『――――助けて兄さんっっっ!―――』
……す……
: + ゜゜ +: 。 .。 + ゜
『でもその答えが出た時、相手にいかなる犠牲を強いてでも共に居たいと願う様な事があれば、その時こそ、ここに来ないと、ですね』
: + ゜゜ +: 。 .。 + ゜
澄美怜が呼んでいる! 助けを求めている!! ――――指先がピクリと動いた。
……くっ、クソ~ッ、体が動かねぇ……動け……動け……動いてくれ……
ただ全力で祈り、念じる
『あと10回なのに……』
とその時、澄美怜との楽しかった思い出が。
: + ゜゜ +: 。 .。 + ゜
『―――ねえ、ところでトレーニングって辛いんだけど、特に最後に後もう1回とか、力が入らない時ってどうしたらいいカナ?』
『……『あと十回が辛い、なんて時に 《この十回は家族の誰かの分》て事にするんだ、そしてそれをやり遂げなければ助けられない、とかって設定にすると踏ん張れるんだ』―――
: + ゜゜ +: 。 .。 + ゜
……こ、この10回は……世界一大切な……
落雷と暴風雨の中、這ってでも進む
―――そして遂に10回をやり切ると、その刹那、不思議な声が頭中に鳴り響いた。
≪ お前の願い、確かに受け止めた。今からカギを渡す。後はお前達次第だ。
その直後、完全に意識を失った
即座に家へ向かって走り出した。
急いで家に帰り着いた
……蘭!
ダイニングの片隅でポツンと座っていた蘭の背中を見つめて、ハッとした。何かの勘が働く。
……≪ 最も身近な協力者にしっかりと動いてもらう事だ……それがカギとなろう ≫
このところ激しく塞ぎこむ蘭。部屋では隠れて毎日泣き暮れているのを知っている。痛ましすぎて姉の部屋へもあまり行けていない。
昨日など絶叫して泣くのを布団でくぐもらせた様な声が部屋から延々と聞こえた。
それを何とかしてあげたいと思っていたが、この日も居間で呆然と虚ろになっている。
「さっきお姉ちゃんの所にずっといたらね、一筋だけ涙が流れたんだ……」
!! ……っっ………… お姉ちゃん!……
蘭はテーブルに突っ伏して泣き始めた。だが兄は諦めない。
「それにね、今、お百度を踏んでたら、助けてって声が聞こえたんだ」
「お姉ちゃんっっ!!」
思わず跳ね上がる蘭。そして振り返ると、とんでもない状態の兄の姿におののく。
「……って、どうしたのっ!? ずぶ濡れ……。それにあちこち血が!……」
「俺の事はいい、
いつだってこのチームでお姉ちゃんをサポートしてたんだから、これからも続けるよ。そう、今、蘭が自分なりに
気を取り直す蘭。自分に出来る事を探す。
「……うん。お姉ちゃん、調子悪いだけだよね。あ、そうだ、あれ頼まれてたんだ!」
勢いよく動き出すと何やら準備に取りかかる。
それを見届ける
《カギは渡された。お前の出来る事はここ迄だ》
そう聞こえたと思った途端、張り詰めていたものが一気に失われ、ガクンと意識が遠退いてソファーに崩折れた。
*
蘭が姉の部屋に入って行く。もう2日近く目を覚ましていない。だが声にして、
「お姉ちゃん……」
もちろん返事はない。
「あの日頼まれて握らせたシャツ、顔の近くに置いてもらったんだぁ。ふふ。どう? 夢の中でもデレッとしてるの? こんどまた私にも匂いを分けてね。
……それとコレ、好きなやつ、持ってきたからね。湯タンポ」
そう言って毛布の中、お腹に載せてあげた。
一気に思い出す楽しかった日々。
いつも優しかった姉、
一緒にお茶目にふざけ合ったこと
お兄ちゃんを取り合ったこと……
「もう起きる時間ですよ」
いつも勉強教えてくれて
お兄ちゃん励ますため一緒に作戦立てて
本当に困った時に毅然として助けてくれて
「もう起きなさい! 起きないとまたブチュってしちゃうよ!…………」
一緒にお兄ちゃんストーカーして
お姉ちゃんの趣味のアニメいっぱい見せられて
お兄ちゃん取ったら本気で怒られたこと有って……
「また一緒に展示会行って、ランチして、服選んで、カフェに行って……
ねえ、また一緒に行きたい……行こうよ……行きたいよぉ………お姉ちゃん……お姉ちゃん……お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃんっ!! ――――おね ……っんんっ …… 」
横たわる体にすがりつき、すすり泣く蘭。
ググッ……
しかし突如として拳を握り唇を噛み締める蘭。
その美しい蝋人形のような顔を睨んだ。
……今まで何度だってお姉ちゃんのもの欲しがって横取りして来た。何度だってかまって欲しくてお邪魔虫して来た。実妹の私がやらなくてどうする!
