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第99話 エピローグ






「……そう、あの時って私、そんな感じだったんだ……」


 暫くして、寝たきり状態でいた時の事などを一通り聞いた澄美怜すみれはもう一つ、どうしても気になって仕方がない『あの事』を聞かずにいられなくなった。 おずおずと少し声をくぐもらせながら、


「あの……百合愛ゆりあお姉ちゃん……は?……」


「……うん……ちゃんと話合って……別れた」


「そう……なんだ――― もう……なんか、申しわけなくて……」


「でも、それは……完全に互いの意見が……一致してそう決めたんだ」


 遠い目となった深優人みゆとの目頭が熱くなるのが分かった。


「……私だったら出来たのかな」


 深優人みゆとは口に出せなかった。……凄く……泣かせてしまった、とは。そう、あれはそれこそまるで子を失くした親かと思う位だったから。


 敏感にそれを察知した澄美怜すみれ。やるせなさに大きくため息を吐きだし、


「あんなに好きで……決断……考えるだけでも辛すぎる……」


 と膝を抱え、また泣き出しそうだ。


「澄美怜のせいじゃない」


「でも……でももう……会えなくなっちゃうのかな……」


「今はそっと。でもいつかまた、あの頃のように話せるようになれたら……ね」


「……ん。……そうなれたら……」


―――ありがとう……本当にありがとう。私の最大の理解者、百合愛ゆりあお姉さん。


 暫くの間、感謝の気持ちで一杯となり、祈るような沈黙が長く……それは長く続いた 。





◆◇◆

 二人、気が付くと無心になって脱力し、壁にもたれて肩と頭を寄せ合って座っていた。


「落ち着いて来た? 疲れたろ。体に響くから今日はもう、ゆっくりしとこう」


「大丈夫。私、ずっと寝てたから。でも泣きすぎでちょっと頭痛いけど。フフフ」


「体、つらくないか?」


「下半身、動かして無かったから動き辛いけど、でも大丈夫。これからリハビリも頑張る」


「ああ、一緒に頑張ろうな」


 うん! ―――と力強く頷いた。そしてくりっとした瞳で深優人みゆとを覗き込むと、


「………ねえ」

「ん?」


「これからの私たちの事もちゃんと考えないとね。……深優人みゆとさん!」


「みっ、って何、いきなり!」


「だって兄妹じゃなくて、恋人同士が一つ屋根の下で暮らすんだよ。……だから呼び方だってちゃんとしなきゃだし」


「でもその……名前でってのは……その、なんというか、まだ違和感があるっていうか……」


「んー、なら、……あなた、は? 」


 !!……


「そ、そ、そっちの方が、ヤバイって!(危うくキュン死するところだった!)」


「でも記憶喪失のあと、そう呼んだりもしてたけど」


「それは俺が誰かよく分からない時だろ、意味が違うし!」


 目をそらし萌え狼狽うろたえている深優人みゆとの様子を見て、かつてのイタズラ心がムクムクと顔を出す。


―――クス、可愛い……


「あ・な・た」


「止めなさい! それは結婚とかしてからだろっ(はうっ!)」


 急に頬を染め、うつ向いた澄美怜すみれ


「……して、くれるんですか……?」


「そ、それは……いつかその時、澄美怜すみれが望むなら……」


 思わず兄の手に自分の手をそっとのせて、


「ありがと。そのいつか、待ってるね」


 載せてきた細い指を手の平で受け直す。無言のまま親指でその細い指を優しく愛撫する深優人みゆと


「じゃあ、しばらくは何て呼んだらいいの?」


 とアザとく愛くるしい瞳で覗き込んで来る。


 ……そんなの決まってんのに……ワザと?


「それは…やっぱり……」

「やっぱり?」


「お……」

―――「お?」


「に……」

―――「に?」


 ……あ、これはまた兄を辱しめてスンデレを楽しんでるな。……フッ。でもさせないよ。


「コホン、だから、今まで通りで……ってのはどうかな」


 等とすまし顔で切り抜ける。


 クス、お兄ちゃんたら。 ……それなら!




    ―――― いつかきっと……

「じゃ-あ-、しばらく私の方がぁー」




    ―――― 愛しいその名で呼んでも……

「そうしたい、って事にしといてあげる」




    ―――― 照れずにいられるその日まで……


『呼び方だけは、ね!』





  ~今までの最っ高の笑顔で~





「 お兄~~~~~ちゃんっっっ!!」




!! Σ>ズキュ――― (〃°⌓°〃)―ン――― ➸ !!







  〈 ついにキュン死のため――― 完 〉





※ 神が代償として与えた死はコレだったようです。







完読ありがとうございました。








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