『お兄ちゃんスマホ見過ぎ! ホラ、こんなに肩凝ってる。ちょっとほぐしてあげる』
そんな風にしていつも肩に手をおいて、さりげなくスンスン……
一気に思い出されるあの頃。
―――お兄ちゃんっ 朝食のスンデレ
―――お兄さん フロ場で背中を流してもらった
―――お兄ちゃん 筋トレの時も……話しするのが好きで
―――兄さん 苦しくてすがって来て熱く抱擁した時も
―――お兄ちゃん ひとり塞いでいる時も声掛け続けてくれた
―――お兄 拗ねてる時も愛らしく
―――兄さん 遠ざけ合って、抱き合って謝り合った時も。
ライバルに取られまいと邪魔する時も
車イスになろうが
記憶を失ってさえも…… それでも……
いつも俺だけを見ていてくれた。命までも賭けて。それなのにこの子の存在を大切に思うあまり、追い求めて焦がれていた一言を遂に一度もまともに伝えてあげられなかった……気持ちを……大事にしてあげられなかった。
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『でも、それを口にする覚悟までは無かった。確かに好き、嫌いという紙一重の感情とか、一時的な想いより深い愛の方が相手を思いやる気持ちとしては上回ることも多いかも知れない。
でも、その時々で本当に必要なものを与えるのが真の愛なら、
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……ああ、こんな事に成るんだったら、自分のこだわりなんか全部捨ててでも言ってやるべきだった!
「……好きだ……大好きだ……
しかしもう動かない。届く筈もない
「今さらだよな、俺はなんて大バカだっ、頼む! 動いてくれ! 俺の大事な人なんだ」
……なんでお前の方が苦しまなきゃならないんだ! あの時俺がしっかりしてれば……
そんな想いが
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『俺がその一言を言えなかったばっかりに……』
『……でもそれは無理強いして得るものじゃないから……だからもういいです……それが出来なかったあなたには……
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……体以上に……心を守ってやらなきゃいけなかったのに……ううっ……
「 ……澄美怜 ――――っ!!!」
呼びかけも空しく湿った声だけが部屋に響く。
暫く悲嘆に暮れてただその髪をなで続けた。
ようやく気を取り直し、毛布をかけ直す。
そして
『こういうのがいいんだよな』
とささやきながら、優しく頬に指を添わす。
……こんなに冷たくなって……このままじゃこの先は……
でも今は祈る事しか出来ない。だから心細くならない様に祈るよ、どうか夢の中でも俺やみんなを感じれます様に―――
「また来るよ」 と言って部屋を出た。
自室へ戻り、立ったまま声を殺して涙を落とし始めた
……神様、この子は優しくて本当にいい子なんです。どうか何とか元に戻す方法はないんですか。だって生まれてすぐに……いや、それ以前から心に深手を負って……
かわいそ過ぎじゃないですか?……この子には何の罪もない筈……」
恨めしそうに天へと刮目して訴える。
「俺なんか死んだっていい、どうか、どうか神様っ!」
その瞬間、雷に打たれたような衝撃が貫いた。
≪≪ お前に死の覚悟があるというのか。……分かった。それと引き換えでも良いと言うのだな。
良かろう……ならば見せてみよ、その覚悟とやらを! ≫≫
「神……様……?」
『―――今神様が言った気がしたんです。……お前が真の願いに目覚め、それを本当に叶えたいと思ったならば、もう一度ここへ来て全てを捧げて祈りなさい――と。さすればそれを叶えよう……と……』
『―――私、ほんとの望みは分かってるんです。日記に書いてあったから……』
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『だから何があってもこの人が望んでくれる限り、この人のために生きてそれを叶え続ける事が自分の全てだと……。それが真の願いのはず』
『だからその時の日記にはね、この兄にもしもの事があったらこの人の為に死ねたらそっちの方が本望だ……って。元々死に場所を求めていた人生なんだしって』
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……本当の望みはどっちだ……?
そう、
そう、そこに真意が有るはず! だったら
気がつけばもう矢も盾もたまらず走り出していた。
道すがら降り出した雨。暴風雨の予報が出ていたが今の
到着するや、仁王立ちで意を決する。
―――お百度参りで神を叩き起こす!!
直ぐさま周り始めると、まるで彼を試すかのように大雨となり、見る見るうちに激しく打ち付けてくる。
たった3m先でさえ見えない程に荒れ狂う嵐。
やがて強い向い風になると目も開けられない程に。体も前に進めない。極度に前方へと体を傾けて全力で歩を進める。
……こんなの、
と速歩で回り続ける。むしろ速度を強め、あらん限り急いだ。先ほど
やがて猛烈な雷雨となって空気を切り裂く轟音と明滅する閃光。そこかしこ、間近に轟く雷鳴の轟音。
それでも『負けるもんか』と踏ん張り続ける深優人。 遂にその往来は90回を越えていた。
3時間以上もずぶ濡れで、それも冷気と強風に曝され続けたせいで体温を極度に奪われ、冷たくなった体はまるで今の
だが、『澄美怜はこの冷たさにだってずっと耐えて来たんだ!』と挫けるどころか逆に燃えている。とうに体は限界を越していると言うのに。
あと10回 !!―――いや、神様が願いを聞いてくれる迄は何度だろうと祈り続ける!! と鬼気迫る。
ビシャァァァァァ―――― ン
だがその時、すぐ側の巨木に落雷し、深優人の体程もある枝が落下、頭部を強烈に打撲し、その下敷きとなって突っ伏して意識を失ってしまう。