「お姉ちゃん、今度だって絶対に邪魔して見せる! 絶対に、人形なんかにさせないっ!」
再び手をとり、愛しくさする。
……あ、手が以前よりこんなに冷たい……
これじゃ足らないんだ……ちょっと待ってて
暫くして何やら手にして戻ってきた。
「秘密兵器。レンジでチンするゆたんぽ。小遣いでいっぱい買っといた。もう冷えてつらいなんて言わせないよ。まずはハイ! 2個追加。
もう暑くなっちゃって寝てなんていられないからね……」
『いつもありがとう。さすがだね、このタイミング』
かつての姉の感謝の声が脳裏を過ぎった。
こくりと頷いて『当然でしょ』と頭中で返した。
「……それと、今さっき、薊さんからボイスメッセージが届いたから再生していくよ。……じゃ、またあとで来るね」
そう言ってスマホのアプリを立ち上げると、よく聴こえるようボリュームを最大にして顔の横に置きながら、
「
だから頑張って!! 」
……私も頑張るから。
―――絶対起きるまで何度だって運んで邪魔しに来るんだから!……
*
青黒い夢の中。
閉ざされた闇の中で、微かに人らしき声が聞こえた。応えようと、
『ああ、誰?……誰か居るの?』
と、呼びかけるも声が出ていない。
動けないのだから当たり前。だが外から見ても氷の岩にしか見えない筈が、迷いもなく
そうだよ。助けに来たよ、と氷漬けの中にくぐもって響く声と気配を感じた。
その声は、蘭ちゃん?! ――――どうして私が?
「待ってて、お姉ちゃん。今溶かしてあげる」
そう言って勇ましく伸ばしたその右手から、
「はっ」
まるでアニメの魔女っ子みたいに光る花びらを大放出。凍った一山に浴びせ続けた。みるみる解凍部位が広がって行き、氷の塊から姉が姿を現す。
やがて全身が露出すると、左手からも『えぃっ』と加勢、見る間に全てを溶かし尽くす。
笑顔で『さぁ』と声をかけ、姉の手を掴み体を引き起こす蘭。得意げのどや顔。
「何でここが分かったの?」
「私こそがお姉ちゃんの唯一血の繋がった姉妹なんだよ。お姉ちゃんストーカーの私が見つけられなくて誰が見つけるの! 」
「ぅ……グスッ、さすがだね……」
「本当言うとね、ずっと泣いてたの。でも、お兄ちゃんが教えてくれたの。お姉ちゃんはまだちゃんと心が続いてるって。だからお兄ちゃんのお陰でも有るんだよ」
……お兄ちゃん!
「さあ、もう動けるから早く! 時間が無い、あっちへ向かって走って!」
「う、うん、ありがと、蘭ちゃん」
「 間に合わなければ永遠の眠りだからね、とにかく急いで!!」