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花鼠の夢
花鼠の夢
牧野りせ
異世界ファンタジースローライフ
2024年12月07日
公開日
2,495字
完結済
鼠獣人のマシュウが婚約破棄に巻き込まれて 超短編読み切り暇つぶしにどうぞ。 高評価だったら連載版を考えます。 ネオページの需要はどのあたりか手探り中…

第1話

エミーリア!お前は見損なった!婚約破棄だっ!」


 「フレンシア!貴様の愚行はすでに周知の事実!婚約破棄だっ!」


 おうおうおう〜一体どうした上位貴族の方々よ。ご乱心ですか?




 こちとら檻のような学園生活をやっとこさ卒業できる晴れ晴れしい日。明日からの新たな生活に思いを馳せて胸をときめかせていた。


 それなのに。


 卒業パーティーの最中急に始まった上位貴族の狂ったように……いや、実際裏返った声が響いた。鶏族だっけ?あの貴族様。


 「ねぇねぇ、ショコラあの人たち急にどうしたの?」


 急に始まった断罪劇場。しかもそこかしこで。しかも破棄を言い渡された方はわざとらしく大きなリアクションをしては床に付して嘘泣きしてる。なんだかシュールだ。


 よく状況が飲み込めず隣に佇む少女にヒソヒソと語りかけた。


 彼女の名はショコラ。頭の頂点から長く伸びた耳は先が茶色い。ふわふわの白い髪を一つにまとめピンクの大輪の花をつけた花兎の少女、クリクリの濃茶色の瞳がキョトンとこちらを見ている。


 「あら、マシュゥ知らないの?隣国で婚約破棄されたご令嬢が次期国王様の番だったことがわかって以来そのロマンスにあやかって番のまだいない獣人たちが学園卒業に合わせて婚約破棄をすると番に出会えるってジンクスになったらしくて。」


 「まぁ、私達獣人は身分より番の方が重要だもんね〜。うわっ、見てよあの人婚約破棄って言われたのに口元笑ってるし隠せてないよ。もうただのお祭りじゃん。あ、あっちではワインかけ合ってる。」


 「あ〜あのお二人は婚約してるけど大層仲が悪いらしいわよ。これ幸いとイベントに乗っかって婚約破棄したいカップルナンバーワンらしいし。」


 「また、ショコラ聞き耳立ててたの?」


 「あら、私の聞こえる範囲内で噂話する人が悪いのよ。」


 同じ大きな耳でも、兎族の彼女は地獄耳だ。まるで牢獄のような学園内でも動くことなく必要な情報が入ってくる。


 「私だって大きな耳なのに……。解せぬ。」


 同じ白くて大きな耳でも私の耳は丸い。なにせ鼠族。気配には敏感だがそれだけだ。おまけに体も小さい。


 や、視線が同じ高さということはショコラだって小さいはずなのに。


 「なんか変なブームきちゃってるねぇ〜。私は婚約者なんていないから関係ないけど。」


 「あら、それはわからないわよ?」


 にやにやしているショコラに怪訝な顔をむける。


 「なんで?」


 訳を聞こうとした私の耳に驚愕の叫びが聞こえる。


 「私は真実の愛に目覚めたっ!よってこの婚約を破棄してマシュゥ嬢と婚約するっ!」


 「はぁ?!」


 いやいや、ちょいちょい、ちょっと待て。あんた誰。


 大声の主を驚いて見つめるがその姿に覚えもない。何だ真実の愛ってハジメマシテですが。


 ツカツカと歩み寄ろうとする男子生徒から逃げるように数歩下る。するとどこからかさらに叫びが上がる。


 「ちょっと待ったぁぁ!!マシュゥ嬢との婚約はこちらが先だっ!」


 や、待て!あんたも知らん!


 状況が飲み込めずショコラを見ると、その足元に傅く3つの影。私よりモテてる。流石ショコラ!


 って違う違う。


 よく見たら断罪?イベントを繰り広げている貴族獣人たちは次々と同じクラスの子たちに婚約を迫っていた。中には女性が男性へ花束を捧げているツワモノもいるし、後輩すらなりふり構わず侍ってる。


 私を含め、五人しかしない特別クラスの面々はこの異常な卒業パーティーでいつの間にか茶番の端役へと引きずりあげられていたのである。


 私のクラスは特別だ。


 別に成績優秀とか特別な変わった魔法があるとかじゃない。ただの希少種、と言えばそれまでなのだが、獣人の女が生まれにくくなっている昨今、人間を番にする以外で女児を産みやすくなる種族が見つかった。


 それが花獣人である。


 獣人でありながら生まれながらにその髪に花を咲かせる突然変異体、または先祖返りと言われており、その正確なことはまだ未知なのだそうだが……。


 花獣人は髪に花を持つことからその名がついており、発情期に入ると一際甘くい匂いを放つ。つまりフェロモンが強すぎて番でもない異性がその香りに抗えず番だと錯覚を起こすらしい。また、生まれながらに見目麗しいのも特徴で、酷く庇護欲をそそられる。おまけに花獣人の子は女であることが多いらしい。


 その為襲われたり人身売買として高い値がつく、価値ある女を生ませるなど社会問題となり、花獣人は生まれてすぐ国が預かる事となる。


 成人となるまでは国が管理し身を守る術を身につける。それができない者は番を見つけるか、国に管理されるままその生涯を終えるらしい。今のところは上位貴族との結婚が用意されるとか。


 つまり、このよくわからんジンクスにかこつけてついでに希少種を手元に置こうということだろう。実に不快な話だ。


 思わず耳がピクピク動き毛のない長しっぽが、びたーんびたーんと床を打つ。迷惑この上ない遊びだ。


 ご多分にもれず私は幼い頃から花獣人専用の施設で育った。ショコラともそこからの付き合いだ。もちろん親の顔も知らない。施設長の話によると、私もショコラも親は冒険者らしい。


 だから、私達二人には夢があった。


 保護という名の隔絶されたこの学園を晴れて卒業したら二人で北の街に小さな店を出そうと。


 北はいくつものダンジョンがあり、冒険者なら一度は足を向ける街だ。そこで店をしながらいつか来るかもしれない両親を探そうと約束した。


 その為の努力は惜しまなかった。獣人の苦手な魔法も剣も覚えたし、実はもう店だって購入済みだ。住居付き店舗で小さな喫茶店か雑貨屋ができるような場所で、日当たりが良くて心地いい小ぢんまりとした私達のお城。


 やっと自由の身になれるというのにお貴族さまの遊びに付き合ってうっかり婚約などした日にはまた檻の中になってしまう。


 そんなのゴメンだ。


 「ショコラ!行こう!!」


 そう言って彼女の手を取るとパーティードレスにもかかわらず中庭へと駆け出した。植え込みの中から丸めた紙を取り出して広げると地面に置いてすばやく魔力を流す。




 闇夜を裂くような光と共に私とショコラは夢の場所へと旅立った。


 「転移魔法陣……。」


 二人が消えた後に残されたそれを拾い上げた者がいるとも知らずに……。



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