(僕も、踊りたい。ステージで。人間が自分を削ってまで輝く場所で)
集まったファンたちもきっと、その輝きの瞬間を見届けるべく、アイドルを追い掛けている。
シウは観るだけでは物足りない。
自分も等しく削れて初めて美しさを認知できる欠片もある。
道やスタジオで踊るほうが屈託なく楽しいけれど、ステージについてくる緊迫感と非情と苛酷さでなければ骨の髄まで削れない。
やはり美しい骨とは一緒に踊ってこそだ。
まだ踊りたい――はじめから解けていたのに、失った後にわかるのは辛いから、わからないふりをしていた答え。
さも切り替えたように振る舞っていたのは、これ以上傷つきたくなかったからだ。
そう、思ったより傷ついていた。なぜならば。
シウはソンリェンに「なってほしい」と言われるまでもなく、アイドルになりたい。
きっかけはキャスティングで、自分で始めたわけではない。それでも虜になり、人生のもっとも美しい三年間を捧げた夢だ。
夢を小さく軽いものだと思い込めば、それが叶わない傷も小さく軽くなる、なんて暗示をかけていたけれど。
一瞬のきらめきのために、来る日も来る日も無心に努力したのを思い出す。
なのにどうしてシウは今こちら側に、ステージから離れたところにいるんだろう。
「みんなの声聞かせてー!」
ソンリェンがよく通る声を響かせた。
煽られた女の子たちがありったけ叫ぶ。もう居合わせた全員を魅了している。
同じ振り付けでも、より強く曲を印象づける。
同じ体格でも、そこにいるだけで場が明るくなる。
好きにならずにいられない。神様に選ばれ、アイドルになるために生まれた者の特別なチャーム。
ステージにいる彼と、それを眺めている自分との決定的な違いを、ありありと見せられている。
(……うん。夢を諦めるなら、きみのせいがいい)
手を振り回す女の子たちや立ち止まった行楽客と同じように、シウも笑っていた。
これこそを見にきたのだ。
劣等感が崇拝に反転する。焦がれた場所を、掴みかけたものを、他の誰でもなくソンリェンに奪われたのなら、納得できた。
――今夜から改めて美大を目指そう。
ちゃんと顔を上げて外を歩けるよう、部屋を片づけ、習作を再開するのだ。いつかまた踊るのと同じくらい夢中になれたらいい。
ソンリェンの告白については、シウが内なる箱にきれいにしまっておきさえすれば、彼がアイドルになるのを邪魔しない。シウの背を押す力にもなってくれるだろう。
初恋かそうじゃないかは、永遠に解かないでおく。
バスキングは続いていたが、シウはそう気持ちに区切りをつけて帰路に就いた。
片づけといってもアパートは狭く、浪人生に必要なものは少ない。
服を畳み、画集やテキストを並べる。
もう白いところがほとんどないパレットも洗ってしまおうとして、ふと手が止まった。
色と一緒に積み重なったものを洗い流して手放すのは少し勇気が要る。
もっとも、今のシウにはそれくらいの勇気はあった。
(さよなら、僕のすべて。……だったもの)
シンクの水音に紛れ、ベッド際の窓がカタンと鳴る。
風かなと放っていたら、
「ヒョン、夜ご飯食べましたか」
と聞こえた。