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第97話  だって、お姉ちゃん……あんなに苦しんだんだ……






 そしてその青黒く深い悲しみの瞳からは大粒の涙が溢れ、それがゆっくりと宙に舞った。



―――こんな私を許して…… ―――



 同時に青黒いウォーターサファイアのような氷の鱗がみるみる剥がれ落ちてゆく。


 それを見た白い自分の慈愛に満ちた瞳が潤んで煌めいた刹那、突如二人の胸の中の白い核と黒い核が急膨張して一つに重なり融合。



 ピカァ―――――――― ッッ



 急拡大する光芒、巻き起こる大爆発。それは大鳴動と共に空間全てを光の海へと化した。


 その光の中心から現れた澄美怜すみれ。一つの存在に生まれ変わり、その衝撃で失神した状態のまま真っ逆さまにきり巻いて落下し始める。


 そのまま滝壺銀河に突入し、その中心の光のトンネルを抜けて、まるで天国を思わせる輝く雲状の大地へと叩きつけられた。




――――ドスンッ。




 その衝撃が全身に伝わり、走った痛みでその不思議な夢は終わった―――





 そのたただならぬ落下音。





 廊下の奥、それも澄美怜の眠る部屋の方角から響いて来た音に、ハッと目覚める深優人みゆと


 力尽きてソファーに横になって失神していた彼は、状況をどうにか捉えようと疲れきった体を起こす。


「ぅ……うう……」


 ……今の音……澄美怜の部屋?……






『―――― !!!』






 飛び起きて居間から音のした方へ猛然とダッシュする。




   . • * ¨ * • . ¸ ¸ ♩



 ベッドから落ちていた澄美怜すみれは、うつ伏せから上半身を起こし、ぼやけた視界から辺りを見回す。


 そこは夢ではない我が家の部屋が。



 廊下を駆けてきた兄が勢いよくドアを開けると、そこには信じられない光景。


「ん……んんっ……はぁ……はぁ……」


 と、車椅子を手掛かりにしてうめきながらガクガクと立ち上がろうとする妹の姿。ゆっくりと顔をあげ、兄を見ながら必死にこう言った。



「はぁ、はぁ、私……立……てた……立てたよ……全部……思い出せた……お兄ちゃん……」


「スミ……レ ?!……」 とただ呆然と見守る深優人。


 完全に立ち上がって、よろめきながら一歩、二歩と兄に近寄る。ずっと車椅子、そしてとこに伏していた澄美怜すみれは、その弱りきった脚で全力を尽くしてゆっくり歩を進める。



 何ヵ月も動かせず細りきった脚。

 それでも立てた奇跡と歩む強い意志。




 深優人も一歩、部屋へ入る。何も声に成らない


「ずっと……ずっと……こう……して……お兄ちゃんと……い、一緒に……はぁ、はぁ……

 一緒に……………歩きた……かっ……」


「……」


「はぁ、はぁ、……

 ったあああ――――――――っっ、

 うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――――――――――っっっっっっ」


 絶叫し、号泣する澄美怜すみれ


 ひざが持たずに遂にガクッと折れて崩れるも、素早く駆け寄って支え、抱き抱える深優人みゆと


 ただただ、今まで自分を偽って我慢してきた分だけ、澄美怜すみれは絶叫した。 まるで癇癪をおこした駄々っ子の様に、更に一段かん高くなって魂の限り泣き叫んだ。


「うああああああああああああああああ――――――っっっっ、わあああああああああああああああああああああっああ――――――――――――っっっ……」


 ただひたすらに泣きじゃくる澄美怜すみれ。抱き支える深優人みゆと が肩をさすり頬を寄せて、


「良かった……もう……もういいんだよ……もう絶対……離さない……」


「わああああああああああああああああああああああああ――――――――――っっっっ、

わあああああああああああああ―――――――――――――っっっ……」


 ただ受け止められるだけ、号泣を受けとめ続ける深優人みゆと


 胸の中でそのシャツにしがみつきながら、涙でビショビショにし続ける澄美怜すみれ


 そんな手にはまだ、いつかのシャツも握られたままになっていた。



  *



 泣き声は廊下にまで響き続けた。


 その開け放たれていたドアの外。兄の少し後に駆け付けた蘭が廊下側で壁を背に身を隠し、声を押し殺して泣いていた。


 ……さっきのは……邪魔してみせるってのは……取り消し。今は……今日だけは……お邪魔虫は終了。お姉ちゃん、思いっ切り甘えていいんだよ……



 姉の泣き声は時折切なそうに烈しい嗚咽に変わる。息も出来ぬほどに苦しそうな嗚咽。そして再び叫ぶような泣き声に。


 ……それほど嬉しいんだ!



―――もう大声で泣きたくなる蘭。


 だって、お姉ちゃん……あんなに苦しんだんだ……


 そう思うともう声が!


 でも絶対二人の邪魔になるもんかっ!


 寸前で必死に口にフタをして無理矢理押し殺して宙を仰いだ。


「うぐぅっっ」


 押し殺した感情は行き場を失い、その大きな瞳から滝となって逆噴出してしまう。


 目から滝ってホントにあるんだ……


 そこへ更に兄も泣いているのが聞こえた。


 『お兄ちゃん!……』


 あの冷静で忍耐強いお兄ちゃんが大きな声で男泣きしている!


 そんなの聞かされたら切な過ぎてもう止め切れない!!


 慌てて更にもう一方の手で力を加え、前屈みになって強引に押さえ込む。それでも声が!……



『んぐぐぅっっっっ!!』



 そのしわ寄せで押し寄せた更なる激しい噴出。


 苦しく歪められたその両の目からは瞬きの度に飛沫しぶきとなって歓喜の大雨スコールを床に撒き散らし続けた。


 全身震わせながらのその雨量。


 それは、姉のものより多いと思える程だった―――



 次回、最終話。






――――――――――――

推奨BGM 兄がドアを開けて驚くシーンから蘭の歓喜の大雨まで


▼look To The Stars

https://youtu.be/24k-MQnSNZk?si=AS1jN8-3wB7tIvFy


. • * ¨ * • . ¸ ¸ ♩  このマークからラストまで、宜しければBGMにして再読してもらえたら。

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