「だから、『友達』でならいいよ……会う頻度も減らしてもらって」
「もしっ!……もし拒むなら―――……友達にもならないからっ!」
そこで以前
案の定それは奏功した。記憶が欠落しても
共に見るアニメは
そこで
その作品は『S月は君の嘘』。感動泣きアニメランキングで常に上位を争う傑作の一つ。二人で涙を拭い合った思い出の作品。
不遇のヒロインがどんなに厳しい状況に陥っても、最期の最期まで主人公にこだわり、関わり続けたその物語を再び観る事で、
記憶を飛ばした
『ひぁ~、かをちゃん可愛いね~! それにヴァイオリンの演奏姿がメッチャ格好いい!』
『それに応えられるコーセー君のピアノも凄いよ』
『それにこの演奏の描写、ハンパない!』
『この頃のこの製作会社から過労死が発生したほど、皆頑張ってたらしいよ』
『コーセー君、トラウマに潰されそう……』
『それでもかをちゃんが居るから続いてる』
夢中に画面に釘付けになる
あの頃、こんな風に語らいながら楽しく歓談しつつ見終わった頃には互いに作品のファンに。そして傷心の自分を救ってくれてた姿も脳裏に去来する。
『でも……かをちゃん、何か、病気で可哀そう』
『うん。でもちゃんと一所懸命生きようとしてる』
『えっ、えっ、……まさか、コーセー君、かをちゃんの期待に応えなきゃ!』
『ここはホントに乗り越えて欲しいね』
あの頃のように時間を忘れてイッキ見でクライマックスに突入。
『こんな……美しいラストシーンなんて見たことない……でもそんな! そんな最期なんて……』
『でもね、俺はこの後のシーンが……本当に……もう……』
ラストシーンにぐじゃぐじゃになりながら画面に食い入る二人―――ボリュームを上げる
<<―――後悔を天国に持ち込まないため、好き勝手やりました……好きです!……好きですっ! 好きですっっ! >>
『うくっ……で……でも……こんなの……』
うあぁぁ―――― ……
二人して泣いた。
思いきり泣いた。
そして
―――この子は想いを伝えきった……全力で生きて、爪痕残して……あの人の糧となって……成長して貰えて……それが出来て
これはきっと不幸だったんじゃない……
**
―――
何かと部屋に寄っては友人として接する
これなら……と心地よく会話する
……私はあの人の友達だ。それは肉親ではない事を意味する。だから一生の付き合いでなくとも良い、そう、これは縁故との決別宣言のつもりだった……はずなのに……
友としても続く
昨日も見た氷の悪夢。その氷結範囲は下半身からやがて全身に及んで行く。疑い様のない暗示を感じる
日記にもあった『いずれこの夢は正夢になる』という嘗て綴られた思い。その記憶が今の
……これから遠ざけて行きたい時の『好き』という感情は、切なさ以外何の生産性もないじゃない!
一人、部屋の中。ベッドの上でどんどん息苦しくなってくる。
今日は左腕がもう殆んど動かなくなっていた。
……悲しいよ……泣きたいよ……助けてよ、兄さん、好きだよ……大好きなんだよ、その気持ちだけが消えてくれない……ずっとずっと一緒にいたいのに……
どうして……どうして私ばっかりこんな目に合うの………?
どうして……
……
……
『 ……どうしてなのよ――――っっ!! 』
バシャアッ……
投げつけたプラコップから壁床にバラ撒かれるお茶。嘲笑うかのような軽い音を立ててカラコロ転がっるプラコップ。
う……うぅ……
心では泣いたものの、涙はこぼさなかった。それ以上何も考えられず、瞬きもせず10分以上微動だにしなかった。そして深く、どこまでも深く考えた。
廊下では看病に立ち寄る蘭の姿。
……お姉ちゃん……
ドアレバーに手をかけようとした間際、叫び声を耳にして固まっていた。
気丈に振る舞う姉の本心を知り、余りの遣る瀬無さに声を殺して泣きながら引き返した。