 足早に部屋に戻ると、タイを緩めてシャツのボタンをはずし風呂に向かう。どうやら使用人はもう準備していたらしくたっぷりと湯が張ってある。痛いくらいによく体を清めて匂いを確認する。


 (獣臭くはない……はず。)


 ガウンをきて寝室に移動する。大きなベッドの脇に置かれたソファに座り耳を澄ますと自分が入ってきた扉の反対側にある扉から話し声が漏れてくる。


 その声に笑みを隠すこともできずにソファの前にあるロ―テーブルに置かれたグラスに酒を注ごうとして水に変えた。それからロ―テーブルに隠すように供えられた引き出しを開け、中から丸薬を一つ取り出し、口にする。


 (婚前に子供でもできればリィの名誉に関わるからな。)


 喉奥でくっと悪い笑みがこぼれる。どうして我慢できようというのか。恋焦がれて待ち望んだ存在がすぐ隣にいて今からこの腕の中にやってくる。阻むものは何もない。城の者たちはむしろ間違いが起きるのを期待してる者すらいるというのも把握している。


 カチャリと音がして、驚いたように名を呼ばれる。鈴を転がしたような声は驚いていても可愛い。


 きっと寝室が私とつながっていることは知らされていなかったのだろう。困惑しているシェリーにそっと近づく。


 絹のシュミーズドレスに薄いレースのカーディガンを肩にかけた姿は昼間の愛らしさにない色香が加わっている。


 落ち着かせるようにここが夫婦の寝室であることや親(父上)と兄弟からシェリーの身を守るために部屋を移したことを説明して彼女の緊張を解く。


 そっと抱きしめて抱え上げるとするりと落ちたカーディガンを無視して膝に抱えてベッドに腰かける。心臓が早鐘のように響いて警鐘を鳴らす。


 逃がしてやれそうにない。


 宝物のように大切に抱えてそっとこめかみにキスを落とし優しくベッドに横たえる。


 大丈夫。きっと優しくするから。


 ふと気づいてそっと天蓋を引く。


 だって、私たちのはじめてを誰かに見せるのはもったいないだろう?



Fin



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