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第96話 お前は望まれずに生まれて来てしまった








 ……うう……お姉さん……ありがとう……


 胸の中で心からの礼を唱え、涙を袖で力強く拭って振り返り前方へと刮目する。



 この時、ようやく認識した。自分の命は自分の想いだけで成り立っているのではないと言う事に。



 ……だったら……


 幸せになれるか以前に……

 皆の為にも…… 

 そしてここ迄してくれたお姉さんの為にも……


 ―――幸せになる覚悟が必要なんだ!!



 遂に澄美怜すみれの愛らしい瞳に未知なる世界へ踏み出す決意と覚悟の光が宿り、そして遥か先を見据えた。


 視界には月に照らされ、光の粒がより一層舞い降りて、波立つ湖面に反射する光がキラキラと照り返す。


 魂が吸い込まれるような美しさに澄美怜すみれは心奪われ無心にその世界に浸った。


 照り返し燦めくその光のいざなう水面の道しるべを辿る様に進むと、森の夜空は開けて行き、やがて水平線の果てへと近付く。


 すると『ドドドド』と聞こえて来る大轟音。


 そこは広大な宇宙の谷へと落ちるナイアガラフォールズの様な光の滝となっていた。




 そこへ神の声のようなものが頭中に鳴り響いた。



≪ その滝壺の渦の先にお前の求めるものがある ≫



 そこへと飛び込む覚悟を決める澄美怜すみれ

 落下点に差し掛かり大きく宇宙の谷底へと舟首を傾ける。


 進み行く舟ごと成すすべも無く光の滝を落ち始めると、落下と共に舟と体は離れて行く。


 見えてきた滝つぼは、まるで光と闇が渦巻く銀河。


 光の滝を真っ逆さまに落下しながら加速して行くと、子供の頃からのあらゆる記憶の破片がキラキラ輝きながら体へとぶつかってくる。

 それを受け止める程に輝きを増してゆく澄美怜すみれ


 ……お父さん、お母さん……


 お兄ちゃん、お姉さん……


 蘭ちゃん……薊さん……



 落下が進む程、次第に愛の光をまとってゆく真っ白な自分。




 すると下方から遂に姿を現す




―――闇の自分が睨みながら上昇して来た。




 先へ行くのを阻止せんと下方から急上昇してくる青黒く鈍い光沢の氷の鱗を纏った過去の自分。



―――正面から対峙。



 グオォォォォォォォォォォォ―――― ッ



 近付くに連れ、互いに物凄い圧力を放ちあう。


 更に近付く程に速度が落ち、巨大な相反するエネルギーがまるで強力な磁石の反発のように寄せ付けずに立ちはだかる。



 放たれる膨大な白と黒のエネルギーの光芒が大きく弾け合う。



―――黒い自分のテレパシーが響く。


《これ以上行かせない! お前は望まれずに生まれて来てしまった。恨みと不幸でまわりを巻き込む前に消えるべき!! ―――》



―――白い自分が応える。


《あなたを苦しめた存在は自らの過ちに気づいて天に召された。もう全てを許してあげて》


 黒き自分は聞く耳を持たず、腕を大きく煽り、背後から夥しい青黒い氷粒群を爆噴させ総攻撃してくる。



『これでも喰らえ!』



 白き自分はかざした両の掌からヴァイオレットのそれを思わせる花弁状の威光を噴出。


 ……私は行くっ! 全てを捨てて私に譲ってくれたあの人の為にもっ!!!!!



 押されつつも踏ん張り返し、氷粒群を向かえ撃ち全て消し去ってゆく。



《往生際が悪いっ!  お前は死ぬと決めたんだろうが―――― っっ!!》




《ううっ……そ、それでも……みんなの想いを無駄に出来ない……。それに……あなただけ苦しんでるのはおかしいって……教えてくれて……私もそう思えたんだ……》



《うるさいっっ!! 呪い呪われたくなければ今すぐ消えろ―――っっ!!》



憤りの収まらぬ黒い自分は恨みの化身と化して巨大化。




 そして第2群の信じられないほど圧倒的な量の氷粒を渦巻き滝壷銀河の底から湧き起こし、猛然と襲い掛からせて来た。


 空間を満たすそのあまりの数に白い自分が怯んで後ずさりしたものの、



 ―――ここで逃げたら駄目だ、私は信じる! 私に力をくれた皆を!



 その瞬間、滝の上から大瀑布となって辺り一面を埋め尽くす程の光る花びらが降り注ぐ。百合、カトレア、薊、そしてブルーエの花弁状の光りのシャワーが加勢して、膨大な氷粒群とぶつかって打ち消し合いを始めた。


 それはまるで銀河同士の衝突の如き攻防―――


 激烈な凌ぎ合いは二人の目の前に事象の平面となって境界を生じさせ、やがて時空を歪める臨界に達して全て消滅し合っていった。




 静まって行く内なる宇宙空間――――




 反発しあう圧力が消え、自由になった二人は遂にそこで出会う。


 無重力状態で正面からゆっくり近付くと、互いに両手で相手の頬をうやうやしく包み、見つめ合う。


 テレパシーが両の頭に響き、白い自分が言った。




『今までゴメンね、ちゃんと向き合えなくて―――』




 黒い自分は


『全てを否定するしかなかった……もう恨まなくていいの?……私は生まれて来ても良かったの?……』


『そう。今まで独りで抱え込んで、よくえたね。頑張ったんだね……でもね、私は孤独じゃなかった。皆に支えられてた。そして全部分かってくれてた人もいた。

 その人が教えてくれたの。もう、報われてもいいんだよって……』


 その一瞬、黒い自分は懺悔の念と恩赦への感謝を伴って大きく眉をひそませる。




 そしてその青黒く深い悲しみの瞳からは大粒の涙が溢れ、それがゆっくりと宙に舞った。



―――こんな私を許して…… ―――





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